良い思い出になりそうです
会場へ行く途中にあった鏡を見たとき、ルーシス様の隣にいる美女に腹が立った。
まぁ、シェリーなんだけど。
私の中のシェリーってほら、グルグルヘアで厚化粧してる印象が強かったんだけど、今ってそれを全部取っ払ったでしょ。
それを失くすとただの美女になるのは分かってたんだけど。
隣に立っているのが主人公じゃないっていうのが何とも腹立たしい。
そこにいるのは貴女じゃないってシェリーの中にいる私が言ってるの。
早いところここの立ち位置になる人を探さないと駄目ね、私のためにも。
「どうかしたかい?」
途中で足を止めたから、ルーシス様まで止まってしまったわ。
遅刻させるわけにはいかないから急がなきゃね。
「いえ、行きましょう」
ドレスの裾を持って足を踏み出そうとすると、何故か止められ右腕を差し出された。
何だ?
まさか、腕を掴めとか言いませんよね。
「エスコートするよ、手を貸して」
やっぱりそうですよね!
そういえば戸惑う主人公にもこうやって腕差し出してたっけ。
えぇい、もう今日は遠慮なく触りまくってやる。
「し、失礼します!」
そう言って彼の腕に手を触れさせると、こっちかな?とか言って私がまるで腕を抱き締めているかのようにされました。
恥ずかしいな、これ?!
私だったら当たるわけもないものがルーシス様の腕に当たってるし、細い腕かと思えばがっしりしてたわ。
それに近付いたせいか爽やかな香りが鼻に。
「じゃあ行こうか」
え、緊張してるのって私だけですか?!
あれですか、エスコートし過ぎて今更ですか。
大好きな主人公じゃないからドキドキすらしないとか。
悲しい…悲しいわ。
やっぱり私じゃ駄目なのね。
そうこうしながら会場へ入ると様々な視線が突き刺さってくる。
きっと、あのルーシス様の隣にいる女性は誰、とか言われてんだろうな。
自分の心臓の音が煩すぎて何も聞こえないけど。
というか、いつまでこの手を掴んでいれば良いのでしょうか。
いい加減離しても良いよね?
中入ったんだし。
中に入ってまで一緒にいることないよね?
しれっと離そうと、腕を動かそうとしたら何故か腕を掴まれました。
え?
何でよ。
もう良いでしょ、そう思って顔を上に向ければイケメンが。
あ、駄目凄い顔近い。
睫毛長いし肌きめ細かい…じゃなくて。
「駄目だよ、席に着くまでこのまま」
え、席に着くまでってまだまだ距離あるんですけど。
だって入り口から一番奥までってことですよね。
それまで心臓持つのかしら私。
「ルーシス様、こんばんは」
「ルーシス様、ご入学おめでとうございます」
そこへ向かう間、通りすぎる際、皆口を揃えてそう言っていたような気がする。
流石王子様ね。
ルーシス様も慣れたように返してるし。
生きてる世界が全然違うのね、当たり前だけど。
「はい、君はここに座っていてね」
やっと席に着いたときには私のHPはゼロでした。
離そうとしたときは止められたのに、離すタイミングになるとすんなり外させるのね。
そりゃそうよね、仕事で掴ませてるようなものだもの。
あぁ、疲れた。
ただくっついて歩いただけなのにこの疲れよう、何。
来たばかりだけど帰りたい。
帰りたいけど、この服とかどうしたら良いのか分からないからせめてそれだけでも聞いて帰りたい。
後日返すのでも良いですかね、ルビに。
ルーシス様に直接返すとか出来ないから。
本当は面と向かって返すべきなんだけど、ほら、会わない方が良いじゃない?
私の運命的に。