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Mark2 人型加速指輪騎士2  作者: 三価種
Chapter1 三都襲撃
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No.4 砲撃

『戦いに時間を取られちゃったけど、そろそろ首都高……正確に言えば首都高速4号新宿線の真下に行けるわ。後は高速の上なり下なり通れば着くわ』


 ん? 高速はまだ落ちてないのか? こういう時真っ先に落とされそうなものだが。



『まだ落ちてないわね。斥候を送った後、本隊を送る進軍路にでもしようとしてるんじゃないかしら?』


 なるほど。高速なら十分な広さがあるものな。



 だが、競技場のそばにすぐ4号線へ入る料金所あったろ。車でごった返しているところへ突っ込んでどうする。



『下りはそうでしょうけど、上りはがらがらよ』


 だろうな。だからこそ車に引っ張ってもらって高速で向かう……なんてことは出来ないわけだ。だったら通るだけ遅い。



『言うわね。真東に行けばいいものを南に進んだ人とは思えないわ』


 戦っていたのだから仕方ないだろ。多少、警官達の援護に行ければいいなとは思ったが、稼げる距離が微妙すぎるわ!



『よね。ごめんなさい。少しだけ嫌みを言いたくなったの。今は環七通りと4号線との交点。残り約5 km』


 速度が落ちてる。戦闘してたせいか? 敵をガン無視してまっすぐ行ければすぐか?



『競技場が近づいてくるからきついんじゃないかしら。首都高を通っていこうものなら周囲を制圧しに行くロボが邪魔でしょうし、まっすぐ行くと明治神宮と代々木公園。二つとも広いから隠れるのには向かないわよ』


 どうせ九隊叩きつけられてるから場所はバレているが……。途中まで首都高で行く。構わないよな?



『いいけど、なんで首都高?さっきまでは混乱に拍車をかけてどうするって言ってたくせに』


 特に理由はない。強いて言うなら車の状況を確認したいだけ。



 周囲の建物にワイヤをぶっ刺し、飛び回って高速へ。……思ったより車が少ない?



『そりゃそうでしょうよ。オリンピック開会式やるってんのに会場から一番近い高速をそのままにしないでしょうよ』


 あぁ、交通規制がかかってたのか。そんな中、向こうから走ってくる車は……、



『観客でも乗せて逃げてんでしょうよ』


 しかないか。



 こんな非常時でも──非常時で混乱に拍車をかけないようにしているからこそか──上り下りは維持されている。上る車の中はスッカスカで、下る車は満載という違いはあるが。



 高速という周囲より若干高くなった場所にいるからこそよくわかる今の東京。



 普段は文明の灯が煌々と輝く眠らない街であったはずの東京、その中心部を照らす光は、原始的で暴力的な紅蓮。



 立ち上る黒煙は文明の灯に負けずに輝いていた星の光を完膚なきまでに塗りつぶし、普段の喧騒とは違う、荒々しい音が空間を伝わっていく。



 あの上る車は決死隊だろう。巻き添え喰らって死ぬかもしれないのに、逃げ遅れた人を乗せるために走っている。



 鉄道も同じように競技場周辺の最寄り駅へ向かう決死隊が運航されているのかもしれない。配電設備などの関係で出来ないかもしれないが。



 ……そういうのを見てると何かできないかと、手を伸ばしたくなる。



『1分後くらいに団体の逃亡隊と、ちっさいロボの小隊が来るわ』


 進路上だから教えてくれたか? 意図が謎だが、せめて大型車は守り切って見せる!



『あら、全部守るとかほざくかと思ったけど……。案外、現実見えてるのね』


 やけに辛辣だ。正義の味方は嫌いか?



