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Mark2 人型加速指輪騎士2  作者: 三価種
Chapter1 三都襲撃
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No.5 神宮

『次の大きな道が山手通り』


 その下にあるのは山手トンネル。首都直下を縦断する10 km以上と、世界でも上位に入る長さの道路用トンネル。そして、先の新宿線から分岐する首都高速中央環状線の一部でもある。



 ……先ほど新宿線を通り抜けたバスたちは、こちらを抜けて逃げて行ったのだろうか。それとも、人を避難させるという目的を達せていないからと、まだ回収のために走り回っているのだろうか。



『マスター!砲撃です!』


 またか。先ほど逃がした人たちに絶対に当たらないよう、立ち位置を調整しつつ動き続ける。そうやって狙いをつけさせられなくして回避。



 次の砲撃が来る前にトンネルを越える! どれだけ深さがあるかわからないけれど、砲撃喰らって潰されることだけは避けたい。



『深くて60 mらしいわね。尤も、こんな状況でトンネル使うかどうか怪しいけど。どこかで崩落が起きて前が防がれたらお釈迦だもの』


 使わないなら使わないで構わない。逃げ道は残しておかねば。



『なら、道を3本くらい越えたら小田急が走ってるわ。そっちも要注意よ』


 小田原線か。新宿と箱根を結ぶ鉄道。いい脱出路になるだろうが…、新宿駅ってここから割と近かったよな?



『直線距離で約1.5 kmです』


 近いな。



 そして現在地からも近かった。もう見えた。



『壊しておいた方がちっこいロボットどもの拡散を防げそうな気がするわね』


 論外。考えるまでもなく保全を選ぶ。さっと線路を乗り越え、そばにある駐車場へ。



『なんでよ』


 決まってるだろうに。俺が逃げようとしている人達の希望を潰すわけにはいかない。



『では、マスター。先の新宿線(高速道路)はどうなのです?』


 ッー! それは……。



『うわぁ…。私ですら言わなかったのにぶっこむわね。さすがAIって感じ』

『ありがとうございます?それよりマスター。間もなく砲撃です』


 またか。回避するのにいい場所は……、公園っぽいところにしかないか!



『ぽいというより公園ね。代々木公園。北の方にいるから安全地帯?はすぐ見つけられるはず』


 だな。すぐに人があんまりいなくて、木もあまりないところが見つかった。



 ワイヤを木にぶっ刺して巻き取り、飛翔。さらに別の木に射出して元のワイヤを回収。遠心力で思いっきり振られて円を描く。



 元の軌道だったら当たった位置。そこをぶちぬいて砲弾は着弾し、爆炎が上がる。そして、それをかき消されるように人々の悲鳴も上がる。



 ……え。何でまだこんな競技場から近いところに人が残ってる!?



『知らないけど、逃げ遅れたんじゃない?ほら、公園ってよく広域避難所になってるじゃない』


 ロボットが侵攻してきているのに広域避難所もくそもないだろう!?



『知らないわよ。ヘリボーンとかしやすいからなんじゃないの?あぁ、言うまでもないけど撤退援護とかしてる時間はないわよ。警官隊に任せてさっさとアトラス潰すわよ』


 だよな。博士ならそういうと思ってたよ!



 だが、競技場への最短ルートを突き進む最中、チビどもを蹴散らしていく分には問題ないだろ!



『それくらいなら構わないけど、夢中になることは許さないわ』


 わかってる。そんなことは言われなくても、わかってる!



