まさかの
「シェリーさん、立ち上がれますか?」
女神が目の前に立って顔を覗き込んできてます。
あぁ、可愛いし美しい。
でも、ごめんなさい。
喋れません、ごめんなさい。
「おいおい、やりすぎだろイオン」
もっと言ってください、ライド君。
そういえばこの2人も仲良さそうね。
隣に並んでも違和感ないわ。
私の見立ては良かったみたい!
良かったわ。
それにしてもどうしたものか。
ロワールちゃんの小さな手に触れられて私は幸せなんだけど、足が小鹿のように震えているのだけど。
主に右足。
その時。
「君、大丈夫かい?」
私は幻聴が聞こえてきたかと思いました。
だって、だって、この声は?!
「あれ、ルーシスだ。 用事済んだのか?」
「うん、もう大丈夫だよ。 あとは彼に任せることにしたから」
兄弟仲良く話してる姿なんて初めて見た、じゃなくて。
恐ろしくて振り向けないのですが、背後にいるのって、まさかルーシス様じゃないですか?!
「あ、そう。 それよりイオンが置いたバナナの皮…」
うぁああああ?!
言わないでライド君!
私が如何にドジで間抜けなのかルーシス様に知られてしまうじゃないかー!
「あ、あの、私大丈夫ですから!」
もう、小鹿の足だろうか何だろうが左足に重心を掛け立ち上がり、その場を駆け抜けました。
凄く足痛かった。
泣くほど痛かった、それはもう。
「ぜんぜー」
保健室に着いたときにはもう顔面蒼白で、顔はありとあらゆる汁が出まくっていてとても見せられない顔になってましたよ、はい。
それを見た保険医の先生は引いてました、そうですよね。
いくら顔が美人でもこんなデロデロのドロドロの顔していたら引きますよね。
髪の毛もボサボサだし。
折角頑張って朝アイロン見つけて制服のシワを伸ばしてきたというのにもう元に戻ってるし、何なのよ。
「ど、どうしたの?」
「あじがいだいでず」
「あじ?」
「あじ……!」
魚の鯵じゃなくて足。
もう先生ってば私の顔見て何こいつ言ってんのって顔してる。
分かるけど、分かるんだけど今はとにかくこの足どうにかして!
「あぁ、足ね、うわぁ…腫れてるね。 冷やすからそこの椅子座って」
足を先生の前に出した瞬間、私が何を言いたかったのか分かったらしく、先生は戸棚の方へようやく向かった。
あぁ、今日は何て厄日なの。
避けていたはずのルーシス様とも軽く接触してしまったし。
でも、生声がこの耳に!
姿は見てないけど声が、イヤホンからでもゲーム機からでもなく、何も返さずに聞こえた!
ってそれで喜んでは駄目よ、私。
あのルーシス様は主人公のルーシス様なんだから。
嫌でもそれでも、ついつい顔がにやけちゃうわ。
「だ、大丈夫? 顔色が悪いよ」
戻ってきた先生は人の顔を見るなり、また顔をひきつらせている。
顔面蒼白になりながら顔をにやけさせるっていう芸当ができるのは私だけね、きっと。
「大丈夫です、あはは」
そんな嫌な顔しないでくださいよ、先生。
それより足、私の顔じゃなくて足見て先生!
「無理はしてはいけませんよ。 はい、足を診るからこちらに足出して」
それから先生に足を診て貰ったのだけど、骨には異常なさそうだって。
そのあと患部を冷やして軽くギブスで固定してもらったら痛みがだいぶ弱まったわ。
流石先生。
物語ではモブ的な存在だったから女性か男性かも分からなかったけど、女性だったのね。
「先生、ありがとうございました」
「お大事にね」