No.2 Mark2
『さて、説明をしましょう。AIちゃんは接敵するように体を動かしといて』
『了解です。博士』
ちょっ、あぁ! もう! 心読めるはずなのに全力で無視してきやがる!
意識はあるのに、体が勝手に動く。めっちゃ気持ち悪い。
『時間があんまりないの。説明よね。あなたは” Man Accelerated Ring Knight 2” とかいうネーミングセンス皆無のサイボーグに改造されたわ。”Man” はそのまま人間。さして意味があるわけじゃないわ。 “ Accelerated “は加速。だから、手足に加速用のワイヤがあるわ』
「だから」が意味をなしてない! 加速とワイヤがどうつながるのです!?
『説明は最後まで聞きなさい。実際に見てるわけじゃないからよく知らないけど、某巨人と戦う漫画と同じ感じかしら』
知らんのかい! というツッコミは飲み込んで……とか考えてる時点で向こうに通じてるのよな。この思考は放棄。
ワイヤを突き刺してそれで引っ張って移動しろと?
『そうなるわね。刺したワイヤが抜ける心配はしなくていいわ。抜けにくいようになんか液体出すから』
逆に抜きたいときに抜けなくなるんじゃね?
『抜くときは刺さった方を破壊しながら強引に抜くから問題ないわ』
問題しかねぇ。てことはさっき降りて来た時、地面に傷がついてるんじゃないのか?
『気にしたら負けよ。ロボットに暴れられて全部潰れるよりはマシでしょうが。伸びる距離は100 m。使用するときは、掌、足の裏の一部がなんか円形になってるでしょ?本来、人っぽい皮付けて人に見えるようにするつもりだったけど、納期の関係で駄目だった奴』
納期……。猛烈に気になるけどスルーして四股の先を見ると、確かにある。黒くなっていて、一目で死んでいるっぽいのが分かる。
『その下に見にくいけど穴があるの。そこに胸の動力炉からエネルギー流すように考えてくれたら伸びていくわ』
思考読み取り式。ハイテクだ。
『サイボーグに改造してる以上、それくらいはね?思考でも出来るけど、触ってもらってもいいわよ。エネルギーが流れ込んでったら活性化。赤くなって内蔵されているワイヤが伸びるわ』
それ、敵から見たら何をしようとしてるか一目瞭然では?
『一理あるわね。帰ってきたらちゃんとしておくわ』
帰ってきたら系ってフラグなんですぜ。
『ははっ。だったらここはあなたに任せるから先に帰るわ!とか、こんなところにいられるか!私は帰らせてもらう!とかいっときゃいいかしら?』
博士のフラグを折ってどうすんですかね。
『こほん。突き刺さったらさっき言った液が自動的に出るわ。やめる時はエネルギーを止めて。穴が赤くなくなってワイヤが猛烈な勢いで縮む。それで高速移動できるわ』
話そらしやがった。てか、エネルギー供給で急伸長して、やめたら急伸縮ってどんな素材だ。
『そんな素材よ。胸の動力炉は小型核融合炉。全力で戦っても3日は持つわ』
核融合!? 実現してたのか!?
『してるわ』
マジですか。この胸にある小さな赤い球。それが人類の夢ともいわれた核融合炉なのか。なんてものを付けてくれてんだ。
『私も知らないわよ。所長の管轄ね。表に出せないものがちょくちょくあるみたいよ。それで、 “ Ring Knight 2 “は手に指輪させたでしょ?それよ。指輪を通してサポートする騎士が二人。一人がAIで、もう一人が私。全部くっつけて「人型加速指輪騎士2」かしらね』
騎士とはいったい……。
『知らないわよ。私やAIの声が聞こえるように感じてるかもしれないけど、脳に直接信号を叩き込んでるだけだから、信号が傍受されて解析されない限り、外部に漏れないわ』
いつか漏れるフラグだな。これ……。
『超今更だけど、さっきからやってるようにこっちと喋りたいときは口に出さず、心で思って。拾うから。欺瞞情報にしたい!って時とかはその思念とともにどうぞ。あぁ、私が無理っぽい時はAIちゃんが拾うわ』
なるほど。で、AIちゃんって何です? そして博士がしてくれる仕事とは?
