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子供の領分

 今回のお話は、特定のラノベの感想ではありません。かろうじて、組織の話ではあるでしょう。組織の一員としての、子供の視点と言いましょうか。


『かがみの孤城』というアニメ映画(2022年)がありました。主人公は中一ですが不登校。原作はハードカバーで出た後、20~30代女性をターゲットとするポプラ文庫、そして児童書レーベルの「ポプラキミノベル」からも出版されました。アニソンバーの店員さんが「学校の図書館にあったけど、いつも貸し出し中だった」と言っていたのは、たぶんハードカバー版でしょう。出版社サイトには「生きづらさを感じているすべての人に贈る物語」と書いてありますから、もっぱら子供向けではありませんが、まあ、ラノベを名乗っている小説ではなさそうです。


 不登校の原因はいじめです。担任教員の対応は適切ではなく、母親の対応も(少なくとも、物語開始時点では)理想的とは言えません。しかしここから、主人公たち中学生が不思議な「孤城」に集まり、話し、ぶつかり、自分たちだけで孤城のルールに挑み、立ち向かっていきます。


 最初から最後まで、大人たちに対して喜びや悲しみを持つことはあっても、中学生たちは大人たちに共感したり、「自分だったらどうするか」と大人の身になって考えたりしません。見に行った当時は、大人たちのドラマが全然完結しないのに違和感がありましたが、後から考えると、子供だったらそれは普通の感性だと思うのです。


 さて、やっとラノベの話です。転生チート主人公(たち)はたいてい、転生先の有力者(国王・政府、貴族・領主……)と出会い、敵対したり保護されたりします。私利私欲で利用を試みる話も多いですね。少年少女の視点だったら、国家・社会・制度を支える大人たちは書き割りのようなよそよそしい存在で、それこそ「使える(自分に都合のいい)奴」「使えない奴」と無造作に切り分けてしまうような相手でしょう。実はそれがすでに魔族に乗っ取られていて、もう元の高官たちはこの世にないとしても、少年少女の主人公なら、職責に殉じた人々をあまり悼んだりはしないでしょう。自分がもう大人チームの一員だという意識をもって、チームメイトとして大人たちを見ることは、しないでしょう。


 いっぽう子供であっても、むしろ子供ならますます純粋に、友情や勝利のことを考えるでしょう。ただしそれでつながっているのは、家族であったり、隣人・級友であったり、時間をかけて親近感を育てた相手に限られます。(すでに形成されている)子供の集団が異世界に放り出される物語として私が思い当たる最古のものは、ジュール・ベルヌが1888年に書いた「二年間の休暇(十五少年漂流記)」で、集団内の相互扶助という「侠の論理」はまあ、世界中にある感覚だと言えます。逆に言うと、子供の世界は周囲の大人から押し付けられたもので、自分の意思でそれを大きく変えることはできません。世の中とはそういうものだと思っているか、あるいは逆に、実際には不可能に近い世直しを夢想するか、どちらかが典型的な子供の世界観だと思います。


 この連載で何度か触れたように、現代では専業作家で食うことが夢想のように困難になり、多くのラノベ作家は兼業か、少なくとも兼業から出発した人だと思います。その視点はすでに子供のそれではないので、ラノベが「典型的にはもうジュブナイルではない」のは事実だと思います。社会や制度を支え、黙々と働く人たちへの作者の共感が、どこかに現れてしまうのですね。まあ実際、文庫と銘打っていても最近の書籍は高く、コミックスは最新話(または最新号掲載話の前話)無料公開が当たり前になってしまいましたから、ラノベに主に「課金」しているのは中高生ではないという現実もあるのでしょう。



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