『そういう奴らって大概、自分は全部助けられるって思ってるもの。お花畑すぎて反吐が出るわ。理想は素晴らしくても、現実的な手段がなくばただの妄想。付き合ってられないわ』


 吐き捨てるような博士の声。誰かは分からないが、具体的な誰かへ向けた言葉。どおりで辛辣さがすさまじいわけだ。



『マスター!10機です!』


 了解。そのどれもがバイクのような形になって、あるものは護衛しようとしているのか展開しているパトカーと銃撃戦を繰り広げ、あるものは嘲笑うように逃げるバスへ近づいている。



 確実に守るならバスにワイヤを撃って、運ばれなら護衛……が最良だろう。が、それは博士とアイが許さない。上から射撃すれば道路に穴が開いてしまう。



 となると、すれ違いざまに叩ききるか、味方に当てないように射撃することだけ。アイ! 手伝ってくれ!



『承知』


 バスの前照灯が俺を照らし、けたたましいクラクションが鳴る。こんな姿の俺でも人間だと思ってもらえているのか、ロボだと思って威圧しようとしているのか、何かよくわからないが条件反射的に押しているのか……、どれだろうな?



『マスター!』


 わかってる。向かってくるバイクをすれ違いざまに脚銃で殴打。少し遠いロボは掌銃から放つ弾を軽く路面に反射させ、タイヤっぽいところをぶち抜き、止める。



 右へ一歩。パトカーを回避し、ロボを殴打からの二連射。撃たれた弾と衝突させ、明後日の方へ飛ばす。



 さらにロボへワイヤ。巻き取り移動しながら、ロボにだけ当たる射線を確保、発射。



 路面へ着地と同時に転がり、白バイを回避。後ろめがけて一射。通り抜けたバイクを倒す。



 そして突っ込んでくるバイクを回収しておいたコアを発射して叩き潰し、脚銃でもう一体を潰す。



 パーフェクトだ。アイ。



『とどめを』


 ……冗談にノッてくれる機能はないのかね。



『ノッている間に壊れられても困りますので』


 ほんっとうに気が利かないAIだ。俺に対して壊れるなんて言葉を使いやがる。そこは素直に『死ぬ』を使っときゃいいだろうに、くそったれ。



『承知』


 俺が心の中で怒り狂うようにぶちまけてみても、帰ってくるアイの声は平坦で、無機質だ。



 なんだか俺が心を持て余しているのが悪いようにさえ感じてしまう。



『思春期……でしたか?データ上、マスターはそれに該当すると思われます。自己分析されているとおりではないかと分析します』


 だぁ! ほんっとうに融通が利かないな! 今! 俺は! そういうことを! 求めて! ない!



『アイ……、あんた、少し黙った方が……!マークス!上よ!』

『回避させます!』


 俺が何かする前に、アイが体を動かす。勝手に動く手から放たれたワイヤが近場のビルにぶっ刺さり、体が飛ぶ。



 足が壁に着いた瞬間、ひゅっと体が起こされ、ビルの屋上へ。



 ドガンドガンドガン!



 猛烈な破壊音が高速を叩き、爆炎が上がる。先ほどまで健在だった逃げ遅れを逃がす大動脈は、無残にも崩れ、炎の中へ消えていく。



『マスター!』


 だが、俺に出来ることは何もない。精々が感傷に浸りながら赤い焔を眺めることだけ。そんなことをしていても、もはや俺だけのものではなくなってしまった体は勝手に動く。



 走りながら手からワイヤを射出。突き刺さってもいないうちにビルからタンッと飛び降りると、突き刺さったワイヤにひかれて、放物線を描く。



 眼下の駅らしきところを越えていく最中、さっきまで俺が立っていたビルが音を立てて崩れ落ちる。



 ッ! 一体あれは、何なんだ!



『砲撃ね。レーザーじゃなくて実弾兵器なだけマシかしら』


 砲撃? なんで今になって……、というかどっから飛んできた?



『なんで今更って、知らないわよ。何個かの小隊潰してるから狙われる理由は十分。そんな危険分子がかなり近づいてきたから……かしらね?』


 かなり近づいてきた……ということは、攻撃してきやがったのは巨大ロボか?