『AIちゃんはAIちゃんね。これも私作成じゃないわ。名前はまだない。付けたげれば?』
俺がです?
『うん』
『よろしく。マスター』
よろしくされた。
『出来るだけ急いでね。後が詰まってるから』
!? 満足に考える時間もくれないと!?えっと、AI、AI……。『アイ』はどう?
『承りました。以後、アイのことはアイと呼称してください』
『安直……』
うるさいです。時間をくれないのが悪い。どうせそのまんまですよーだ。AIをローマ字読みしただけだ。
でも、それを言ったら『マークス』でしたっけ? あのコードネームも似たようなもんでしょう。どう考えてもManなんとかかんとか、略してMark2と雰囲気が似てるからマークスにしただけ。
『それも私じゃないから。で、役目よね?アイは戦闘時のサポート。周囲状況の把握と、あなたの動きの補正を行うわ。私は周囲状況情報の獲得と、アイよりも広い範囲のざっぱな把握よ』
周囲の把握が二つありますけど、どんな風な分担なのです?
『アイは本当に細かく見るわ。誰がどっち向いてるかとかまで見る。私はあなたのところに敵が何人行ってる!とか、なんか戦車来た!とかね』
アイは詳細なレーダーで、博士は広い範囲を見れるレーダーと。
『それでいいわ。完璧じゃないけどね。……てか、あんたちょくちょく丁寧語と雑なの混ぜてくるなら雑で統一なさい。わかりにくい』
了解。なら、博士もあんたとかじゃなく、マークスを使った方がいいと思うぞ。今は俺だけだけど、あとで困るかもよ?
『そうね。じゃあマークス。武装の話するわ。武装は今のところ手足の掌銃、脚銃だけよ。こいつらは、銃口だけ出すことも、全部取り出して打撃武器にすることも可能よ。掌と足の裏の円が射出口よ。思考しながらエネルギー流してくれればその通りに動くわ。弾丸は何でも。なくなったらその辺に落ちてるものでも詰めなさい』
ジャムって爆発。エネルギーが十分に伝わらずにへっぽこ弾に! になる未来しか見えん
『ならないようにしてるわよ。で、他に武装を追加する予定もあったけど時間的に省略したわ。マークスにやってほしいことは国立競技場に襲来してきたロボット共の駆逐よ』
何故。さっきまでの会話は納得できたのに、そこが意味わからん。なんで俺を改造してまでロボットと戦わせる必要がある?
『私も知らないわよ。今はとりあえずこれってことなんじゃない?知らないけど』
二回も知らないって言った! じゃあ、アイは!?
『不明です。アイには該当する情報にアクセスする権限がありません』
まさか「アクセスする権限がない」とか聞くことになるとは思わなかった。いや、アクセス権限がないならどっかにちゃんとその情報はある……?
『超気になるけど後回しにして頂戴。あなたにはやってもらう必要があるわ。ボスらしきあの巨大ロボの駆逐を優先するわよ』
しょっぱなに最大戦力っぽいのを叩くと? 疲弊させてからの方が楽なんじゃない?
『かもしれないけど、あいつが指揮官とかなら、降伏してくれるようになる……かもしれないじゃない。危険は大きいけれど、あのデカブツ放置のが被害やばいわよ。たぶん』
筋は通ってるか。なら、それでいい。で、奴は?
『『国立競技場』から動いてないわね。最初に飛び出たところは杉並区の『高井戸公園』。そっから国立競技場を目指して進んで、現在は同区に位置する『和田堀公園』。国立競技場までだいたい7.5 kmよ』
移動が速い。
『話に10分くらいかかってるから音速は越えてないわよ』
高井戸公園から和田掘公園まで確か2.5 kとかだろ?10分にしても分間250 m。十分速い。
『ワイヤを活用してますから。飛んでいるようなものです』
なるほど。で、なんで俺が戦わなきゃいけないわけ? 自衛隊じゃダメなん?
