8 A 6/7 9といったらもちろんIII号戦車(長砲身5cm砲)ですよね
戦力の数値化が、実情とぴったり一致することはほとんどありません。大砲の貫徹力は条件をそろえた実験データで示されることが多いのですが、信じられないくらい近距離の射撃機会というのは、その後射手がどうなるかを考えないことにすれば、しばしば戦闘記録に現れますし、めったに得られない結果が得られます。
問題は何を記録するかです。数値化しづらいものもあります。例えば通信能力は情報収集能力と関連があり、もちろん射撃の正確さや敵への反応の速さにも影響しますが、シンプルな数値で表すことは困難です。
討ち死になんて勘弁な(悠夜)
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この作品は転生物ですが、転生先は森可隆です。はい。マイソフはググって初めて存在を知った人物です。
主人公は、一族無事に生き残ることを目指します。それは4つのことを意味します。
(1)1570年、織田信長が朝倉義景を攻めた手筒山の戦いで、森可隆(本人)深入りして戦死。
(2)1570年、朝倉・浅井・延暦寺連合軍を支えて、森可成(父)戦死。
(3)1582年、本能寺の変で森成利(蘭丸)、坊丸、力丸(すべて弟)戦死。
(4)1584年、小牧・長久手の戦いで敵中に突入して孤立、森長可(弟)戦死。
これらすべてを覆すことを森傅兵衛可隆は望み、例えば森長可(勝千代)が脳筋の猪武者にならないようたびたび諭しますが、うまくいきません。
傅兵衛さんには異常なほどの広範な歴史知識があります。まあそれはネタとして良いとしましょう。菊池寛の『形』がうまくかみ砕かれてストーリーに紛れ込んでいますし、明治以降に見つかった鉱産資源(場所は正確)が出てきたりしますがすべてネタとして良いとしましょう。
面白いのは、傅兵衛さんが武士たち(一部、公家や僧侶や商人)の実績を覚えているだけでなく、地縁や血縁や他者との因縁を覚えていて、それを利用することです。ですから小説の相当部分は、縁をたどった人集めと政治折衝です。オーソドックスな前世の科学知識で儲け口を作り、少しずつ森家を富ませていきます。さいわい傅兵衛さんは刀槍戦も相当に強く、いくらかの槍働きも交えつつ、部下の働きと正確な未来予測で信長様の信頼を得ます。藤吉郎は史実よりやや遅れて出世し、傅兵衛さんの出世に追いつけず悔しがります。
織田家全体にも良い影響が積み重なり、上洛が半年早くなるなど、少しずつ史実と違ってきます。よく見かける、どこかの史実を丸ごとなぞる転生物語はこれを嫌っているのでしょうが、ちょっとずつ違う歴史を破たんなく語っていく作者はすごいです。まあ、ここでネタバレするのも無駄に思うので控えます。
いま本編は(1)を無事通過して、(2)に向けて前進中です。戦闘シーンは多いのですが、戦術レベルの戦闘はやや大ざっぱで、時代劇的です。例えば長柄武器の騎馬武者が敵を馬から落として郎党が短い刀で首を取りに行くとか、そういう細かいところはあっさりしています。しかし「ここで○○勢に戦意はあるか、引くとしたらそれはなぜか」といったアナログな情勢が、血縁地縁がもたらす利害関係とともに書き込んであるので、すらすらと納得させられてしまいます。




