表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mark2 人型加速指輪騎士2  作者: 三価種
Chapter2 印パ戦争
21/136

No.17 ディワーリー

 家が一杯あるところに着いた。お正月だって言うのにがやがやしているような気がする。



『がやがやしてるのは避難するためでしょうよ』

『同意します。ここは国境から近い上、オアシス都市です。補給が断たれれば餓死するしかありません。故に、避難したい人たちが移動しようとしているのでしょう』


 なるほど。だから日本で感じられる新年の雰囲気と違うのか。



『そもそも文化が違いますから』

『ね。日本だとよほどブラックでもなければ正月三が日くらいは休みだけど、インドは休みじゃないわよ?』


 え? マジか……。あれ、でも、白瀬(しらせ)さん、正月早々とか……言ってなかったな。



『えぇ、言ってないわ。言ったとしたら、こんな真冬に高山地帯で軍事行動とか、正気?くらいね。まぁ、うちでは正月なのは事実だから、一瞬、そう思わなかったこともないけど』


 一瞬?



『いや、だって……ねぇ。こんなところにいたら正月もクソもないじゃない?』


 うん、まぁ、確かに。地上とは程遠いところにいるからなぁ……俺たち。ただ、正月が割とのんびりした雰囲気だったのは覚えているけれど、誰と、どこで、どう過ごしたか。そんなものは一切思い出せないのだが。



『……』


 ……。



『インドでは正月は平日だそうです。多少、年が変わったお祝いはするらしいですが、それだけですね』


 助かった。アイ。気まずくなった空気を切り替えてくれた。ほんと、白瀬さん。当事者たる俺より怒ってくれるから、ちょい申し訳なくなるんだよなぁ……。



 で、元旦は平日なのな。日本の元旦的な日が別にあったりしないのか?



『します。ディーワリーというヒンドゥー教のお祝いで、『光のフェスティバル』とも呼ばれています。時期は我々の暦であれば、だいたい10月か11月です。美と豊穣と富、幸運をつかさどる女神『ラクシュミー』の誕生日として祝われます』


 誕生日なのに、日にち変わるの……?



『暦が異なりますので。ヒンドゥー暦と呼ばれる暦──インド伝統の暦の総称だそうですが──におけるカールッティカ月における新月の日だそうですよ?』


 新月! ということは……月で暦を決めるから、太陰暦か!



『正確には太陰太陽暦に属するらしいです。閏月を太陽の運行から決めるそうですよ?』


 へぇー……。じゃあ、パキスタンは? パキスタンはどうなの?



『パキスタンも特にないっぽいですね。「大きな宗教行事」ならば、全イスラム教徒共通のラマダン明けのイード・アルフィトルか、巡礼月のイード・アルフィトル(犠牲祭)かと。これらの日付もヒジュラ暦という太陰暦に基づくため、毎年ズレます。また、閏月などもないため、季節と一致しません。また、月の観測に主眼を置く等するため、地域・コミュニティにより日がズレることもあるようです』


 なるほど……。でも、なんで宗教絡んでるの上げたの?



『日本の元旦でしょう?ですから、宗教が絡むものを上げたのですが?』


 うん?



『元旦付近の行事を考えてみなさいよ。除夜の鐘鳴らして、初詣へゴー!よ?前者は仏教。後者は神道。宗教絡んでるでしょうに』


 思いっきり宗教絡んでたわ。あぁ、だからか。



『です。単なる年明けという意味で取るならば、インドもパキスタンも、用いる暦の一番最初の日になるでしょう』


 さっき言ってくれたやつか。



 で、びっくりするくらい話は変わるんだけど、中心の方に入ってきたのに、避難しようとしてるからか店がやってない。俺、どこに泊って、何を食べればいい? お金があっても、使う場所がなければ何の意味もないんだが。



『進展が急すぎるわ。まさかもう、避難進めてるなんて……』

『ですね』


 何故? 戦争するって言うなら、全域が戦争になってもおかしくないだろうに。



『二次大戦以降では基本的に局地戦なのよ。印パ戦争も第一次はカシミールだけ。第三次はバングラだけ。第二次はちょい微妙だけど……。限定区域内で殴りあうだけってのが多いわ。本当に国全部を出し切るような総力戦ってのは、二次大戦以降、そう起きてないわ』


 ふむ。それとお金があんま意味ないのがどう関連するんだ?



