重大問題は魔力とスライムによって解決される
神達に拾われた男(改訂版)(Roy)
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キャラが覚えきれなくなって前半を読み返したのを見計らったように最新第18巻が出ました。いま記事を書かないとまた忘れてしまうのですが何を書きましょうか。
魔力の枯渇に悩むセイルフォール世界へ、魔力を利用しない地球世界から魔力を移す際、ひとりの魂を移して転生させる必要がありました。ですから創造神ガインたちが管理するセイルフォールは、過去に何度も転生者を受け入れ、頻度は少ないので伝説的存在ではあるものの、そうした存在(神の子)が生じることは知られていました。ところが地球世界を管理する神は魔力補充を快諾しながら、そのとき移す魂に悪質ないたずらを仕掛けていました。
厳格な親に武道を叩き込まれたことと、その結果正当防衛ながら人を殺め、かろうじて拾ってもらったブラック企業に押し込められるように働いたことで、リョウマ・タケバヤシの魂には現代人が普通持っていない戦闘の素養と、強靭で操作不可能な精神が宿っていたのです。地球の神は逆境と戦闘能力によってリョウマが感情を爆発させ、大犯罪者となるよう誘導していましたが、それを最後の一線で思いとどまったリョウマは、魅了など他の精神操作も受け付けなくなっていました。
セイルフォールのリフォール王国にある深い森。そこに8才の子供として転生したリョウマは、高いサバイバル能力でしばらく独居します。魔素をもらっている立場上、地球の神の非道は糾弾できないまでも、セイルフォールの神々はそれぞれリョウマに同情しました。サバイバルのために神々が与えた手厚い魔法スキルと戦闘関係スキルに加えて、高い家事能力を持たされたことは、現代知識と組み合わさって後々リョウマの事業を支えていきます。そして従魔術を発揮してスライムを飼ったリョウマは、その様々な(都合の良い)進化形を操り、戦闘に生産に各種サービス(清掃、洗濯、建築……)に活用していきます。
3年後、11才のリョウマは従魔術の家系として知られるジャミール公爵家の家人たちと接触し、その保護のもとに王国へと現れます。公爵領の街ギムルに落ち着いたリョウマは、スライムに汚れを落とさせる洗濯店バンブーフォレストを皮切りに、多くの事業を軌道に乗せ、住民たちを巻き込んで所得や衣食住の水準を向上させていきます。冒険者としての自由な活動を暮らしの中心に据えたリョウマは、旅先の地域問題や謎解きにも取り組む一方、公爵家を敵視する勢力からギムルの安寧を守るためにも力を振るいます。当代ジャミール公爵ラインハルトのひとり娘エリアは、義理の叔父である国王エリアスが「リョウマに会ったらとりあえず一発殴る」と口走るほど(書籍版第10巻)リョウマに好意を示しますが、王都の学園で貴族・勢家の子弟たちと織りなす外交も含めて、ジャミール公爵家がリョウマの事業を後援して経済力をモリモリと増大させることが、ジャミール公爵家を外交戦に巻き込んでいきます。
おそらくこの連載の観点からは、この作品固有の特徴その1は、ジャミール家の変容過程にあるでしょう。善良で親切で、主人公が担うべき世間からの風当たりや社会的責任を引き受けてくれるパトロン貴族家または王家は、なろう系小説にはつきもので、この連載にもレギュラー選手のように登場してきました。しかし「主人公を保護するうちに行動が変化した」パトロンというのはあまり思い当たりません。
ラインハルトの父ラインバッハ(存命)は神獣たる龍とその眷属を従魔として鎮めた英雄であり、そのまま外国軍を退けた英傑です。その子としてプレッシャーを受け続けたラインハルトは、現在の妻であるエリーゼ王女や、偉大な父を持つ悩みを共有するポルコ・ファットマ伯爵など限られた友人しか持たない青年時代を過ごしました。その身に巨大な戦力を体現するラインバッハは利用されれば危険であり、逆に一派を率いれば王国の脅威でもあって、最低限の社交しかしないという姿勢を保ってきていました。それが、リョウマと領民たちを守るために、そうも言っておれなくなったのです。
転生前のリョウマは、地球の邪悪な神によるお膳立てで、もちろん直接的には人の手によって、周囲の人の輪から切り離されてきました。この物語は、リョウマが人の輪の中で再び名誉ある地位を占める物語です。そうだとすれば、リョウマがそうなるように、ジャミール家もまた人の輪に戻らねばならないのでしょう。いいことばかりではないとしても。
ふたつめの作品固有の特徴は、これと関連しますが、前世でリョウマを苦しめた身勝手な人の思い出、理不尽な不利益を受けた思い出がときどき克明にフラッシュバックしてくることです。今生が十分な多重加護に守られて安泰であるから平静に読めますが、まあ正直、時々読み飛ばすこともあります。それらを思い出すきっかけとして、転生後のセイルフォール世界での悪意をしばしば受けますが、リョウマが未然に敷いた用心も手厚く、味方になる人々も多くて強いので、その悪意自体は『魔法科高校の劣等生』シリーズ並みのワンサイドゲームで退けられます。この世の中を満たしている無配慮、身勝手、我欲と嫉妬がリョウマに間接的に跳ね返され、克服されていくところがこの作品のカタルシスとして作者の計算にあるのでしょう。
リョウマは前世譲りのワーカホーリックで、働きすぎだと言われたり、力ずくで休まされたりしますが、とくに困っている人をそのままにせず、あれこれ理屈をつけて援助をします。しかし多くの人を巻き込み、大きなリソースを計画的につぎ込むときほど、「まず政策手段とリソースを確保して、その範囲で達成できる目標しか立てない」方向で話をまとめようとします。持続可能性がない目標追求で、絶大な力を持つ者を破滅させかねないところで、「セカンドベストでしかない公共政策」という割り切ったセンスを、誰にも言われずに身につけているわけですね。そこが最大のチート要素であるかもしれません。
いまちょうど次の作品を読んでいるのですが、
『女神から『孵化』のスキルを授かった俺が、なぜか幻獣や神獣を従える最強テイマーになるまで』(まるせい)
https://ncode.syosetu.com/n7303ii/
最強[召喚獣をずらりと抱える]テイマーになりつつある主人公クラウスは、国王にはっきりと、こう言われます。我が国への脅威となるつもりがないなら、[その証として、爵位を受けるなど]権力を持てと。まあリョウマはジャミール家の「技師」として、他の貴族が引き抜きできないような待遇上の「印」は持っているし、どんどん巨大になる事業と従業員集団が人質のように働くので、全勢力から独立な状態は脱していますが、国家に対してもっと何かを約束し、義務を負うことがそのうち求められるのかもしれません。




