人類の逃げ場はなければ作れ
スーパーロボット大戦Y (バンダイナムコエンターテインメント)
※Chapter6までの感想です。
いやあラノベを読む暇も惜しんでやっております。この作品も、組織・戦術の要素を持っていますので、その面を中心にコメントしたいと思います。一枚絵の演出がどうのとか、結局地球は無事なのかとか、そういった点には立ち入りません。「今回のスパロボはゲームバランスがきつい。しかしそれが良い」という感想がよく流れています。それはどういうことなのか、見て行こうと思います。
(1)リソース管理面
スパロボYでは、40機を超える敵が配置されたステージがしばしばあります。初期配置されていなくても、減ったらお代わりが現れることもあります。
さて従来から、スパロボシリーズには「連続ターゲット補正」と呼ばれるルールが敵味方に適用されてきました。連続して同じ目標を攻撃し続けると、命中率がだんだん上がっていくというものです。これを前提として、敵AIがこちらの「落としやすそうな」機体に攻撃を集中することがありました。
ゆるい難易度のスパロボは、敵を倒しきれないことはあっても、こちらの機体が撃墜されるリスクがほとんど無視できます。ところが多数の雑魚敵に連続攻撃されると、不用意に突出した機体は削り切られてしまいます。もちろん「直感」「不屈」といったダメージ回避・軽減の精神コマンドはあるのですが、連続攻撃によってそれも尽きてしまうのです。精神コマンドを使うSPをいつもより慎重に管理しないといけないわけです。逆に一撃のダメージが小さいなら「HPで受ける」ことで損害担当機体になって、間接的に友軍を守れます。
順々に戦艦の機能は上がるので序盤は何とも言えませんが、母艦に戻れば概ね1ターンでHPもEN・弾数も回復します。しかし遠いと戻れません。「削られる→戻って回復」の流れを考えた機体と戦艦の位置取りを、修理機能・補給機能のある機体の位置取りも合わせて、破綻しない程度に考えねばなりません。これがなかなか楽しいのですね。
これもスパロボでは古典的な戦術ですが、いちど使用すると次の自分のターン開始まで(相手のターン中ずっと)防御力が上がり、わずかなダメージで済むという精神コマンド「鉄壁」を使って、重装甲の機体を突っ込ませて雑魚敵を自滅的に削るのは定番戦術です。今回も有効ですが、必ずしも強い機体ばかりではないので、こんな機体強化したくない……というジレンマがあるかもしれません。
(2)部隊レベルの要求
部隊全体の強さを表す「部隊レベル」はGから始まり、Aの次はSで最高です。そのシステムは検証途中ですが、5段階改造でカスタムボーナスを受ける機体を1体作るごとにぐんとポイントがたまる時期があり、それがほとんど利かなくなったとき、10段階フル改造(その時点で)機体を増やすとまたぐんと上がります。部隊レベルが一定以上であることが、次のチャプターに進む条件になっています。ただし最終チャプターに進むだけならAでよく、Sまで育てることは必須ではありません。
これによって、ある程度の数の機体について改造度を上げることは必須になります。改造に必要とされるのも、パーツを買ったり、パイロットの能力を上げるスキルプログラムを買ったりするのもCREDITですから、皆さんピイピイしておられる様子です。私もそうですが。
「何と何が限られた資源を食い合うか」というのはゲームデザインの肝ですが、次のチャプターに進める部隊レベルを確保しつつ(まあ、出撃して即死しないためにもある程度改造が必要ですが)、スキルプログラムやパーツについては、1周目はうんと我慢をしなければならないシステムです。いやあつらい(随喜)。スパロボ30ではスキルプログラムは別のポイントが必要で、喰い合わないようになっていたのですよね。
追記 Chapter7に入ると、「ボスを倒したと思ったらもうひとりボスが登場して連戦になった」という展開が増えてきます。強敵打倒を少数の機体に頼っていると、SP枯渇で詰んでしまう恐れがあり、ボス戦で当てにできる機体を多数用意して臨まねばなりません。過去作と比較して、少数部隊の集中育成ではクリアできないことを意図的に狙っているのかなと思います。
(3)直撃・連撃とアシストクルー
「援護防御」は頼もしいパイロットスキルですが、敵に使われるとイラっとするもので、ターン数を限られた状況では敗因にすらなりえます。隣の機体が代わりにダメージを受けるので、守られた機体は無事なのです。
