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Mark2 人型加速指輪騎士2  作者: 三価種
Chapter1 三都襲撃
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No.6 アトラス

 ようやくだ。ようやくアトラスが目視できた。



 ブルドーザーは西側よりも東側を重視しているらしく、まだ神宮付近の建物は生きている。だから、直下の鉄道も無事だ。



『人影なんてないけどね』


 確かに、見える範囲に人はいない。s



『それでも。でしょ?わかってるわ。下の山手線を越えた道路の次。その道路の下に東京メトロ副都心線も通ってるから気をつけなさい』


 了解。線路を越え、次いで、ブルドーザーめがけてワイヤを発射。この付近にいるブルドーザーはこいつだけ。こいつを行かせなければしばらくは二つの鉄道の安全は担保できる!



 こいつのコアはどこだ? ……わからん。ひっくり返せば起き上がれないか?



『いや、亀じゃあるまいし』

『亀でも起き上がれますよ。博士。運転席のような場所がありますので、そこを調べてみてはいかがでしょう?』


 だな。無人で動いている。だのに、普通のブルドーザーのようにスペースが確保されている……なんてめっちゃ怪しい。



 扉っぽいところを強引に押し開……けない。ちいっ、ならば。



『やめて!?確かに掌銃や脚銃の装填機構は敵の装甲を抉るのにも使えるけど、くんずほぐれつにひと塊にして抉り取っちゃう!最悪、爆発しかねないわ!』


 面倒な。なら別の方法でこじ開け



『マスター!』


 また砲撃



『いえ!ガトリングです!』


 !? 慌ててアトラスの方を見ると、炎で照らされた両手がキュルキュルと回っているのが見えた。



 そりゃそうか。武装が砲台だけなわけがない!



 勢いよく飛びのくと、弾丸がブルドーザーを貫き破壊。こちらの動きを追い、先読みするように弾が飛んで来る。



 回避は出来なくもない。が、回避しているとあっちに近づく方法がほとんどない!



 ブルドーザーが整地していなければ、適当な建物にぶっ刺して飛べるのだが……。破壊されつくしているせいで、それは出来ない。



『一応、手段はないこともないのですが』

『絶対に拒否られるけどね。飛んでるヘリを使えばいいのよ』


 !? 論外。救助に来ている人々を巻き込んでどうする。



『報道ヘリも来ていますが?』


 救助じゃなければいいよね! ってか? 巻き込んでどうする。



『そもそも情報源を潰しちゃ駄目でしょうに。情報の枯渇は人を狂わせるわ。それに、漠然とした不安にある程度、明瞭な形を与えられる。それは、不安の制御に役立つわ』


 だから、ワイヤでぶっ刺せるものは何もない。



『東京スカイツリーが近くにある以上、高度900 mを切ってるヘリは落としてもいいのでは?』

『えっと、航空法施行規則だっけ?かつての東京ならまだしも、今の東京なら人口密集地と言えるかが、微妙じゃないかしら?言えない場合、150 m以上ならセーフになるわ』

『ならそれ以下の報道ヘリは?』


 それでも駄目だろ。そもそも俺に人の生殺与奪権なんてない。



『てか、アイはなんでそんなに報道ヘリに執着するのよ』

『救助ヘリは死ぬ覚悟のない人を助けに行っていますが、報道ヘリは落ちても死ぬ覚悟のある人が死ぬだけです。死ぬ覚悟のある数名の死と幾人かの悲しみで|悲劇が軽減できる《アトラスをより早く倒せる》のなら、アイたちは後者を選ぶべきではありませんか?』


 なるほど。行きつくところはそこなのか。



 ほとんどの人間が持てないであろう大を活かすために小を殺す。そんな冷酷なまでの合理主義。アイの根底にあるのは俺を生かして帰せかつ、犠牲者を出来る限り減らすこと。きっとこれだけ。



