国の借金ってなんだよ
日本の借金は1100兆円を超える。
国民一人あたりで何百万もの額になることになる。
これを問題視する者は政治家、民間人、マスコミ、学者それぞれに多い。
しかし実際のところ、これが騒がれ始めてからなんだかんだ言って国が財政破綻したという話にはならない。
これは一体どういうからくりなのだろうか?
国の借金と普通の借金はどう違うのか、二人の対話を追って分析しよう。
登場人物
A:ニュースを見て鋭敏に反応するタイプ。
コロナを怖がって引きこもり、ゾンビ対策と言ってサバイバルの準備をしていた。
B:ニュースを冷静に分析するタイプ。
Aが暴走するたびに制止する役を負わされている。
芸能人のスキャンダルだけは死ぬほど興味がなくて流れるたびに苛ついている。
A「国の借金は1000兆円なんだ!もう終わりだ!全員借金地獄だ!ウ○ジマくんが来るんだ!」
B「そうだね。」
A「何冷静になってんの!?絶対ヤバいってこれ!」
B「…いい加減ニュース見るたびに騒ぐのやめなよ。
ああいうのはニュースにするためにわざと大げさに危機感を煽るんだよ。」
A「うっ…でも怖い…もしかしたら次のニュースだけはガチでヤバい奴かもしれないと思うと…。」
B「まあ確かにね。ニュースで言ってることは全部ウソだって思ってたら本当に危機が訪れたときに無防備になっちゃうからね。」
A「また解説して落ち着かせて~…。」
B「そうだね。」
B「じゃあ、まず最初に借金ってどういうものだと思う?」
A「いきなりめっちゃ初歩的質問じゃん。お金を借りるってことでしょ。」
B「そうだね。お金が必要な人がお金を借りて、貸したほうは後で利子をつけて返してもらうのが目的だ。
で、民間人の感覚としてはクレジットカードや、創作の世界でよく見る闇金とかのイメージが強いね。」
A「やっぱ返せなかったら差し押さえだよ。
日本の借金をこのままにしてるとみんなポルトガルの奴隷商人に買われちゃうんだ…。」
B「どんな大航海時代を想定してるんだよ。
…まあ実際、国の借金にしても返す能力が無くなればデメリットがあるというのは事実だね。
もちろん、これは由々しき問題だ。
でも、すぐに国が崩壊するということにはまずならないとも言える。」
A「なんで?」
B「その説明を今からしよう。
まず、日本の借金に対しては現状2つの捉え方がある。
マスコミや財務省が主張するように、『増税してでも借金の増加を止め、いずれは返さなければ行けない』というもの。
もう一つは、一部の反緊縮派…つまり増税に反対している人たちの主張する、『日本銀行がお金を刷れば解決する』とか、『日本は日本国民が国債を買っているから大丈夫』というもの。
これは、どれもいくつか間違った部分がある。特に、『日本銀行がお金を刷れば解決する』というのは絶対に間違っている。
3つのうち、まずはそこから話していこう。」
B「日本銀行…国との結びつきが強いから実質的に国なんだけど、国がお金を刷って借金を返すっていうのはあまり良いことじゃない。」
A「…?どうしてだろう。別にお金なんていくらでも刷れるんじゃない?
