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それは私のネタバレさんだ

「異世界に主人公を召喚した神や集団の思惑」について語るとき困るのは、モロにネタバレになることです。なるべくそれを避けつつ、「異世界に主人公を召喚した神や集団の思惑」について類型的に語っていきたいと思います。


 異世界召喚ものの基本バターンは、何かを倒す/何かから世界を守るために、飛騨の国から仮面の転生者を呼ぶものです。戦隊ものでもよくありますね。少しひねったものだと、真の敵や問題点が転生者に隠されています。自分で感じて自発的に協力してほしいから……ならまだ良心的設定で、勝っても自分はもう助からないとか。はい。召喚者の勝利条件とは別に、自分の勝利条件を思い定め、追及することが物語の中心になります。敵と味方が入れ替わるのに似た展開にもなりえますね。


 もちろん、じつは邪悪な・狂信的なほうの神や組織に呼ばれているかもしれません。うまく気づけて足抜けできればいいのですが、自分の信ずる、守りたいと考えるもののために下剋上をする必要があるかもしれません。転生者に協力しあるいは利用する現地勢力も、自分の栄達や望みのために、圧迫したり裏切ったりするかもしれません。


 神が複数登場する作品では、目的の絶対性が薄いものがしばしばあります。ハインラインの古典SF『大宇宙の少年』には多くの宇宙人たちがつどう銀河評議会のようなものが登場します。そして「我々は正義を行うものではない。共存のための相互安全保障を求めるものだ」と地球人の少年に言うのですが……げふんげふん。世界の多様性を肯定するか、少なくとも避けられないものとして受容するのであれば、気に入らないものを気に入らないというだけでツブしにかかる態度や行為は、世界に波風を立てるだけです。なにより、一方的にツブしきれるものではないのです。当事者になって面子や激情に自制を失ってしまうとそういう冷静なことが見えなくなりますが、神々は局外の観察者ですから。


 管理者としての神々自身が意見を異にしていて、対立は消え去らないという共通理解があると、「とりあえずこれで何百年か保つだろう」といった弥縫的(びほうてき)な処置でヨシとしがちです。「滅ぼせないので封印する」てやつですね。過労死などで転生してきた主人公は、まあそんなものだよねと言う反応をします。ああ、たまに「英雄としてのロールプレイ」を当然視しすぎて行動指針がゆがんでしまうキャラクターは登場しますね。


 転生者を呼んだ神の処置が何かしら転生者にとって不当でつらいものであったとき、後から他の神々が気づいて是正してくれる、あるいは以後後援してくれるというのもよくある展開です。これによって近年の売れ筋である「ざまあ要素」を取り入れることができますから、そりゃ多いですよね。


 神がいる世界には、だいたい、宗教者がいます。宗教者の描かれ方はだいたい3通りで、まず敬虔で自己犠牲的、利他的な宗教者。「天道思想」のたぐいを投影されているように思います。「誰がやっても社会的に価値が高い保障・扶助の実践者」のように位置づけられます。まあ実際にやろうとすると、特定の政治勢力・民族の支持者がスタッフに紛れこんでしまったり、子供を救う活動をする引き換えに外国人特定団体の価値観による「中絶ダメ絶対」を強制してしまったり、いろいろ実世界では起きるわけですが。


 第2の類型は、私利私欲に走る似非聖職者。まあ聖職者にも同業者界隈があって王朝や寄進者に対する仕事もあるので、まったく仕事ができない人ら「だけ」になると聖職者業界全体が詰むんじゃないかと思いますが、王侯貴族の次男坊以下を宗教界に押し付けられるなど「業界天下り」みたいな貸し借りがありますので、根絶は難しいでしょうね。仕事はできるけど私欲マシマシってこともありますし。


 荘園の本家をやったり僧兵を抱えていたりする有力社寺の内部組織は、地方領主の家中に近いものになるはずです。選帝侯(大司教)としての支持を含みに教会領を持っていたカトリック大司教座なんかも、(傭兵を含め)武力と行政スタッフを持っていたでしょう。そして行政官と武人と僧侶の仲がいいとは思えません。あんまり「宗教組織の内側」をリアリスティックに描いている小説は見かけませんね。


 そして第3の類型は、特定の正義を押し付ける狂信者です。聖女候補を強引にさらう……という類の誘拐監禁、特定の異教・異端・異民族を迫害する行動・扇動などがその代表です。「現代では犯罪とされる行為」がイメージの元になっていることが多いですね。皆さんご存じのように、冷静に思い返すと、国と時代によって何が許容され、何が犯罪であるかはまちまちですし、社会規範も異なります。古典SFが喫煙に対して寛容なことに唖然とした、高校生時代の記憶があります。作品自体が読者に何かを押し付けるのは、まあ避けようがないわけですが、そのことをまったく意識していないと感じる作者さんはおられます。


 我々の世代の日本人はしつこいくらい「差別は良くない」と刷り込まれていて、その倫理観をストレートに反映する主人公が圧倒的に多いのですが、世の中にはその博愛的な倫理観に乗っかってくる「利に敏い」……というか我欲に正直な人々がいます。ある漫画で正義に燃える主人公が捕まって強制労働をさせられ、体の弱い同輩の分まで働いてやったら、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』のように我も我もと「弱い」労働者が集まってくる……というものがありました。


 ルールを定めると、そのルールを自分が正当化されるように、自分が得をするように利用する人たちが必ず出てきます。それには、正義を振り回して異教異端を気持ちよくぶん殴る人たちも含まれるわけです。それで弊害が大きく出てしまうとしたら、趣旨を達するようにルールを組み直し、自制を欠いた人たちに損や恥が与えられるようにする必要があります。


 そのへんをまあ、この連載でも取り上げてきた情報面の優位や超能力(嘘に気づくとか)、不正を暴く魔道具、あるいは必要とあれば現地の社会倫理を吹っ飛ばせる武力や移動力で、小説は何とかしているわけですね。現世から持ち込めたスマホで不正の証拠動画を撮って魔法で拡大映写……というのは読んだ覚えがあります。














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