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※打切※ 機甲操兵アーカディアン  作者: 天城リョウ
第2章
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艦長か提督か

 古来──


 軍艦は戦うための設備を詰めこむ分、客船より居住空間が狭くなりがちで、それはこの地球連邦軍で最新鋭の宇宙戦艦、アクベンスでも変わらない。


 何千人という乗員の内、大多数の一般兵士たちは数十人ごとに大部屋で寝起きし、幹部たる士官たちでも2人1部屋が基本。トイレ・シャワーつきの個室に住めるのは艦長や各科の長などに就いている高級士官に限られる。


 なおアキラを病院から艦まで連れてきてくれたイシカサ・ツキノ大尉は飛行長──ブランクラフト隊こと飛行科の長──で、数少ない個室暮らしの1人。


 これらは艦の正式な乗員たちの場合。


 艦内には部外者用の客室もわずかにある。その中で最上級の個室であるひんしつは広さと設備は高級士官の部屋と同等、内装の華麗さでは上回る。豪華客船のスイートルームのようだ。


 その貴賓室でアキラは暮らすことになった。


 賓客として最大級のもてなしを受けながら。


 地球連邦政府がアキラをいち自国民としてより、現在 交戦中のルナリア帝国の皇帝タケウチ・ツヅキの甥──帝国から正式に認められてはいないが事実上の皇族──として扱っている証だ。


 敵の親玉の身内だから丁重に扱うというのも妙な話だが、捕虜に取った敵国人でも人道的に扱うのは近代国家として当然だし、それが重要人物なら対応はより慎重になる。


 連邦は帝国との和平交渉を望んでおり、アキラを大事にすることで先方のご機嫌を取っておきたいのだと、ぶっちゃけた事情をツキノ大尉が話してくれた。


 どうにも実感が湧かない。


 ほんの1年半前までタケウチの血族であることを知らず庶民として暮らしていたアキラは、事実を知っても自分を皇族とは思えず過分な接待を受けているようで、かえって恐縮してしまう。


 それに将来はブランクラフト操縦士として軍艦の乗員になろうと志している学生の身としては、その乗員たちより豪華な部屋をもらうのは気が引けた。


 だが〝もっと粗末な部屋にしてくれ〟と言っても困らせるだけ。それに疲れた心身が快適さに抗えず、結局は受けいれ、初日はその大きなベッドで泥のように眠った。







 翌朝。


 アキラは部屋まで男性兵士が運んできた、やはり高級ホテルのそれのような美味な朝食を平らげ、食後に渡された青い制服に着替えた。


 それは地球連邦軍の軍服に似ているがデザインがやや異なる。連邦軍の、軍人ではないが軍で働く民間人〔軍属〕のための制服──身が引きしまった。


 これから、この艦での仕事が始まる。


 時間になり、迎えが来て、部屋から出ると──そこにいたのは短く刈った亜麻色の髪の下に爽やかな笑顔を浮かべ、長身を青い軍服に包んだ、30歳くらいの男性だった。



「おはようございます、ミカド・アキラくん」


「はい! おはようございます‼」



 男性がサッと右手を額の前にかざして敬礼したので、アキラも釣られて同じポーズをして答礼した。しながら目が男性の軍服の襟元に向かい、そこに輝く階級章を──



「⁉」


「そして初めまして。自己紹介が遅れましたが、僕がこの宇宙戦艦アクベンスの艦長、地球連邦軍 少将オオクニ・タカノです」


「か、艦長さんでしたか! 初めまして、ミカド・アキラです! ……あ、でも、階級が少将でしたら……艦長より、ていとくとお呼びしたほうが?」


「いや、艦長がいいかな。説明するけど、歩きながら話そう」


「は、はい!」



 アキラはオオクニ艦長と2人で艦内を歩きだした。廊下に窓はなく圧迫感がある。装甲に窓の穴を開けると脆くなり、軍艦には適さない。それは元からの知識で分かった。


 分からないのは──



「それで、僕の呼びかたは提督より艦長がいいって話だけど」


「はい」


「アキラくんは〔提督〕の定義を知っているんだね?」


「自信はないですが……」


「間違ってても笑わないから、言ってごらん」


「では……昔の海軍において、複数の艦で編成される部隊を指揮する司令官や、より上位の司令長官や総司令官への敬称です。それらの任に着くのは階級が〔少将〕以上の〔将官〕で、そこから転じて役職にかかわらず全ての将官の敬称となりました」



 軍の階級は上から──



【将官】大将 中将 少将

【佐官】大佐 中佐 少佐

【尉官】大尉 中尉 少尉



 ここまでが幹部。


 一般兵士は──



【下士官】曹長 軍曹 伍長

【 兵 】兵長 上等兵 一等兵 二等兵



 なお大将の上に元帥、少将と大佐のあいだに准将や代将、少尉と曹長のあいだに准尉といった例外的な階級もある。



「うん、昔はそうだ。では、今は?」


「はい。地球連邦軍に昔の陸海空軍といった境はありませんが、それに相当する組織は連邦軍内の部門として残っていて。その内、海上艦にしろ宇宙艦にしろ艦艇に乗る部門にいる将官が〔提督〕と呼ばれます。他の部門の将官は〔将軍〕です」


「正解!」



 艦長が朗らかに、力強く宣言した。


 アキラはほっと胸を撫でおろした。



「だから船乗りで将官である僕を提督と呼ぶのは、間違いではないんだ。でも〝複数の艦を指揮する者〟って提督の原義からすると1艦の艦長に過ぎない身でそう呼ばれるのは分不相応で恥ずかしいから、勘弁してってことなんだよ」


「なるほど……あの、お聞きしてもよろしいでしょうか」


「なんだい? なんでも聞いてくれ」


「ありがとうございます。では、なぜオオクニ艦長の階級は少将なのでしょう。戦艦の艦長は、大佐が務めるものだと記憶していたのですが」


「間違ってないよ。ただ、役職と階級の昇進が同時とは限らないんだ。手柄を立てれば階級は上がるけど、上がったあとの階級に相応しい役職が空いてなければ異動できないからさ」


「つまり、大佐の時に艦長になられて、それから武勲を挙げて少将に昇進されたものの、少将にふさわしい役職に空きがないので、まだ艦長を続けられている……?」


「そうなんだよー」



 艦長は悩ましげに腕を組んだ。


 が、顔は残念そうに見えない。



「上の誰かが死ねば僕も名実ともに提督になれるんだけどねぇ。まぁ、この歳でもう艦長になってるのからして上官がバタバタ戦死してったおかげだし、次もすぐでしょ! あはははは‼」


「笑いごとですか⁉」



 アキラは反射的にツッコんでしまった。気づけば将官が相手だと緊張していたのがほぐれていて、そうさせてくれた艦長の気さくさを好ましく思えた。

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