日本がお金を作りまくれば、借金を帳消しどころか一家に一台ランボルギーニまで行けるんじゃないの?」
B「うん、面白い例え方だね。じゃあそのランボルギーニに例えて話そう。
ランボルギーニはどうして高級なんだと思う?」
A「うーん…。作れる台数が少ないのと、手間がかかるから?」
B「そうだね。じゃあ仮に、無限にお金を持ってる人がいたとして、ランボルギーニは無限に買えないんじゃないかな?」
A「あ、そういうことか。お金がいくらあっても実際に物を作ってる現場が急に発展するわけじゃないから、意味がないのか。」
B「経済の基礎だね。更に、今まで存在したお金の価値が全くなくなることで、借金どころかみんなの財布の中の金や口座に預けている金の価値も全部0になる。
無限にお金を供給したら、その分全ての値段が上がっていって、やがてお金の価値が無に帰る。
ジンバブエや戦間期のドイツとか、実際にそうなった例もあるしね。」
A「でも、借金返済なら関係ないんじゃない?別に何かを作ってるわけじゃないし、値上げのしようもないじゃん。」
B「まあそこだけ切り取ればね。でもお金を貸した人たちはその儲けを他で使うために貸してるんだから同じことだよ。」
A「あ、そっか…。」
B「次に、『国は絶対にお金を返さなきゃいけない』という意見と『同じ日本国民だから返さなくても大丈夫』という話についても説明しよう。
これも両方とも少し間違ってる。」
A「それはまたどうして?特に前の奴の方は、お金は借りたら返さなきゃいけないのが普通じゃないの?」
B「まあ一個人でならそういう傾向はあるね。
でも企業や政府となるとわけが違ってくる。
例えば、お金を借りてるくせに返さない、しかもそれで合法的な企業が身近にあるよ。」
A「え?そんなヤバい奴いるの?」
B「銀行だよ。
学生でも、みんな一回は銀行を使ったことはあるんじゃないかな。
お金を預けて引き出すところだっていうのは分かるよね。」
A「それは流石に分かる。」
B「だよね。そして、銀行にお金を預けるというのは、銀行にお金を貸しているということでもある。
でもそれは、絶対に引き出さなきゃいけないなんてことには普通ならないだろ?
みんな財産のほとんどを銀行に預けてはいるが、誰も『おい!俺の貸した金を返せ!』って言って毎日預金を引き出しに行くことなんてないだろう。」
A「確かに。」
B「つまり、無限にとは言わないけど、みんなが生活費等に使うために引き出す程度のお金以外は、銀行はずっと手元に置いておける。
そうなれば、銀行はそのお金で他の企業の株や、あるいは国債を買うことで投資を行うことができる。
そして、株の値段が上がったとき、つまり企業が儲けを出したときに売却すればその儲けをこっちも得られる。
そうやって自分たちの給料を稼いだり、新しい銀行を建てるお金や預金者への利子の元手にしてるわけだ。」
A「うーん…。理屈は分かるけど、それってちょっと危ないシステムじゃない?
人のお金を勝手に使うようなものだし、それで失敗して返せなくなったら大変なことになるんじゃ?」
B「その通り。実際、今までも世界規模でそれが起こったことはある。
その度に戦争が起きたり、失業者で溢れたり、人類に大きな損害が出ることになる。
別に食べ物がなくなったわけでも何か実在するものが壊れたわけでもないのに、国や銀行や企業の信頼が投資家の間からなくなっただけでみんなが困ることになる。
でも、やっぱり貯蓄されて動かないお金ばかりの社会よりは、遥かに経済が回る。
私達はそういうリスクと引き換えに、豊かな暮らしを得ているわけだよ。」
A「豊かさとリスクは表裏一体なのね…。」
B「そういうこと。
そして、さっきから言ってる通り、そういうシステムは国自体にも当てはまる。
国債をすぐに返して欲しがるような人は、そもそも買わない。
ずっと国にお金を預けておいて、その証明である国債そのものを自分の財産として扱っているからね。
そして、貸しているのが同じ日本国民だからこそ、『もしも自分たちが一斉に国債を返せと言ったら、自分たちの住んでる国自体が破綻してかえって損をすることになる』というが分かっている。