『だから、ここみたいな砂漠の都市は被害が出にくいから避難はない……と踏んでたんだけど。まだ激突もしてないし。でも、実際はこのザマよ。だからパキスタン側の思惑はどうあれ、インド側はかなり本気よ。おそらく、中華が死んでて、露国も中華で遊んでる間に、パキスタンを叩き潰す腹積もりなのでしょう』


 となると……戦争は止めれない?



『わ。だと思ったからマークスをここに送ったんだけど、情勢はかなり緊迫してる。いつ、空港にパキスタンが空挺降下してきてもおかしくないし、ミサイル、重砲部隊の砲撃が始まってもおかしくないわ』


 うわぁ……。そうなってくると激戦地になりそうな北に行きたくなってくる。けど、駄目なんだよなぁ……。



「おう、兄弟。ため息なんか吐いてどうしたんだ?」


 ん? この声は……さっきの傭兵団の隊長か。



「ため息なんか吐いてたか?」

「あぁ、吐いてたぜ」


 聴いた途端、馴れ馴れしく肩を抱き寄せてくる。黒サングラスしてるくせに、どことなく人懐っこそうな雰囲気があるせいで、あんま不快な気分にならない。



「どうした?言ってみ?楽になるぜ?」

「たいしたことじゃ……ないかと思ったが、たいしたことではあるな。進展が早い。まさか避難までしてるとは思わなかった」

「まぁなぁ、インドにとっちゃ割といい機会だしな。中国は死んでる。ロシアは中華に首突っこんでる。だから全力で殴れるって寸法だ」


 それは知ってる。白瀬さん達に聞いてる。



「懸念はイスラムVSヒンドゥーになって、イランやらがパキスタンを支援することだが、まぁ、しねぇだろうな」

『インドが掲げる大義はカシミール奪還か、英領インド再統一です。前者はご存じの通りで、後者はパキスタンを踏みつぶすものです。が、比較的仲のいいバングラとの仲に傷がつきます』

『だから、しないでしょうね』


 ありがと、アイに白瀬さん。



 こっそり教えてくれたから、彼に「言わなくてもわかってるよ」的な感じの反応を返す。



「だろ?だからインドにとっちゃ空前絶後の機会。好戦的な奴らはこっちから仕掛けてしまえとさえ来ていて、そこそこ穏健派でも相手に手を出させて殴れと来てる。止まらんさ。だから、俺らはここにいるわけだ」


 ニヒルに笑うと、ポケットから何かを取り出して口に突っ込んだ。



「傭兵は戦場が必要。そして、やるからには金払いのいいだろう勝ち馬に乗りたい……ってか?」

「ご名答。命を張っちゃあいるが、死にたいわけじゃねぇしな。後、出来ればあっちには付きたくない」


 真顔。反応に困る。明らかに宗教が絡んでる。あんまそこ突きたくねぇなぁ……。苦笑いで誤魔化しとこ。



「そういや、あんた何「おいおい、そりゃないぜ兄弟!」……」


 思いっきり遮られた。悲しそうな顔をしてるから何が言いたいかはわかる。


「仕方ないだろうが、お前は俺を兄弟と呼べるかもしれないが、俺はお前の名前を知らない」

「なんだ?兄弟も俺のこと兄弟(brother)って呼んでくれてもいいんだぜ?」

「はっ。無理に決まってんだろうが。俺はそんな社交的じゃねぇよ」


 初対面の人に兄弟とか言えるか? 普通。言えんだろ。まぁ、言えても言いたくないが。家族構成が記憶から抜けている以上、その人たちを差し置いて新たな兄弟を作りたくはない。



「そうかい。じゃあ、呼びやすいように名前を教えてやる。俺の名前は『ジュゼッペ ベンソ』。気軽に『ビーノ』と呼んでくれ」


 アイから聞いた通り。すごいなアイ。



『恐縮です』

「わかったよ。ビーノ」


 アイの声が聞こえてるのに、ビーノに返事しなければいけない。アイの声はビーノに聞こえないとはいえ、割と不思議な気分だ。



「ところで兄弟。兄弟の名前は?」

「俺?俺はマークスだ」

「おいおい、そりゃないぜ、兄弟!」


 何が?