『自衛隊はねぇ……。たぶん動けないわ。競技場から国会議事堂、防衛省ってくっそ近いのよね。だいたい2.5 km以内よ。国立競技場と同時襲撃かけられて防衛大臣は死んでるんじゃない?首相は競技場にいたから言うまでもなし』
首相と大臣の安否関係あるか?
『あるのよ。自衛隊が武力行使……大砲とかをぶっ放せるのは『自衛隊法』が定めるところによると、『防衛出動』の時のみで、発令できるのは総理のみ。総理がいないときは『内閣法』により内閣総理大臣臨時代理のみ。そして、それを務めるのはあらかじめ指定された5人の大臣』
あっ。
『そう。内閣総理大臣が死んだら臨時代理を決めなきゃならない。決めようと思ったらその5人を集める必要がある。決まるまでは動かないわよ。ほんでもってその5人も死んでるかもしれない』
となると自衛隊は動けない……?
『わね。明らかに危機的状況っぽいけど、動けば法律違反よ。そもそも生きていてもこれが『防衛出動』が許される武力攻撃か微妙だわ』
大怪獣とかなら判断割れそうだが、あのロボットは武力では?
『所属不明なのよ。あれ。なんか米中は似たようなのにやられてるって速報出てる。露、北は怪しい動きしてるけど「俺らじゃない!」って声明出してる』
うわぁ。わざわざ否定するのか……。
『俺です!とか言ったら真偽関係なしに戦争不可避よ』
大損害出してそうだしな。
『えぇ。超法規で自衛隊を出すにしても、今すぐは無理よ。誰が指示出せるのか分かんないもの』
システムに欠陥抱えてるだろ、それ。
『組織の宿命ね。先に言っとくけど警察は無理よ。あれは治安維持の力。言い方悪いけど、所詮、治安維持。出来て国民を避難させるための遅延行動でしょう』
なるほど。ところで自衛隊の出動の根拠が防衛法にあるのなら、俺らが自衛隊並みの火力を発揮する許可的なものの根拠は?
『『……』』
なんか言えや。
『それよりマスター。前方50 m, 右斜め下を』
それより、じゃないだろうに。長々説明してるんだから、大事な
『マスター』
いいから黙れってか。俺は知らんぞ。あとは野と為れ山と為……ん?
「ワイヤ!」
『!』
制御権は返還されてなくても奪い返せるのか。いや、今のは制御が甘くなってただけか? まぁ、どちらでも構わない。
右手から勢いよくワイヤを射出。先ほどアイが言っていた地点にいるロボットをワイヤが貫通、地面に突き刺さる。それを一気に巻き取る!
アスファルトに突き刺さったワイヤめがけ、勢いよく俺の体が進む。空中で体勢を整え、足を下へ。
進路にいるロボットを蹴り倒し、首を全力で殴る。
『ちょっ…。手足の先は結構機構が詰まってるからあんまし雑に扱わないでよ!?』
先に言ってくれ。もう手遅れだ。
『ご心配なく、マスター。その程度で破損いたしません。それより、胸の動力源の完全破壊を。それで完全に停止するはずです』
了解。今までのでだいぶひびが入っているが、やってやろう。
『銃で!手か足の銃を0距離で撃って!』
そっちのが殴るより損害出そうなんだが。それに、多少、この動力源が俺のと似ている気がしてやる気が出にくいんだが。
やれって言うならやるが。
エネルギーを足へ流し込み、射出。ズガン!という音とともに微妙に動いていたロボットは完全に停止した。
だが、ロボットはまだいる。今のはいちいち邪魔くさい。一撃で仕留めたい。
『脚銃なら50 m, 掌銃なら10 m以内から動力炉を撃ちぬいてください。それで沈黙いたします』
了解。俺が出てきてびっくりしてるのか、止まっている今がチャンス!