 もしも、俺が俺の体を動かすより、アイが俺の体をうまく動かせるなら、俺の意志に関係なく操ってくるのだろう。



『その場合、あんたは普通にアイに体を明け渡しそうだけど』


 かもしれない。ま、それはどうでもいい。うだうだしすぎているとアイが手を出してきかねない。少し強引にでも進むか。



『砲弾は爆発するよな?』

『今まで見てのとおりね』


 だよな。落ちたら炸裂していたもの。



『じゃあ、あのガトリングの銃弾は?』

『え?あのサイズならただの金属塊よ。発射時の火薬のせいで熱いかもだけど、爆発はしないんじゃな……って、まさかあなた』


 あぁ、そのまさか。



『ちょ、待って。それなら自前の弾使って!ほぼ弾ねぇって言うなら土を固めたやつでもいいから!あれ、発射速度調整できるから、あんたがやろうとしてることよりやりやすいわ!』


 了解。



 腕から適当な方角に向けて弾を発射。そしてすかさず逆の腕でワイヤを発射、撃ったばかりの弾にぶっ刺し、引っ張られるように飛ぶ。



 ワイヤを巻き取れば加速できる。……割と良い移動手段かもしれない。まぁ、巻き取ったらいつかこっちに戻ってくるようになるが。



 だから、ある程度飛んだらワイヤを回収。アトラスが撃ってくる弾丸にワイヤをぶっ刺し、移動する。



『ちょっ……、結局それするの!?』


 するしかないだろう。空に飛び立った後も常に同じ移動法をしろと? そっちのがマズいだろ。地面から回収して撃てる弾は最高4発。いずれ弾切れ起こして、地面に帰らなきゃならなくなる。全て撃ち切ったから次は絶対に地面に帰る……なんてできるものか。攻撃される機会は最小限に抑えるべきだ。



『一応まだ、脚銃には採取弾残ってるはずなんだけど……。はぁ、まぁいいわ。幸い、今んところ機関銃の弾は爆発しないみたいだし。ただ、いつ爆発するようになるか分からないから、気をつけなさいよ』


 言われなくとも。



 機関銃の弾は俺が撃つ弾よりも格段に小さい。その分、ワイヤをぶっ刺して巻き取ると、すぐにこちらへ引き寄せられてしまう。



 ワイヤは一本では足りない。二本でも駄目だ。三本あってようやく俺がやりたい程度に移動できッ……肩が光った!



『砲撃!弾着早い!』


 だろうな! だってあいつほぼ直接射撃してきているんだから!



 地面に右足のワイヤをぶっ刺し、右掌から弾を発射。そちらに左手のワイヤをぶっ刺し、俺の軌道を強引に捻じ曲げ、ッ! 駄目か!



 近づいてきた弾が俺に当たっていないのに爆発。爆風が少しかすってバランスが崩れる。



 体制を整え直しながら、地面へ。逆立ちになるように手を突き、弾を補充&右足から弾を発射。



 グイっと体を持ちあげ、さっき撃った弾にワイヤを!



 微妙に体に機関銃が着弾しているのか、痛い。今更だが、なんで機械部分に当たってんのに痛覚あるんだ。無くしてくれればよかったのに!



『なくて重大損傷に気づかないまま突っ込まれても困るからよ。それに、痛みは鋭い情報。連続攻撃で私達からの指示が間に合わない……なんてことがあっても、痛みがあれば気づいて避けられるでしょう?当然、痛すぎて動けない……なんてくそったれな状況にはならないわ』


 なるほど。なら、痛覚カット機能はあるのか。



『ええ。でも、あんたにはそのスイッチは渡さないから、安心して。痛覚0になんて絶対にさせないから』


 やっぱりか。くれればいいのに。ケチ。



『ケチじゃないわよ…』


 呆れるような声が響く。



 ため息つきたいのはこっちだよ。ま、無理なら仕方ない。アイ。周囲の把握より俺の行動制御の助けを頼む。



『何故?』


 もうメインターゲットは見えてる。ちびロボや戦うそぶりを見せないブルドーザーがいるが、そいつらは博士が見てくれるだろう。



 だから、一気に突撃して、倒しきってもいいと思うんだ。



『なるほど。かしこまりました。マスター。細かな姿勢制御および、弾がさく裂型か否かはアイが見ます。さく裂型の時は声掛けをしますが、間に合わなければ強引に曲げますのでそのつもりで』


 もちろん。じゃあ、頼んだ。



『承知』


 まずは地面に飛び、大地に足をついて弾を補給。弾丸めがけてワイヤを発射。引っ張って微妙に浮く。



 一発で移動できる距離なんざたかが知れている。だが、それが数十、数百と重なっていけば結構な距離になり、宙を駆けることが可能になる。



 同時に三本、もしくは四本のワイヤを操り、アトラスに近づく!