だから、なおさら『すぐに返す必要のある借金』という扱いにはならないということさ。」
A「そういうことなんだね。」
B「うん。ところで、日本の借金と一緒によく語られるギリシャの経済破綻とか、あるいは発展途上国の貧困問題とか知っているよね。
あれも根本的な問題はここにある。
自国民が貧しすぎて、あるいは観光業とか資源輸出といった国自身が管理する単純な経済構造に依存してるせいで、国民が国に金を貸せるような経済がそもそも養われない。
そうなると、やっぱり自分たちで海外にアピールして金を借りてこなきゃいけない。
ところが、不況になったり自分たちの国の実情が悪化すると、海外の投資家は容赦なく国債を売り払う。
なんせ対岸の火事だからね。慈善事業で貸してるわけじゃないし、貧しい人々の暮らしなんかより自分の身を守ることを優先するってわけさ。
そうすると、道路や病院、学校の維持ができなくなり、国家国民まるごと地獄行きってわけだよ。
でもそれで投資家を憎むのは筋違いだよ。
私達だって、貧しい人たちのために全財産を投げ売って、同じような暮らしにまで生活レベルを下げたりはしていないんだから。」
A「でも、最初に『日本国民から借りているから返さなくても良い』っていう意見も間違ってるって言ってなかった?」
B「もちろん。さっきも言ったけど、これはあくまで国民が余った財産を使って買ってくれた国債なんだ。
だから無限に持ってこれるわけじゃない。頼り過ぎたらいずれはパンクする。
それに、これを買ってるのは富裕層だったり、大きな企業や銀行だから、国全体よりも自分たちの経済基盤の方を優先させなきゃいけない。
もし本当に日本の経済がヤバくなると察したら、彼らは自分の資産をまとめてもっと安定した投資先に逃げようとする。
そうなれば、晴れてギリシャの仲間入りってことになる。」
A「…やっぱりヤバくない?
いつかパンクするってことでしょ?」
B「いや、別に絶対ヤバくなるのが確定ってわけではないよ。
国は確かに借金をするけど、そのお金は公務員の給料や公共事業費、今なら特に福祉費に投入される。
そのお金は巡り巡ってまた企業や銀行のところに行って、そこからまた彼らは国債や株券を買う。
だから額に上限があるわけじゃないんだよ。
どちらかと言うと、そういった資本家たちの間に日本経済への危機感が募るような出来事が起こるほうが危ない。
今で言うとコロナとか、それに伴う他国の経済破綻とかね。
それに関しては一応まだ破綻するところまでは行ってない。正直結構危ないところに行ったかもしれないけど。」
A「でも、じゃあやっぱりヤバくなる前に増税して税収を安定化させたほうがいいんじゃない?」
B「このタイミングで増税をして借金の増加を止めようとするのはむしろ悪手だよ。
懐にダメージを負ってるのは国民も企業も同じ。
もし下手に税金を取って、ただでさえボロボロな経済がトドメを刺されると、かえって今まで問題なく維持できていた予算配分が破綻して、さらなる緊縮…つまり予算削減と増税を繰り返す返済地獄になりかねない。
国の経済が破綻すれば誰も国債を買わなくなる上に、増税しようにも税金をかける経済がどんどん萎んでいくからね。
国家の破綻を避けるならお金の運用を変えて誤魔化すんじゃなく、経済の実体を改善していくしかない。
つまり額面を気にするよりも実際に起きてる問題を解決していくほうが先ってことだ。」
A「つまり要するに…、借金が増える事自体はめっちゃヤバいってわけじゃないけど、やっぱりなんかあったらヤバいってこと?」
B「そうだね。要約すると、額がいくら増えてもいいけどなんかあったらヤバい。
資本主義社会っていうのは基本的に発展が止まったら死ぬマグロ。
借金で泳ぎ疲れることを心配するよりも、他の壁にぶち当たることを心配したほうがいいってこと。」
A「そういうことね…。」
A「…要するに、私達の命はお金持ちが握ってるってこと?」
B「そうだね。」
A「マジかぁ…。やっぱり靴舐めたほうが良いんだろうな。」
B「別にお金持ちの人は舐めてほしくないと思うよ。」
A「でもお金持ちの人たちには感謝だよ~。今まで共産主義革命狙っててごめんなさい!」
B「こいつこっわ…。」
完