内部論理を貫けば華
この連載の第2部分「我が名はNPC」で『この世界がゲームだと俺だけが知っている(ウスバー)』を取り上げました。ゲーム世界そのものに転生して、「リアル化したゲーム世界」の世界内ルールに従って生きていく……というアイデアは新しいものではないし、数多くの例があります。しかしそれを徹底的に、「ゲーム内容と整合的に両立する国家や社会」まで貫徹させて描くのは、なかなかできることではありません。
ゲーム世界転生〈ダン活〉~ゲーマーは【ダンジョン就活のススメ】を 〈はじめから〉プレイする~(ニシキギ・カエデ)
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※第21章までの感想です。
この1週間ほど一気読みを続けてきましたが1813部分まで全然到達する感じがしないので、途中で感想を書きます。
1021職からジョブラダーを選んで駆け上がり、迷宮学園で3年間を過ごすというゲーム「ダンジョン就活のススメ」のやり込みユーザーが、セーブデータを吹っ飛ばしてショック死し、ゼフィルスというゲーム世界の若者に転生します。すべてのゲームデータをそらんじているゼフィルスは迷宮学園でその知識を生かして成り上がり、この世界で知られていない上級職・希少職の発現条件を少しずつ広め、創設した自分のFクラスギルドを自分だけが熟知するパワーレベリングで昇格させ拡大し、攻略の止まっている上級ダンジョンを踏破し、国家を震撼させる重要人物になっていきます。
この世界は産業のすべてがダンジョン産資源に依存しており、「ファーマー」は農産物ドロップの採集職です。一方でゲームの内容上、学園の管理するアリーナで行われるギルド同士の「ギルドバトル」は重視されていて、ここでの(もちろん死傷せず退場するだけ)勝敗は学生生活に直結するのはもちろん、ギルドバトルでもっぱら輝く職や、卒業後のプロチームもあります。すべての学生が、将来の人生をかけてダンジョンやアリーナに挑んでいるのです。
採集職・生産職は独自の価値を認められていますが、上級職への転職アイテムはダンジョンに産するわけですから、上級職・希少職が活躍し始めると長年のバランス関係が崩れてきます。発現条件を知らないまま職を決めた上級生の扱いも問題になります。こうした「人生設計の場としての学園」「身分や実家の太さを受け止めて、プレッシャーに苦しんだり成り上がりを志したりする青春群像」が徹底的に理詰めに、膨大なパラメータ・スキルの設定と共に追求されているのが、この作品の特徴です。例えば作品の途中で、男子なのに女子の服を着ている「男の娘」が登場します。もちろんそれはネタなのでしょうが、そのキャラクターがその恰好を選んでいる「ゲーム世界内での合理的な理由」がちゃんとあるのです。
全体のテイストは古典的なラブコメであり、主人公総受けです。上級ダンジョンになると「救護委員会」の活動が及ばず死傷の危険が跳ね上がるのですが、実際にキャラクターが死傷するシーンはありませんし、よほど特殊な状況でなければ大きく扱われません。「戦闘」というより「競技」に近いイメージです。特にギルドバトルでは、高校野球漫画の『ドカベン』や『大甲子園』を思わせる、勝利への多様なアプローチが奇想天外な職・スキルと共に次々に登場し、ギルドやキャラクターが主人公と協力したり、対立したりします。例えばクラス対抗バトルで激しくやり合った相手と、別の機会には共闘したりするわけです。
歴史とか物理化学とか「我々の世界のリアル」を持ち込むことがおよそ無意味な魔法世界(しかも日本で作られたゲーム世界なので、この世界では意味のない元ネタの欠片が残存する)ですが、その世界内での整合性が高いので、ストレスを感じません。特にギルドバトルはボードゲームのようにルールが細かく厳密に設定されていて、定跡や手筋があり、それらを知り尽くしたうえで、レベル差やスキル・コンボも加えて主人公ギルドは打ち破っていきます。
2025年7月付記: いま本編はゼフィルスもうすぐ最終学年、主要ギルドの最終学年たち一斉に高次スキル獲得へ猛ダッシュという超ドラゴンボール状態なのですが、そのインフレそのものがンギマリのゼフィルスを含めてエンタになっています。いやいやこれはメタれません。この作品だけですね。