「明らかにマークスって日本人名じゃないだろう?」


 ……確かに! でも、イタリア人なのにぽくないとかわかるものなのか? まぁ、それはいい。



「ビーノ。仕方ないだろう?あんとき、俺、お前に何て説明したよ?」

「うん?……あ。あー。りょーかい。確かにな。だったら日系アメリカ人とか、それっぽいところで設定作っとけ。……設定すらないのか」


 ごもっともで。



『いや、一応、あの場で言ってくれてもよかったのよ?どうせ、マークスの本名じゃないし……。てか、その方が誰に何て名乗ったかの管理がしやすいわよ?』


 仕方ないだろ、作戦行動中なんだから。守を使おうって発想なんて出なかったよ! 相手が本名を名乗ってくれててもな!



「で、だ。兄弟。あんた何を聞こうとしてたんだ?」


 !? よく覚えてるな、そんなこと……。



「ははは。俺、記憶力には自信があるんだぜ?で、だ。何を聞こうとしてたんだ?」

「そ、そうか……。まぁ、たいしたことじゃない。それだよ。それ」


 ビーノが手に持つものを指さす。それ、何なの? さっきから喋る時だけ口から出してるから、何かの食べ物ってのは分かってるんだが……。



「あぁ、これか?これはグミだ」


 グミ? え、グミって硬くて甘いアレ? ……あれって、棒にぶっ刺すものだったっけ?



「ははは」

「何がおかしいんだ?」

「いやなに、グミって言うと、たいていの奴らが「はぁ?こいつ、何言ってんだ?」みたいな顔するからよ。今の兄弟も例に漏れてなくてな、それが面白いんだ」


 何が面白いのかよくわからないが、ビーノ的には面白いらしい。割と強く膝頭を叩いている。



 背負ってる銃がガンガン体にぶつかってるんだが、痛くないんだろうか?



「美味しいのか?」

「兄弟。美味しくないモノを好んで食うと思うか?」


 思わないな。



『わね』

『ですね』


 満場一致。ここで「食べる!」って言われたらずっこける自信がある。



「俺的には美味しい。が、兄弟にはどうかわからん。味覚の差があるしな……。ほれ、一本食べるか?」


 どこからともなくグミを取り出すビーノ。……どこに持ち歩いてるんだ、こんなデカいの。



「ははは、この鞄の中さ!」


 何が嬉しいのか鞄を降ろして、ぱかっと開けてまで見せてくれるビーノ。ゴルフクラブが入りそうなくらい大きな鞄なのに、入ってるのは全部グミ。しかも同じ味。……お気に入りなのだろうか。



『いや、傭兵なら銃弾入れときなさいよ』

『銃弾もですが、水などを入れておくべきでは……?甘みは脳の栄養という点で有用ではありますが』


 それな。……まぁ、それを言うなら俺もトランク──銃が変形してるだけだけど──の中にほぼ何も入ってないんだが。



『お金とパラシュートありますが?』

『両方とも欠陥抱えてるでしょうに』


 それな。……とか思ってたら目の前にズズイッとグミが。まだ食べるって言ってないんだが。もらうけどさ。



「いただきます」


 口の中へ放り込む。……うん? ナニコレ? 市販のグミ……なんだよな? 弾力があるというレベルじゃないぐらいに硬い!



 噛めないなら舐めて味だけでも……。うへぇ……微妙。人が好きだって言ってるものに言うことじゃないけど、ステレオタイプなアメリカのお菓子! って感じ。赤色だからストロベリー味だと思っていたけれど、ただただ甘いだけだし、たぶんイチゴ果汁なんて使ってない。



 だからこのグミは果汁0%、香料でそれっぽくした無駄に長い紐みたいな形した、やたら硬い砂糖の塊。



『マジで言うことじゃないわよ。それ』


 だよなぁ……。



「兄弟!やっぱ無理か!だよなぁ……。仲間も「え。ボス。こんなの食べるんです?正気です?」って目で見られるからな!」


 えぇ……。



「てか、どうやって食べるんです?」

「ん?舐めて溶かす。強引に噛み切ってもいい!」


 こんな長いグミ、舐めてたらどんだけ食べ終わるのに時間かかるんだろ。



「それよか兄弟。おまえ、ご飯とか泊まる場所ないんだろ?俺んとここいよ!」


 え? えーと……、白瀬さん。いいの?



