我が運命を攻撃表示で召喚だ
ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~(有山リョウ)
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※Web版第4章までの感想です。
魔法のある異世界物で、いわゆる「ざまあ」物の体裁で始まりますが、すぐに別構造の物語に変わっていきます。主人公ロメリアは伯爵令嬢であり、ともに魔王を討ちに行っていた王子から、魔王討伐成功後に婚約を破棄されます。その陰には、王子の寵をひそかに願っていたヒーラーの働きかけがあり、彼女が新たな婚約者となります。ロメリアの受けていた「恩寵」がパーティ全体の力を上げていたのが、目立たなかったためです。
魔王国は魔王を失って内戦状態となり、海を隔てた人族の大陸には本国からの音信が途切れたまま、魔族の派遣軍が居座りました。ロメリアは小さな郷土軍から始めて、大陸を魔族から取り戻す戦いで声望を高め、ライオネル王国の他称・聖女として、王家との緊張関係をほぐしきれぬまま力をつけていきます。
魔法があるとはいえ、戦闘戦闘また戦闘です。そのシーンのいくつかは、どこかで見たような軍事概念で語られますし、中には正確とは言えないものもあります。魔王軍が取ってくる「浸透戦術」などはその代表です。しかし「作品内での合理的判断と、世界を動かす内部論理」が緻密なので、かえって「浸透戦術」がそうではないもの、つまりごく一般的な騎兵などの機動部隊の後方進入としてリアルに描かれています。そうであれば、第1次大戦でも第2次大戦でも多くの(意図的なものも作戦失敗によるものもある)実例があり、状況によって脱出に成功したり壊滅したりしています。日露戦争の永沼挺身隊などもこの類ですね。
ロメリアの「恩寵」はその戦友たちの攻撃力・防御力を上げるもののようですが、ロメリアは時々「指揮能力」ないし「指揮に役立つ情報の獲得・処理能力」が上がる経験をするようになります。発動を自分でコントロールできないのがミソで、それがないものとして計画を立て、自他の命の危険に腹をくくらなければならないわけです。とはいえ筋立ては「ロベリアの新作戦」が常にキーとなり、「作戦Aだと思わせてじつは作戦Bであったが敵の逆襲に対して作戦Aのリソースを転用して作戦C」といった、カードバトルのような理詰めの展開をします。
敵のキャラも味方のキャラも、国や所属組織・一族にとっての利害関係と、個人的な望みを持っており、しばしばその二律背反に悩みます。それはロメリアもそうなのですが、比較的「全体利益」のために自国や自身の犠牲と危険を顧みない判断をし、また実績を積んでいくので、周囲がそれを称賛・尊敬するとともに、ときにはロメリアやライオネル王国に借りを負っていきますし、影響を受けて他人からの押し付けを振り切り、自分磨きを始めるキャラも出ます。まあそこのところが「前向きに願い、進めば報われる」古典的な努力・友情・勝利物語ではあります。
最初から、展開はブラッディで、死傷者が大勢出ます。しかし多くの場合、長い目で見れば因果応報の結果になることが多く、善行には善果、悪行には悪果がみのります。まあロメリアに側近たちが「振り回される」のはどうしようもなく、報われることもなく、あとがき欄で被害者の会が結成されたりしますが。そういう茶化し方も含めて、「ああ昔はこういう小説多かったよな」と思わせるところがあります。