前作のスパロボ30では、機体が出撃後に敵撃破などでエクストラカウント(ExC)を稼ぎ、それを消費して「ダイレクトアタック」をかけるのが、援護防御を無効化するほとんど唯一の方法でした。コストの高い精神コマンド「覚醒」や2回行動できるレアパーツはスパロボ30にもありましたが、それとは別にExCを使って、敵を撃破できた場合に限ってもう1回行動する「マルチアクション」が広範に使え、周回プレイでプレイヤー側の攻撃力がインフレしてしまう大きな要因でした。
それがスパロボYでは、それぞれ「直撃」「連撃」という精神コマンドになり、ExCは廃止されました。自分が生き残るための「不屈」や「鉄壁」と、ここでもSPを喰い合う関係になったのです。
もうひとつ、「直撃」「連撃」の効果を得る道筋が用意されました。アシストクルーのアシストコマンドです。スパロボ30にも最大8人(組)の「サポーター」を選んで、専用のポイントS-SPを消費してプレイヤーに有利な効果を得るシステムがありました。スパロボYでも最大9人(組)のアシストクルーが専用のアシストカウントを消費するところは同じです。ExCが廃止された代わりに、敵を撃破するとアシストカウントが貯まるようになりました。
話題になっているのにお気づきの方もおられるでしょうが、「SPを与えるアシストクルー(ミリアリア)」と「アシストカウントを増やす精神コマンド(共感)」が両方あるため、無限ループのようにアシストカウントを増やし、様々な恩恵を受けることができます。ただしそのためには、あまり戦闘に強くない共感持ちを複数同時に出撃させ、自衛のためにSPを使わず生き残らせないといけないので、ここでもちゃんと天秤が働いています。
アシストクルーも最大9人の「編成」に加え、アシストコマンドを使うことでランクアップし、プレイヤーへの恩恵が上がります。ですから「育成枠」としてまだメリットの少ないアシストクルーを我慢して使い、さらにアシストカウントも育成用に与える分が必要になります。もちろん限られた「編成」枠を、SPや気力やHPや直撃や連撃にどう割り振るかも考えどころです。
(4)組織面
戦術面のことばかりでしたから、組織面についても少しだけ。主人公と周囲の協力者は、まあアニメ作品では普通のことですが、他者(物故者含む)の思惑を押し付けられ、宇宙の危機に巻き込まれます。自分はどうしたいのか問われ、また自問するのもアニメにありがち。それに対して、例えばアムロやシャアのような年長組(IFの逆シャア世界なので……)が、自分たちが巻き込まれたころのことを思い返してアドバイスをします。特にゲッターロボアークなどは事実上の原作補完をするしかないわけですが、各作品を読み込んだうえで「こう言うだろう」「こう行動するだろう」という二次創作要素がじつに丁寧で、「葛藤しつつここで裏切るだろう」といったことまで説得力を感じさせます。作品内社会がそれぞれワンセットの体系として「そのキャラにとってのリアル」になっていて、またキャラ同士が互いの世界観を尊重し合うのですね。まあそれはそれとして、DLCの追加シナリオなどではお約束のぶっ飛びシナリオなどもあるわけですが。
追記 「正義を名乗る側の不都合な真実」といった、シンプルな正邪の対立以外の世界観をアニメに持ち込んだ作品としては、富野監督の「海のトリトン(1972年)」が思い浮かびますが、ここ数年の現実世界は「正義を名乗る側の蛮行」「抵抗運動・改革勢力を名乗る側の蛮行」「社会参加に絶望した無敵の人の蛮行」「稼ぐための蛮行」のニュースにあふれています。よほどアンテナを立てないと入ってこなかった情報が、ネットに安く玉石混交で出回るようになっただけで、増えてはいないのかもしれませんが。
それは、近年のアニメにも当然取り入れられ、何が正義とも悪とも即断できない状況がよく描かれるようになって、スパロボはそれら参加作品から間接的に、作劇のトレンド変化を受け止めることになりました。思い返せば、近年のスパロボは少なくとも、「真のラスボスは意外にもあの存在」というシナリオが増えてきましたね。
いまどきのスパロボとして、スパロボYは「正義観・政道観の多様化」を突きつけられた主人公グループが、「もはや社会制度に暮らしを保障してもらえない世の中で、共に生きてくれる市民たちを引き連れ、生き抜く覚悟を固めていく」といったシナリオになっています。自分「たち」の中に、賛同者であっても同志というわけではない市民たちがいて、もちろんシナリオ的に市民たちも同志化する方向へ行きますが、エヴァ的な群体化・全体主義化はカテゴリカルに拒絶するのです。確かに我々は、もう明日へのホワイトリストを選ぶことはもう難しくなっていて、せめてこれは拒絶したいブラックリストを守るところまで追い込まれているのかもしれません。




