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Mark2 人型加速指輪騎士2  作者: 三価種
Chapter1 三都襲撃
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No.1 起動

「バイタルチェック、オールグリーン。後……」


 誰かの声が聞こえる。声質から判断するに女性。



 あれ? なんで俺はこうなってるんだ? わからない。だが、なんだかやばそうだ。手足はおろか、目を開くことも、口を動かすことも出来ない。



「あ。起きた?想定より5秒ほど遅いけど……。わたしが色々やってたから、誤差出ただけかしら?まぁいいわ。えっと、色々と聞きたいだろうけど、目だけは開けてあげる」


 は? 開けて?



 うえっ、眩しっ。俺が目を開けようとしたわけでもないのに、勝手に目が開いて天井の明かりが目に飛び込んでくる。



 けど、閉じることは出来ない。幸い、すぐに慣れた。



 ドラマとかの手術室で見たことのあるような天井だ。周囲の状況を見たいけれど、目が回らない。



「あぁ、まだそこまで行けてないわよ」


 ! ぬっと目の前に現れるのはやめてほしい。びっくりする。…今の状態ではぬっとあらわれる以外、ほぼ俺の前に出てくる方法はないが。



 覗き込んできた人は声の主らしい。やはり女性のようだけれど、手術室のはずなのにマスクさえ着けていない。



 唯一、首から下らへんにチラッと見えた白い服──白衣──だけがそれっぽい。



 しているメガネは普通の眼鏡だわ、長い黒髪は垂れ下がっているわと、衛生観念という言葉はお亡くなりになっているようだ。



「えっと、そろそろここを押してもいいかしら?……押しちゃえ」


 雑!? そんな軽いノリで押さないで!?



『空を虹色の光が貫いております』


 !? 何でテレビが付いてるの?



「ちっ、間に合わなさそうね。まぁいいわ。やることは変わらないわ。あなたはテレビでも見て待ってて」


 こんな状況でテレビを見て待っていられるわけがないでしょう!?



 とは思うものの未だに動く部分は眼球だけ。手足も動かなければ口も動かない。彼女が目を見てくれない以上、気持ちを伝える手段はない。



「あぁ、上向いてたら見えないわね。ちょうどいいから、回すわ」


 ころころと転がされると、テレビが目の前に。嫌でも見なければならない。



 画面の中では満席になったスタジアムの中から、カメラが上空を見上げている。



 暗闇を貫く二本の平行な虹色光。その周囲では盛んにライトが動き、演出が行われているが、二本の線の間には頑なに線は入り込んでこない。



『おぉっと、ここで来ましたブルーインパルス!』


 5機の飛行機が南東から虹色光の誘導路を突っ切り現れる。そしてスタジアム上空で、青、黄、黒、緑、赤のスモークを焚きながら円を描くように飛ぶ。



『1964年の再演です!あの日の青空に五輪のシンボルが描かれたように、今回は暗闇を照らす光の中、五輪のシンボルが描かれました!』


 シンボルは煙で描かれており、夜空をバックには見にくいはずだが、役目を終えたライトアップと、空に浮かぶ巨大な白い飛行船が背景の役割を果たし、カメラの中でははっきりとシンボルを認識できる。



 テレビの中の光景と言葉。これがCGでなければ、7月22日以降であるのは確かだろう。2カ月は眠っていたことになるか。



『花火が上がり始めました!』


 花火が打ち上げられ、飛行船が上空を飛ぶ中、ブルーインパルスは神業と言える飛行を披露する。そして、花火が作る誘導路の間を通って北東へ抜けていく。



「東京タワーの方角から来て、東京スカイツリーの方向へ去ってゆく……。時代の移り変わりを示しているのかしら」


 考えてそうですけど、めっちゃローカルなネタですね……。てか、見てないで作業して!?



 気配的には動いてくださってるみたい。でも、何で一人しかいないの!?



 心の中で絶叫しても視線はテレビの中。テレビの中では飛行船が花火の間を縫うようにゆっくり下がってくる。ある程度下がってきたところでワイヤーが投下。



『おぉっと、飛行船から何かが下りてきます!』


 黒い服を着た集団がワイヤーで降りてくる。日本で黒づくめと言えば忍者。きっと彼らはそれの体現だろう。



 彼らが降りてくると同時、ステージからも新たに忍者が現れ、手裏剣、体技を用いて戦いを繰り広げる。しばしの戦闘の後、決着がつかないからか、飛行船組が一か所に集まり煙幕。そして煙幕の中から有名な忍者漫画の主人公が現れる。



 彼の代名詞と言える技の構え。のち、発射のポーズ。映像をうまく重ね合わせることで漫画を見事に再現。それが敵っぽい忍者に激突。後ろの背景を突き破り、主人公もドロンと煙の中に姿を消した。



 少しだけ間が置かれると、ステージが回転。侍が2人現れる。有名な漫画のキャラを出してしまった以上、それと同じくらいのことをしないと見劣りしそうではある。有名な漫画のキャラもいるにはいるけれど、二番煎じ感はぬぐえないだろう。



