ハイ・ファンタジーの一部としての戦闘技術
狼は眠らない(支援BIS)
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この作品……というよりこの作者さんは、この書評シリーズで扱うよりも、「モチーフ」「文体」という切り口で語ったほうが特徴を捉えられる人だと思います。「藤沢周平の原案を北方謙三が書いている」ような、「組織・社会の中の個人という得意なモチーフ」「三人称でハードボイルドな文体」がこの人の決め球です。ですから「運命に翻弄される主人公たち」といったストーリーがホームポジションで、デビュー作ですでに完結している『迷宮の王』にそれは際立っています。
ただこの書評シリーズで組織・戦術を中心に語るには、次々にコントロールしがたいイベントが起きる『迷宮の王』より、現在も執筆が続いている『狼は眠らない』のほうが良いように思います。タイトルは「眠らない」ですけれども、続きが気になって全部読むまで眠れないのは読者の方です。
無口だが情がないわけではなく、敵は許さず借りは返す冒険者レカン。それが様々な才能を開花させ、迷宮の主を倒してはレアアイテムを装備して強くなっていく物語です。「種銭」のように、別のファンタジー世界から飛ばされるときにいくつかのレアスキルとレアアイテムを持ち込んでおり、新しい世界で台頭していく元手となります。本人は迷宮探検大好きの戦闘ジャンキーであり、レアアイテムのためには友を斬殺することも真剣に考えてしまいますが、いわゆる名利には無関心です。唯一無二の性能を持つアイテムや武器が次々に現れますが、その限界や弱点を突くアイテムや武器が追いかけてきます。
この作品世界は一言で言えば「泰平の世」であり、王権は盤石ですが大貴族同士の貸し借り、神殿や騎士団も加わった我欲と専横が物語の背景にあります。なにしろ主人公がシュワちゃん的に「敵は許さず借りは返す」うえ、迷宮で稼いでリッチなので、敵も味方も増えていき、それらが所持するアイテムがまた物語に絡んできます。すでに長い物語ですが、いわゆる「ドラゴンボール現象」を巧みに避け、ゲーム的な「鑑定スキル」によるアイテム情報開示をしながらも人のレベルやパラメータ開示はせずに、新たなピンチを演出しています。もちろん打撃・斬撃・刺突の描き分けといった基本的な文章スキルが高レベルだからできることです。