『ま、警官達に撃たれないように注意なさい』


 ? なんか向こうですこーし、ふふって笑われた気がする。だが、不快な気持ちは湧いてこない。だが、それはどうでもいい。関係あるのは許可くれたってことだけだ。



『砲撃にも注意してくださいね。マスター!』


 わかってる! でも、ありがとう。助けに行ってそのせいで巻き込んじゃ世話ない。



 通りすがりに助けるといっても、ここにいるロボットは少なめ。必然的に俺の進行方向から外れている奴らばかり。弾をパクろうにも手ごろなものがない。



『あら、弾は別に球形に近くなくてもいいのよ? 弾にしたいやつに接地していれば、手であれ足であれ、いい感じに採取できるわよ?』


 フォローまでしてくれるのか。さっきのやり取り的に意外だ。



 まぁ、助力してくれる分には問題ない。やるか。足元はアスファルトだが仕方あるまい。表面を削り取り。弾を成型。



『警官隊!ロボット共に攻撃する!こっちを撃ってくれるなよ!』


 銃撃前に宣言しておく。したところで敵だと思われる可能性はあんまり変わらないだろうが、しないよりはマシだろう。



『マスター!』


 またか!



 だが、これくらいなら避けられる。避けられるなら排除も同時に!



 手を勢いよく地面につけ、倒立。自由になった足で狙いをつけてロボットへ発射。地についた手から弾を補給。グイっと体を持ちあげ、宙へ。同時にワイヤを発射。



 空中にいる間に狙いをつけて発射。先に撃ったワイヤを戻し、別のところへワイヤを発射&巻き取り。



 飛んでいる最中に弾がこちらへ到達。最初に撃ったワイヤが突き刺さっていた大地を抉り取り、大穴を開けた。



 ワイヤを出したからそっちに飛ぶとでも思ったか? 飛ぶ訳ねぇだろ。撃たれたくないんだから。



 警官隊はこちらを見ている。だが、都合のいいことに撃ってくる様子はない。どっかで見た警官の連絡が来てる……なんてわけないか。



 最初は唖然としていただけ。今は理解が追い付いていない。それだけのことだろう。



 だが、構うものか。



 同じような手順で再度ぶち抜く。こいつらのコアとか言う謎物質ではなく、ただのアスファルトを弾にしているからか、威力は弱まっている気がしないでもない。



 完全にトドメを刺す時間は……、



『ない方が望ましいでしょうね』

『ですね』


 言われなくてもわかってる。



 4体に損傷を与えたからか、やっとこっちを向いてくれた。それでも、このまま走り去ってしまえば、何体かしか来てくれず、残りが人々を襲うだろう。



『信じなさい。警官隊だって無力なわけじゃないのよ』


 それを博士が言うのか。だが、残念ながら時間切れ。こっから先は森。



 引き返せるならはなから時間制限なんざない。だが、現実には時間制限がある。信じて突き抜けていくほかない。



 同じように射撃…はさすがに無理か。こちらに来るロボットはこちらめがけて銃撃してきている。それに当たる。だから、ワイヤを森の木をめがけて射出する。



 手繰り寄せて飛びながら射撃。木に足で張り付き、一部をくりぬきつつ、手からワイヤを地面に射出。移動の際に後ろに向けられた足でタイミング調整。



 よさげなタイミングで発射。さすがに人を襲うロボットは誤射が怖すぎて狙えない。近場のロボットを押し倒しておく。



 潰せている気が全くしない。こんな弾で効くのか……? 地面に手を突き着地。土塊を弾丸に回収。ついでに足にも。



『さぁ…?一応、木は動力炉の電気を転用して、焼き固めてはいるけど…。素でそこそこの重量があるアスファルトよりはエネルギーがなくてしょぼいんじゃないかしら』


 となると、アイツらが撃たれたから援軍に……! なんて可能性は低そうだな。



 そろそろ砲撃。このあたりで広い場所は……。



『北東に走り抜けなさい。そこに少し広い場所があるわ』


 わかった。一気に駆け抜け……って、ロボットが複数いやがる!



『止まったら森に砲撃ぶち込まれるわよ』


 だろうな。 一番近い奴にワイヤをぶっ刺し、飛翔。着地狩りされるのは目に見えてる。ある程度近づいたらワイヤを強引に引っこ抜い……って、抜けない!