 テレビを見ていてさえ感じる、膨らんでいく期待感。その中で二人の侍は映像とうまく合わせながら剣劇を披露する。



 左の人がすっと刀をひき、一気に飛びのき、刀を振るう。すると、刀から水が噴き出すように飛び出していく。右の人がそれに合わせて刀を振るうと、岩壁が出現。水が岩に打ち付けられて細かいしぶきを上げる。



 しばし、水をまき散らしながらも水と岩は拮抗していたが、水を出した人の方が強かったらしく、水が命中。土を出した右の人が吹き飛ばされる。だが、彼もただではやられないらしい。勢い良く投げられた刀が岩に後押しされて加速しながら飛翔。水を出した人に命中し、彼も吹き飛ばされる。



『出ました!『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』!』


 人がいなくなった舞台に描かれる有名な名画。先ほどの二人の均衡は、水が波しぶきに、岩が背景の富士山へと変じることで、違和感なくこの絵へとつなげられた。



 先の続きであるからか、動いている。絵を見た際の静の美しさは感じられないが、動いている分、動がある。巨大な波はリアルな水しぶきを上げながら崩れ落ちる。すると、奥から再び、巨大な波が現れ、一瞬だけ、名画の構図を取る。



 それが数回。10秒ほど堪能した後、波が崩れると富士山が噴火。ちょうど、富士山の火口に当たる部分から打ち上げられた無数の花火がパンパンと花開き、視線を再度上へと向けさせる。



 ぬっと姿を現す巨大ロボット。背後にはUFOみたいなものが飛んでいる。



 会場の盛り上がりは絶好調。司会者の人もテンションが爆あがりしている。だが、そばの女性は舌打ちをし、



「急がなきゃ。心臓と肺を再起動」


 とか言っており、テレビの中のこれを仕込んだ人達がいそうなところは大わらわ。



 UFOはそんなこと知らないとばかりに何かを投下。いくつも落下させると自身も降りてきて着陸した。



 落とされたいくつもの黒い球は重力に従って自由落下し、地面にめり込む。めり込んだ球から緑のランプが点灯。カタカタと自動で動いて、人間大のロボットに変形。そして、UFOは巨大ロボットへと姿を変じる。



 ロボット群は巨大ロボを背に半円に整列。右手を前へ、左手を添えるように構える。



 次は何をしてくれるのか。そのワクワクが抑えきれなくなった瞬間、巨大ロボが手を振り下ろし、黒い球だったロボが引き金を引く。



 静寂を貫く、ドドドドという発射音。少し遅れてカンという金属と衝突したような硬質な音、ぐちゃっという柔らかい何かを貫いた音が演奏に加わる。そしてその演奏は一拍遅れた悲鳴にもかき消されることなく鳴り響く。



『皆さん!落ち着いてください!パニックになっていてはより混乱がぐえっ』


 懸命に落ち着くように呼び掛けていたアナウンサーさんが撃たれたのか沈黙すると、もう一度ぐえっと声がして、カメラが地面に落ちる。



 一時の間、カメラは地面を映したまま悲鳴と混乱を伝える機材と化したが、テレビ局が無理やり切り上げたのか、それともカメラが壊れたのかはわからないが、暗転。



 そして、テレビはスタジオを映す……かと思ったが、女性がテレビを切ってしまったのか、テレビは何も映さなくなった。



「ちっ、まだちゃんと出来てないのに……」


 女性が何かを言っている。だが、俺はそれを気にすることが出来なかった。



 テレビの黒い画面に映るのは反射した像。だから、俺がテレビの正面に横たえられている以上、テレビに映っているのは俺。



 だが、何がどうなってこうなっているのかが分からない。



 顔はそんなに変わっていない。だが、右目の色が橙になっている。しかも、手や腕にはところどころに機械じみた部分がある。なのに、皮膚と同じようにその部分からも、何かが当たっている感触がある。気持ち悪くて吐きそうだ。



 胴の部分は心臓のあたりに謎の赤く光るものがある。



 目を閉じてじっとしていれば心臓の音は感じられる。心臓は無事。息を深く吸い込めば胸も上下……あれ?



「後はこれを上げればいいわね。『起動』。さーて、飲みますか」


 俺、さっきまで呼吸してたか? していなかったような……。



「あれ?気づいてない?おーい、動けるわよ」


 え? あぁ……確かに。動ける。動けるけど、明らかにおかしい。そのことについて追及したい。だが、それよりも。



「ありがとうございます」


 感謝を伝えておかねばならない。助けてくれたっぽいのだから。



 白衣を着てストローをぶっ刺して何かを飲んでいる女性に向かって腰を折ると、彼女は目を丸くした。



「あら……。できた子ね。でも、助けたわけじゃないわ。あなたが跳ねられたのは必然だったもの」


 は? えっと……、は?



