リソース管理者としての指揮官
3か月ご無沙汰している間に、映画「鬼滅の刃」の大ヒットがありました。「誰も不快にしない、不幸にならない」路線と「困難に立ち向かい努力友情勝利」という路線は一方に偏ると飽きられて揺り戻している印象があります。「進撃の巨人」も重要キャラがよく死ぬ作品でしたよね。
それはともかく。今回取り上げるのはこちらの作品です。
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた(桂かすが)
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この参品は書籍版第9巻が出てから第10巻が出るまでに出版上の危機(婉曲)があったようで、作者の更新がぷっつり途絶えた長い時期がありました。まだまだ本筋は続くはずですが、今回取り上げるのはこの作品の戦闘描写です。
師団長や軍団長(部下1万人~数万人)というのは、何をやっているのかイメージしにくい階層です。参謀長を司令部に留守番させて、ときには参謀長まで連れて前線近くで連隊長クラスに細かい指示を出す人もロンメルとかロンメルとかロンメルとかいくらかいましたし、第2次大戦期のドイツ軍はそうした陣頭指揮が(政治的に)推奨されていた実態もあるようです。しかし原則としては、彼らには報告を受け取りやすい司令部でしかできない大事な仕事があります。それはリソースを配分することです。状況が変わったときのために予備隊を残し、何かあったらそれを配分し、予備隊が少なくなった分は相対的に安定した指揮下部隊から引きはがして確保します。
部隊もそうですが、物資もそうです。第2次大戦期のドイツ軍部隊は分隊レベルから始めて、毎日前日の弾薬消費量を報告し、順次集計して陸軍参謀本部補給総監部まで届けました。輸送部隊への襲撃などもありますから、10日に一度は弾薬保有量も報告しました。それを見ながら、限られた弾薬を一番切迫した戦線や、近々大規模攻勢を予定している戦域に送ったわけです。
「ニートだけど(略)」は、魔法があって冒険者がいる世界です。しかし主人公だけ、自分のスキルやパラメータが数字で読めて、レベルアップのスキルポイントを振れます。そして親しくなった(多くの場合、アニメ化困難な手段による)女性、例外的に男性について、主人公が同じような操作をすることができます。このポイントはレベルが上がると、世界大会優勝レベルか前人未到レベルの力を与えてくれます。そして世界の危機と敵性勢力の存在がだんだん明らかになってきて、主人公チームを勝利のカギと考えた現地の政治勢力との交渉・協力が生まれてきます。
ポイントの振り方も配分ではありますが、この作品では「残り魔力量」の管理が戦闘のカギになっています。主人公は圧倒的なチート技と、相当に高い魔力量を持ちますが、敵の数も暴力的に(暴力ですね)多数です。ですからいくらレベルアップしても、頭を使って魔力切れを避け、時には時間を稼ぐことが必要です。魔力の譲渡、限られた数の転移スキル持ちによる魔術師の輸送、召喚獣を使った情報共有など、ボトルネックを緩める手段もだんだん多彩になって行きます。
細かい武器・武技の突っ込みどころはあるのかもしれませんが、このリソース管理が戦闘に一種のリアリティ……というか、「それらしさ」を与えています。いま優勢なのか劣勢なのか、それはどこに現れているのかといったレベルで、描写がわかりやすいのです。戦闘を描く人で、R18要素に嫌悪のない方には、参考になる作品だと思います。