『いいけど、インド側につかないでね。インドが核を撃つなら、それを叩き落さなきゃ駄目だから』


 だよなぁ……。後でなんで裏切った!? って言われると大変だ。ていうか、俺、人を殺したくはない。



「あー。すまんすまん。こっち側について戦わなくていいよ。避難民の護衛についとけ。護衛専門の人材で、民に危害を加えるなら、官民関係なく殴る……そういっときゃいい」


 いいの?



『さぁ……?ただ、やるにしても国連の組織ってわけじゃないから、殴られるかもしれないわ。それは念頭においてね。あぁ、もちろん、マークスの目の前で守るべき人が死ぬかもしれない。その方面を気にしてという意味よ』


 ……了解。ありがとう。でも、それなら俺も見てるだけじゃなくて動ける。動けない……ってイライラするよりましだ。



「そうさせてもらう。ただ、俺の目的からして、あまり動けないぞ」


 国境から離れすぎると国境沿いから核ミサイル飛んだらどうしようもできなくなるかもだし、南北移動は言わずもがな。



「後方地域の移送ぐらいなら出来るだろ。よし!そうと決まれば飯だ!」


 ビーノがすぐそばの建物の扉を跳ね上げて、中に入る。引きずられるように入っていくと、ここはお店なのか、そこそこの人が座っている。ただ、全員、軍人っぽい。



 彼らとは顔見知りなのか、ビーノは気さくに彼らへ声をかけている。



「座れよ、兄弟」

「ありがと」


 いろんな人に見られてるけど、気にしないことにしてすわ……



『首相の緊急記者会見です』


 ろうとしたら、そんな声が据え付けられているテレビから聞こえてきた。俺に声をかけようとしていた周囲の人達もピタッと止まっていそいそと席に戻り、一瞬で静かになる。



 右上のワイプの中にいた、壇上の男性が全画面表示され、口を動かし始める。



『昨日、我々はチベット共和国との国境策定交渉を行い、改めてアルチャーナルプラデーシュ州が我らに帰属することを確認し、また、中国に奪われたラダックの一部を返還していただきました。また、東トルキスタン政府とも交渉を行い、こちらもラダックの一部を返還いただきました』


 嬉しそうに告げる首相。会見場で見ている人たちからも歓声があがる。



『これにて、我々が抱える領土問題はほぼ解決いたしましたが、まだ残っています。我々は今すぐこれを解決せねばなりません。そこで、我らは不当にカシミールを占拠するパキスタン政府に、カシミールからの三日以内の撤兵を要求します。撤兵していただけないのであれば、我らは武力でもってそれを排除することになるでしょう!』


 テレビの中で歓声が上がる。だが、部屋の中は静かで、だからこそ、



『不可避だと思っていた戦争がさらに不可避になったわね……』


 という白瀬さんの声がやけに耳に残った。

 グミは元ネタ居ますが、食感とか味とか完全創作なのでご注意ください。


『新年』の扱い

 概ね、本文に記載の通りです。


 インドは地域によって文化が違うため「1/1を統一の新年を祝う日」にしているようです。


『太陽暦と太陰暦と太陽太陰暦』

 太陽暦は太陽基準の暦です。日付と季節が一致しているため農作業や漁業などの自然相手の仕事がやりやすいです。

 太陰暦は月基準。月齢基準の暦と言った方がいいかもしれません。簡単に観測できるため、日付は月を見ればわかります。古来より用いられており、今でも神事などで使用されています。が、放っておくと季節と乖離してきます。

(ヒジュラ暦だと毎年、グレゴリオ暦から見ると新年は11日ほどズレるそうです)

 太陽太陰暦は月基準ですが、季節と暦の乖離を、太陽を使って抑える暦です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