「感情のリミッターが機能している……というよりは、困惑してるってのが正しそうね。一つだけ言わせてもらうと、私だってあなたを弄るのは本意じゃなかったわ。でも、所長がしろって言うのよ。だから許して……とは言えないわね。助けただけならまだしも、それ以外もしているもの」


 なんだか込み入った事情がありそうだ。だが、色々されたにしても、この人が助けてくれたっぽいのは変わらない。だから、



「ありがとうございます」


 やはり言うべき言葉はこれだろう。



「マジか……。罵倒されるの覚悟していたのだけど……。あぁ、もう!ごめん。時間がないから端的に伝えるわ。まず、私のことは博士とでも呼んで。あなたは?」


 ストローを飲み物ケースにぶち込み、ごみ箱に放り投げる博士。彼女は何かを二つ取り出し、弄り始めた。



 見てる場合じゃない。名前ですよね。名前。俺の名前は……あれ? 俺の名前が出てこない。俺は一体、誰だ?



「もしかしてだけど、名前が思い出せない?」

「そのようです」

「何か覚えていることは?」


 俺に関わること……、あれ? 何も思い出せない。確か幼馴染の女の子を突き飛ばし……なんでだ? 何で俺は突き飛ばした? そしてその子の名前は……。



「ごめん。処置をしくじったか当たり所が悪かったかで記憶が飛んでるっぽいわ」

「マジですか……」


 困惑はある。だが、それまで。もともとの俺なら錯乱していそうだが、そうはならない。これがさっき、博士が言っていたリミッターとやらの作用なのだろうか?



「どうなんだろ?リミッターが機能してるかどうかは未知数だし……」

「あれ?喋ってなくてもわかるのです?」

「あぁ、それはそういう改造したから。一応、仮に(まもる)って付けとくわ。コードネームは『マークス』で別につけるからごちゃにしないように」


 コードネーム? なんでそんなのが必要なんです?



「さっきの中継見たでしょ?」

「はい」


 途中までは中継だと思っていたけれど、最後の地獄絵図のせいで一気にCGだろって思えたアレね。それが……え? 中継?



「あれは本当にあったこと……」

「よ」


 あの惨劇が本当にあったことだと?



「信じられなくてもいいわ。本当に申し訳ないことにあなたには戦闘に参加してもらうことになるわ。” Man Accelerated Ring Knight 2” として」

「ごめんなさい。今、なんと?」


 耳がおかしくなったのか?ものすごい言葉が聞こえてきたのだが。



「” Man Accelerated Ring Knight 2” よ。略して”Mark2”。日本語で言えば『人間加速指輪騎士2』ね。この珍妙な日英言語センスは私のせいじゃないわ。だから、この件に関して私は無実よ」


 うん、そっちも聞きたかったことですが、そっちは割とどうでもいいです。



「戦うって?」

「あぁ、ごめんなさい。そうよね。あなたは手術を受けた結果、Mark2に改造されたわ。超簡単に言えば戦闘用サイボーグになったってこと。で、本格的にタイムアップよ。こっちの調整が終わったもの」


 博士の手にきらり輝く2つの指輪。それが俺の両手の小指に一個ずつはめられる。



「じゃ、射出するわ」

「!?説明!もっと詳しい説明を!」

「説明は後からでも出来るから大丈夫!さぁ!ちょっと黙っててね!」


 ッー! 声が出せないようにされた! さっきまでの件で分かってたけど、体の制御権を俺から奪うこともできるのか!



「AI!起動しなさい!『起動しました』OK。射出準備!」

『了解しました』


 機械と博士の声だけが響く中、俺が寝かされている台がゆっくり持ち上がりながら回転。



『射出準備完了』

「射出カウント!」

『OK。スリーカウント開始。3, 2, 1, ファイア!』


 俺の声にならない声は完全に無視されたまま、俺の体が急激に加速される。



 ぐいぐい加速されながら、くねくね蛇行する未来的な道を勢いよく通過。最後に水の壁を突き破って、空へ。



『マスター射出成功です。パラシュートの用意を』

「!?お前は誰だ!?」

『博士とともにいたサポートAIです。それより、すぐさま着地を。敵に発見されていないでしょうが、このままではいい的です。ご自身でされないのであれば、スリーカウントののちに勝手に致しますが』


 言われてもまずやり方が分かんねぇよ!



『ですか。では、こちらが。参ります。3, 2, 1, 0』


 0と同時に体の制御が失われ、体が勝手に動き出す。



『脚部ワイヤー射出』


 声と同時に足からガキン!と金属音がして、シュルルっと何かが飛び出す音が続く。かすかにザクっという音が鳴ると、



『回収』


 先ほどとまったく同じようなトーンで機械の声が響き、地面に猛烈に引っ張られていって、着地。



『マスター。着地成功です』


 着地? あれが? 加速して激突しに行ったの間違いでは?



『損傷はないはずです。それより、競技場へ。ですよね、博士?』

『えぇ。それでいいわ。では、頼んだわ』


 だからぁ! 何が何だか分からないって!

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