『正解。巨大ロボ……面倒ね、アトラスが直々に砲撃してきてるみたいよ。競技場に来てからは微動だにしてなかったから、偉業ね』


 なんも嬉しくない。あんな奴らが来なければ戦う必要もなかったのに。



『マスター。見えますか?』


 あぁ、見えてるよ。漆黒を照らすまだ生きている電灯と、燃え盛る炎の中に点いては消える火がある。



 それはビルから放たれる通常兵器の攻撃炎にしてはデカすぎ、ヘリが全て落とされたのか、沈黙している状態で生じる火にしては高すぎる位置にある。



 だからあれは確実に、こちらを狙う砲撃。



 火を噴いた数秒後に風を切る音が耳を打ち、数瞬後に強烈な破壊が周囲にもたらされる。



 こちらを直接狙っているのか、飛んで来る弾の軌道は多少、山なりだがほぼ一直線。見てから回避はかなりきつい。救いは発射間隔がまだ長いこと。



 威力から考えると10秒で装填できるっぽいってのは理不尽もいいところだが、それでもまだマシだ。逐次発射であろうが、斉射であろうが、ある程度の余裕はある。



 主移動方法がワイヤな時点で、どうあがいても予想されやすいっぽいが



『次はその辺、改善しとくわ……』


 次がない方がいいんだが……。



『……』

『マスター!』


 ん。砲撃……だけじゃない!? ッ……!



 頭が痛い。ちっこいロボット忘れてた。思いっきり頭を撃たれた。そりゃそうか。でっかいロボットがこっちを狙い始めたからって、手だししてこないなんて、あるわけないよなぁ!



 コアめがけてワイヤを射出。全部殴り倒して……ッ!



 勝手に足が動いて、ワイヤが射出される。それと同時に手を地面について後ろへ飛び跳ね、ぶっ刺さったワイヤを巻き取り急速離脱。



 離れる俺めがけてちっさいロボットたちが銃撃を放つ。脚に蓄えてある弾でそれを撃墜しようと手を向けた瞬間、銃撃諸共ちっさいロボは砲撃に巻き込まれて爆散した。



 仲間意識ないのかあいつら!?



『個としての勝利ではなく、群としての勝利を目指してるんじゃないかしら?人間はやらない……なんて青臭いこと言わないでよ?』


 ッ……。確かに映画の中で「助からないと判断したから俺ごとやれ」とか、「ほかに手段がないから死ぬけどやるしかない」とかいうのはある。



 し、少なからずそれを現実でやった例を知っている。だが、他に手段がないわけでもないのに、まとめて吹き飛ばすか!?



『それが最も効果的だって踏んだんでしょうよ。一時損害が出ようが、最終的な損害が減るならばそれでよし』


 合理的過ぎて笑えてくる。



 再度の砲撃を回避。念のため、砲撃を喰らったロボットの方を見ているが……完全に破壊されていそうだ。コアだけじゃなく、体の各パーツもひしゃげている。



 あぁ、ほんっとうにくそったれだ。



『あの、マスター。傷は大丈夫なのですか?』


 傷? あぁ……。大丈夫だと思う。触ったら穴が開いているし、反対側にも似たような穴が開いている感触があるけれど。



『やばいならやばいっていうわよ。簡単には死なないようにしてるけど……、脳はほぼそのままだからあんまり攻撃を受けちゃだめよ…』


 言うの遅いわ。いや、言われててもあんときの一撃は避けれなかっただろうけれど……!



「そこの君!そっちは……!」

「あぁ、大丈夫です!それより俺から離れてください!」


 あの子以来、久しぶりに人を見た気がする。



 いや、単に俺が飛んで跳ねて、戦って…を繰り返しているから、ロクに見る機会がなかっただけか。



『ぱっと見ならあんたもロボットに見えるから一般人は近寄ってこない……ってのが原因の一つではあるわね。後、単純に』


 単純に?



『一般人があんまり来ないルート……屋根の上とかを選んでるからよ。まぁ、そろそろ嫌でも一杯見えるわ。心を強く持ちなさい』


 ? なんで心を強く……ッ! 悲鳴! 発生源は……あの学校のそばか? 助けに行かねば。



『進行方向にあるから構わないけど、突入場所と時間には注意なさい』


 進行方向にあるから……ね。うちの博士も敵に負けず劣らずの合理主義者か!