『マスター!』


 ちぃっ! 二重の意味で最悪だ。空いている手から弾を発射。強引に空中で体勢を変えて、足からも発射。



 ……微妙にのけぞった程度だがそれで充分! ワイヤからロボットが離れた瞬間に、ワイヤを回収。ワイヤがぶっ刺さって壊れたロボットを拾って、上へ勢いよく放り投げる。



 そいつにワイヤを刺し、飛翔。これはさすがに読めないだろ!



 砲弾が飛んで来る方……ん? あれって、神社では?



 ッ。微妙に爆風喰らった。微妙にダメージを受けた気がする。…ほんとに微妙に。だが。



『ロボットになってる部分はそんなヤワじゃないから、その程度じゃ壊れないから安心して。人間そのものの部分はあんたの感覚でいけるかいけないか判断してちょうだい。もちろん、こっちもモニタリングしてるけど。万全を期すにはそっちのがいいわ』


 さよけ。で、もしも駄目そうなのに突っこんで、駄目になったらどうすんの?



『機械部分は置換すればそれでおしまい。だけど、生身の部分は……ね』


 機械に置換されるんだな。



『生きている限り。という注釈は付きますが、基本はそうなります』


 ? 何故アイが答えるんだ? 別に構わないが……。俺が勝手に体のことはいじくりまわした博士が答えるものだと思ってただけだし。



 気を取り直して、集まってたロボットに完全にとどめを刺そう。さっき襲い掛かってきた10小隊のように、公園で俺が暴れているから制圧させようとして送ってきた奴らなのだろうか。



 コアの部分を抉りぬき、両手両足に装填。公園の方からやってきたロボにぶっ放すと、コアがひしゃげ、勢いよく倒れ伏す。



 明らかにこっちのが威力が高い。補充しておきたいが……、綺麗に吹っ飛んだせいでそれも無理。仕方ない。アスファルトでいいか。



『一応、瓦もあるけど?』


 瓦?



『ほら、さっきあんたが見てた建物の屋根にあるやつ』


 いや、あれは神社っぽいから、手を出しちゃダメでしょ……。



『ぽいっていうか、神社よ。明治神宮』


 !? わかってて言ってたのか!?



『戦争に神社もクソもあるわけ……いや、あるか。宗教施設なんだし。日本人にはわかりにくいかもしれないけど、信仰が破壊された! とかで激おこぷんぷん丸になるかもしれないわね』


 ぷんぷん丸って、古い……。



『いや、明治神宮は今の日本人でもさすがにマズい……?それはともかく、日本人的には神社は大事でも、ロボットにとってはそうじゃないわ。容赦なく砲撃叩き込んでくるでしょうから、気を付けなさい』


 だろうな。俺への攻撃に巻き込まれないようにさっさと通過するか。



『そうして頂戴』


 本殿を尻目に敷地内を抜けていく。



『あぁ、奥に見える建物は宝物殿よ。そっちまで行くと少し行き過ぎになっちゃうけど、森に突っ込みたくなけりゃ、避けた方が……あぁ、ついに来ちゃったか』


 博士の諦観のこもった声が妙に頭に響く。



 立ち上る黒煙は見た。巻き起こる爆炎も見た。生々しく残る戦闘痕に、なぎ倒された家屋も見た。だけど、それらはどこか遠くにあった。過去のものだった。



 人が撃たれるところ、死ぬところを見た。でも、それとこれとはベクトルが違う。



 俺の目の前で(もり)が燃えている。容赦ない業火が緑を飲み込み、焼き尽くそうとしている。公園にいる人々も飲まれるかもしれない。



『きっとそれは大丈夫。逃げ遅れたにしても火の手から逃れるくらいの元気はあるでしょう。あぁ、聞かれる前に答えとくけど、消火設備なんざあなたに備え付けられてないからね』


 手足を水につけて、それを発射するのは……。



『液体は無理。出来るのは固体だけよ』


 ちぃっ。博士は少し沈黙すると、大きなため息を吐いた後、諭すように俺に言う。



『言いたかないけど、燃えてるのはここだけじゃないのよ?ここだけを助ける時間があるなら、さっさと消火できるすべを持つ消防隊が自由に動ける環境を作りなさいな』


 何度も似たようなことは言われている。だのに、言われるたびに少しだけムカッとしてしまうのは俺が幼いからなのだろうか。それとも、感情操作とやらが十全に機能していないからなのか。何なんだろうな。



『マスター。砲撃です!』


 ! わかった。



 燃えてしまっているのならもはや着弾位置を調整する必要もなし、最短経路で突っ切る!



