たったひとつの真実鋳抜く
異世界刀匠魔剣製作記(荻原 数馬)
https://kakuyomu.jp/works/16817139555923024504
はい、カクヨム作品です。こっちにはありません。
この連載では組織論の延長として、その世界の正義観・善政観について何度も取り上げてきました。この作品ではまさに「正義と治世の相克」が繰り返し、中心的に語られています。簡単に言うと「目の前のこれは許せねえ、譲れねえ」と「バランスだバランス。やった方がいいことを全部やるリソースがあるかよ」の相克です。
主人公ルッツは、転生者であった父親の技を受け継いだ野鍛冶であり、この世界では珍しく刀の打てる鍛冶です。ひょんなことから行商人クラウディアを助けて恋仲になり、その聡明さと冷徹さ、そして話し上手に度々助けられます。
この世界では刀剣に付与魔法をつけることができます。その名手であるゲルハルトは地方領主の御意見番でもあり、ルッツと組みその腕を認めるうちに、たびたび領主の困りごとを持ち込み、またルッツの独走・暴走を領主に取りなします。領主の下にいる騎士、刀剣の装飾師などがレギュラーに加わっていきます。
基本的にルッツは出世しません。目の前の不正義や惨事を放っておけず、自腹で解決に乗り出しますし、高価な武器も時々損傷させるからです。「目の前のこれは許せねえ、譲れねえ」をルッツが演じたり、ゲストキャラの義憤をルッツとクラウディア、ときにはゲルハルトが応援したりします。そして主に領主や騎士が、現実のリソースと明らかな課題の間で板挟みになります。それぞれの事件は、ルッツがすごい武器を打つことでだいたい解決するのですが、取り返しのつかない損失はそのまま残されます。だいたい治癒魔法もポーションも登場しないのです(自己治癒能力のある武器は登場します)。板子一枚下は地獄です。ルッツもしばしば危地に立って武器を振るいます。
ルッツの決まり文句は「俺は鍛冶師だ」です。治政のたぐいは難しいものとして考えず、自分のリソースでできることをします。「世の中はどうあるべきか」などゲルハルトや領主たちや国王が考えればいいことで、「俺はこれを放っておけねえ」と来るのです。ここまで徹底的に痛快時代劇のフォーマットを移植したファンタジー作品は、他に思い当たりません。