『イエス、マイマスター。身体能力は上がっていますので、多少の無茶は出来ます。思った通りに体を動かしていただければ、よほどでない限り、補佐します』
ありがたい。『だから無茶しないでって!』とか言われてる気がするけど、頼もしい。
じゃあ、行くぞ。右手からワイヤ射出。一番奥にいるロボットを狙い、そいつの動力炉を貫きながら、背後のビルの壁で止まる。
すまんな。ビルのオーナーさん。
『こいつらの被害って宣言すればいいわよ』
『博士。少女が逃げておらず、彼女が目撃していますが?』
何? こんな状況で逃げていないと? 謎。
だが、彼女を守り切るにはこいつらを殲滅せねば。エネルギー供給を断ち、引っ張られながら確殺出来る奴は胸、出来ないやつは足を狙って射撃。
当たる当たる。絶対、俺の才能じゃねぇわ。
『アイが微調整していますが、5割はマスターの才です』
5割。多いのか少ないのかわからんな。
それより、ワイヤと掌銃の同時使用は可能か?
『不可です』
なら、開いている左の掌銃を発射。ロボを破壊してからワイヤを抜き、左手でワイヤを左上方のビルへ発射。
ロボットどもの射撃を巻き取り移動で回避。したら左手のワイヤを引っこ抜き、左足のワイヤでロボット諸共アスファルトを貫通。
勢いよく高度を下げながら、脚銃で確殺距離の奴らの胸を回りながら撃ちぬく。
ワイヤだと直線移動っぽくなるのがなかなか辛い。軌道が簡単に読まれてしまう。もうちょっと移動手段、何とかならなかったのかね。
『時間がなかった。納期優先。仕方ない』
どこぞの下請け企業みたいなこと言うのやめていただけませんかね!
『事実、私は下請けだ!Yeah !』
開き直りやがった!?
『それでも、地面に足ついてんなら地面蹴るなりすれば、動けるでしょー』
終点が固定されてんのがマズいでしょうが! どんだけ軌道変えれても、終点固定なら底に飛んでいくの分かってんだから、そこ撃ちゃいいだけじゃないですか!
『でしょうね。そこはあなたが運用でカバーするのよ、カバー』
んな滅茶苦茶な。
『マスター!』
早速じゃねぇか! ビルに撃ったワイヤの終点。そこが銃弾で切り取られて、滑落してる!
『それくらい対応できんでしょうに』
どうやりゃいいか、アタリは付いてますからね!
体を空中でぐにゃっと曲げ、足の一本を横のビル、一本をその地面の足元へ発射。刺さった直後に巻き取り開始。
引っ張られて軌道を曲げ、程よく壁も曲がってきたところで、手のワイヤ回収。
俺らか引っ張られる力の消えた壁は勢いそのままにぶっ飛んでいって、ロボットを押しつぶす。
『G J!マスター!』
『破壊できてるかどうかの判断付かないけどね』
しゃーないでしょ。
この場にいるロボットは後、一体。乱射してきているけれど、弾幕が薄いからか避けられる。これもアイのサポートのおかげか。
『えへん。ですが、マスターの素質もあります』
褒められた?なら嬉しいのだが。
ま、別に一体ならわざわざ近づく必要もなし。ちょっと不格好だが、足の裏を相手に向け、脚銃発射。これで仕留めた。
周囲は?
『周囲に我らに仇なす敵影無し』
『でも、広域で見るとちょっと近づいてきてるわ』
了解。とっとと国立競技場へ行くか。
「ねぇ!」
! まだ逃げていなかったのか!?
「早く逃げろ!次が来たらどうなるかわからんぞ!」
「え、あ、でも……」
「早くしろ!」
困惑していた少女が本当に悲しそうな顔を浮かべる。でも、
「またね!」
目に涙を湛えたまま元気よく手を振って走って去っていった。
何故だ。何故、あの子にあんなにも動揺する? ……あの子、俺の過去を知ってる? なら、今からでも、
『無理よ。周囲からの増援。5体一組が10』
ちっ、癪だが、今から戻るとせっかく助けたあの子まで巻き込まれる。諦めるしかない。