 燃え盛る杜の中へ。



『ちょっ。人間部分は損傷に弱いって言ってるでしょうに!?』


 気道に肺、その辺の毒ガスを吸ったらダメな部分は既に置換しているだろ?



『確かにしてるけど……まだ肺も心臓も生きてるわよ!?それに、肺が焼けるってことは顔が焼けるのよ!?』


 杜はあって500 m。全部炎上していたとしてもそれだけだ。ワイヤをぶっ刺しながらならば、すぐに抜けられる。



『マスター!回避を!』


 ッ、あぁ、砲撃か。ありがとう。燃え盛る杜の中、視界不明瞭とて最初っから意味の分かんない距離で射撃され続けてる。あちらさんも狙おうと思えば狙えるか。



『あぁ、もう!杜の中で待ち伏せとかされてたらどうすんのよ!?』


 あ。



『おぉい!?』

『マスター!?』


 燃え盛る木々の隙間から銃弾が飛んでくる。どうやら博士たちの懸念はばっちり当たっているらしい。



 銃撃してきた場所はわかってる。ちょうど進行方向だから、突っ込みながら始末……って、何がしたいんだこいつら。



『なんで待ち伏せしてるくせに燃えてるのよ…』


 ほんとにな。こっちが手を下さなくてもそのうち自爆しそうだ。



『って、喋ってる場合じゃないわ。さっさと抜けるのよ!』


 わかってる。歩みは止めない。



『アイ。なんか心当たりある?』

『アイにはわかりかねます。彼らとアイは思考回路が異なりますので』


 文字通りな。ワイヤをぶっ刺し……うげ。爆発した。下手にワイヤ撃つと危なそうだな。



『爆発する、しないに関わらずやめて。残ってる人間の部分がそいつらが持つ熱にやられかねないわ』


 面倒な。俺のそういう欠点を織り込み済みで突っ込んできたか? それでも、やりようはある。



 ほぼ残ってない銃弾をぶっ放せば済む話。ひるませている間に横をすり抜け、取り出した銃で殴りつけておく。



 ッ、爆発しやがった。楽でいいけど、俺のコアもこんなんじゃないよな…。



『ないわよ。さすがに。掌銃やら脚銃で納期納期言いまくったけれど、それはそれ。末端部と中枢部をごっちゃにされちゃ困るわ。私がそれにどれだけ苦労したか……。語れって言われたら要約しても二日はかかるわ』


 それって要約出来てるって言わないんじゃないのかね……。



『マスター。アイはダブルミーニング説を押します』


 ん? 「要約語り終わった」と「漸く語り終わった」ということか? あり得…… 



『ないわよ。そもそも私、語り終わるとか一言も』

『ッ!着弾5秒前!』


 !? 咄嗟に横に飛びのくと、先ほどまで俺が立っていたところを弾が通っていき、後ろではじけ飛ぶ。



 何で……って、あぁ。なるほど。ようやくか。ようやくここまで来たのか。



 普段なら高いビルがあって見えなかったかもしれない。だが、今は眼下にちらほらと見えるブルドーザーみたいなやつらが街を平坦にしているせいで、視界を遮るものは何もない。



 故に、これまで一方的に殴られるだけだったアトラスを目視することが出来る。あいつを倒して、このふざけた騒動を終わらせよう。

『明治神宮』

 明治天皇および明治皇后が祀られている神社。

 ごめんなさい。

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