『n回目って感じだけど、アトラス潰した方が犠牲者は少なくなると信じてるからよ。目の前だけじゃなくて、周辺の命も勘案した結果よ』


 ……わかってるさ。そんなこと。だけど、そんなすっぱり割り切れねぇよ!



『でしょうね。ま、特別な人くらいなら多少は外れて助けに行ってもいいんじゃない?』


 その特別な人や俺自身にまつわる記憶は一切ないんだけどな。どうでもいいことは覚えてるのに。



『うっ……ごめん』

『マスター。突撃するなら時間と侵入方向にはご注意を。飛び込んで避難者の上を通り過ぎた瞬間、アトラスの砲撃時刻と重なると甚大な被害が出ますので』


 相変わらずアイは空気が読めない。が、変な沈黙の訪れを妨害するという点では最高だ。



『突入タイミングを計りましょうか?』


 任せた。



『了解。では、間もなく砲撃ですが、少し近づいておきましょう』


 ひゅっと飛ぶと、後ろで弾がさく裂。家をがれきに変える。



『適当に動き回って時間を潰します。ここから追い回すロボを射撃できますが、しないように。狙いがバレると逆手に取られかねませんので』


 わかったよ。アトラスの砲撃間隔はわずか10秒。だがその10秒が長く感じる。



『どうぞ、マスター!』


 地面を蹴り、ワイヤを射出して飛び込む。後ろで爆ぜる砲弾が俺を地味に後押ししてくれる。



 人とロボの間に着地。人には新手の登場とでも思われているのか、ますます混乱がひどくなった気がするが、とっととこいつらを殲滅しよう。



 数はせいぜいが10体。砲撃に人が巻き込まれないよう、さっさとロボの間を抜け、すれ違いざまに二機落とす。さらに跳ねるように移動しながら射撃。



 校庭っぽいところに着いたら、ワイヤ射出でロボを引き寄せる。



 が、手数がやっぱり足りない。俺が来たからか大多数はこちらを見てくれるが、少数はそのまま人に向けて銃を放っている。



 そのたびに鮮血が散って、ひどくなった悲鳴が耳を刺す。



 彼らの正面に立てれば、攻撃を防いでやることは出来る。だが、そうすると確実に砲撃に巻き込まれる。くそったれ。



 ワイヤで飛び、引き寄せたちっさいロボ2機を置き去りに。やってきた砲弾が爆ぜ、ロボを粉砕する。



 さらにワイヤ。人を撃つロボを貫き、移動。遠くにいるロボにぶっ刺し、ワイヤ。ロボともども引っ張られながら、拾ったコアを装填しておいた脚銃でロボをぶち抜き停止させる。



 そして離脱。再度、砲撃に巻き込ませて爆散させる。道を爆撃されないようにしたかったが……、無理だったか。



 仕上げだ。残骸を拾って装填&射出。これでここいら一帯は片付いた。再度、残骸を補充して次…、



「助けて!」


 耳に響く助けを求める声。そちらに視線を向けると、そこそこの数の死体が転がっていて、その中に結構な重傷でもう逃げられないと判断されたのか、放置されている人がいる。



 アトラスを倒さなきゃならない。それはわかっているのに足が止まる。そして、自然に足が動……く前に、勝手にワイヤが射出され移動する。



 動揺している間に、拾ったばかりの残骸まで射出される。その残骸は明らかに彼らを巻き込むコースで飛んできた弾と衝突、爆発させる。



『アトラス優先なのが一番だけど、全員助けるには往復数が多すぎるし、何より今みたいに砲撃に巻き込まれかねないわ。さっきはうまくいったけど、あれを助けようとしているとバレれば、10秒間隔をずらしてくることも考えられるもの』


 …………。無意識のうちに歯がギリッと噛み締められる。



『救助要請はしたわ。進みなさい』


 ッ……!



 助けを求める声を無視して進みだす。たった一度、ワイヤを射出して飛んだだけで、彼らの悲鳴は周囲の喧騒に呑み込まれて、消えた。

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