 ! また砲撃。ワイヤ『やめて!?』……。そんなに嫌か。了解。今と同じように弾を介して移動しながら回避。



『嫌に決まってんでしょうに!?壊れたら帰ってこないと修理できないのよ!?ある程度の強度は持ってるけど、不安しかないわよ!』


 さよけ。……ん? じゃあ何でちびロボのコアをぶち抜くことは許容したんだ? あれ、高温にさらされると爆発するような代物だぞ?



『んなもんあんたのコアと似た感じの技術っぽいって思えたからよ。それより、頼むから砲弾にぶっ刺すのはやめてよね!?』


 はいはい。



『返事が適当!』


心配しなくてもさすがにやらない。



 土塊、機関銃の弾、大地。それらにワイヤをぶっ刺し、俺を引っ張り移動。それをアイの補助を受けながら繰り返し、徐々に距離を縮める。



 お、やっとアトラスがどういう感じか見えてきた。



 思ったよりメカメカしてない。俺のように腕の先端が銃になっているとか、肩部分に砲台を背負っているとかいう部分はあれど、ほとんど人間ぽい。



 色は銀色メイン。場所によって濃淡が異なり、濃淡で部位の違いを表しているのかもしれない。……まぁ、爆炎のせいか少しくすんでいるから、その推測があっているのか間違っているのか分からないが。



 急所はどこだろうか? 俺や小型ロボット共のように胸にコアが! なんてことはなさそうだが。



 一応、脆そうなのは関節。へし折れば動きにくくできそうな気配がある。後は頭か? 人間を模してるんだし、思考制御ユニットみたいなのが頭に置いてあるかもしれない。だが、頭が弱点という先入観を利用してくるかもしれない。



 こちらを向いたアトラスの肩が赤く光り、砲弾が打ち出される。ここまで来てやられはしない!



 アトラスの両足に一本ずつ両手からワイヤをぶっ刺す。二本のワイヤを巻き取る力で、一気に距離を詰め、背後に!



 俺の後ろで砲弾が爆発。やはり微妙に痛いが、その爆風も俺を後押ししてくれる!



 一息に足の間を通過。…あれ? 思ったより大きくない。だいたい18 mくらいか? 下手したら国立競技場よりか小さいんじゃないか?



『小さいわよ。映像でも普通に競技場の中に納まってたじゃない』

『国立競技場の最大高さは40 m後半らしいので、こいつが縦に二機並べます』


 へぇ。こいつ、案外小さいのな。小さい分、小回りが利くだろう。……面倒だ。



 とりあえず、背中にワイヤをぶっ刺し、背中へ着地。強制的に背後を取り続けてやる。



 採取してきた土塊弾を背中側から胸のあたりめがけて全弾発射。ついで、銃を取り出し、そのあたりを連続で殴打する。



 ……あまり効いている気がしない。



『マークス!』


 分かってる! こいつ、後ろにジャンプして倒れこもうとしてやがる!



 ぶっ刺し続けようと思っていたワイヤを引き抜き、こいつの肩……砲台のあるところへ。



 俺を押しつぶそうとしたらしいが、そうはいかな、うげ。目が合った。



 無機質な黄色い目がこちらをじっと見つめている。感情があったらならば、鬱陶しいなぁ、こいつ。という目で見られていたかもしれなって、



 危ない。咄嗟に飛び降りたけど、顔と肩の間で挟み込もうとしてきやがった。



 地面に降りたついでに手足に弾を回収。また肩の上に……って、上がったばっかりなのに!



 飛び降り


『マスター!』


 アイの声が響くと同時、勝手に左手が天に向かって弾を撃ち、右手からワイヤが発射されて体が宙に浮く。



 すまない、アイ。助かった。……こいつ、転がって押しつぶそうとしてきやがった。



 いや、普通、やってくるか。二足歩行ロボットってだけでやらないだろうって思う方がおかしい。



 ものすごく愚かしいことだが……、先入観って怖い。



『マスター!』


 体が勝手に動いて地面にワイヤが突き刺さり、体がそちらへ引き寄せられる。俺が先ほどまでいたところを大きな砲弾が通り抜けていく。



 真上にも撃つのか。



『そりゃ撃つでしょ』


 確かに。真上に撃ってその場にとどまっていれば落ちてきた弾に直撃するが、今みたいに暴れまわっていれば、元の位置に戻ってきているなんて大ポカしない限り当たらない。そりゃあ、撃つか。



 さて、どうやってこいつを倒そう。明らかにこいつは硬い。一応、ワイヤは突き刺さるが、注入液的なもので持っている気しかしない。



 …ていうか、この注入液。在庫大丈夫なのだろうか。弾が全然ないんだからこっちもそろそろ切れるんじゃないか?



『そっちは一回で極微量しか使わないから平気よ』


 先に言っておいてくれ……。



『ごめん……』


 微妙な空気が俺と博士の間に流れる。だけど、俺の体はアトラスの攻撃を避け、弱点っぽいところを探すべく動き続ける。



 やっぱり脆そうなのは関節。でも、後が続かない。ゴリゴリ同じ場所にワイヤぶっ刺し続ければいつか抜けるだろうが、あまり現実的ではない。そこが弱点とは限らないのだから。



 となると、やることは一つか。機関銃か砲台。そのどっちかをジャムらせて暴発。もしくは、発射されようとする弾をぶち抜いて内部で爆破させる。それしかない。



『であれば、後者。爆発させる方がよいかと。暴発はエネルギーを逃がされかねません』

『狙うなら砲台でしょうね』


 だな。砲台は狙いやすいし顔の横。腕の先の機関銃に比べて与えられる損害がでかい。



『先ほど、真上に撃った直後、砲台の中を確認しましたが、弾は入っていませんでした。リロードされるまでに間があるものと思われます』

『リロードは発射直前でしょうね。後は狙いをつけるだけ。そのタイミングよ』


 だな。わざわざ、爆弾を長時間抱えておく必要はないんだから。



 とっととケリをつけたい。が、慎重に。たぶん、一度狙うと警戒されてしまう。ブレイクダンスでもするかのようにアトラスは暴れているが、地面に降りるチャンスはそこそこある。無理せず弾を補給しながら飛び跳ねていれば……、



 大砲がこちらに向けられる。



『今よ!』


 砲台の中に弾が入ってる! 吹き飛べ、くそっt



『マスター!』


 俺の手足が勝手に動く。足が地面を蹴り、腕が後ろに弾を放ち、それにワイヤを撃つ。さらに、足が火を噴くと、爆炎が俺の右足を飲み込み、体を吹き飛ばす。



 !?!?!? ッ……、痛いなぁ!



『大丈夫!色々打ち付けたみたいだけど、まだ軽傷!足は置換してるからダメージは、歩行に支障あるかもしれないけど、脚銃とワイヤに支障はないってくらいね』


 改造されてなきゃ死んでたか。



 くそっ、一体どこか……。



 首を左右に振って探すと、俺を撃った奴はすぐに見つかった。というか、これだけでかけりゃ見逃しようがない。



 俺を撃ったのはアトラスに匹敵する巨人。どうやら巨人はアトラス以外に、もう一体いたらしい。

航空法関連について

 第81条に「離着陸を除き、国土交通省の求める高度以下で飛行してはならない」とあります。

 「国土交通省の求める高度」は第174条にて触れられています。乱暴に要約すると「人家が多いところは300 m以上、それ以外は150 m以上を飛んでね(計器飛行方式で飛ぶ航空機はまた別に指示するね)」です。

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