グロい。もう一杯。
『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~(西沢東)
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アシモフの『鋼鉄都市』『はだかの太陽』は、ロボット3原則を課されて人を害せないはずのロボットが犯人と疑われる殺人事件……という推理小説です。世界のルールが絶対のものとして先に提示され、それに反しない解決を当ててみろという趣向です。もちろん当てられない「意外な結末」を著者は期待されるわけですが。同種の魔法世界ミステリーとしてランドル・ギャレットの『魔術師が多すぎる』は有名ですね。
今回取り上げる「Hereafter(中略)されます」はこうしたアプローチとは正反対です。主人公は新しいVRMMOにログインしますが、荒涼たる未来世界でできることは極端に少なく、プレイヤーの死はあまりに簡単で、リアルなんだかクソゲーなんだかプレイヤーたちも首をかしげます。その世界で主人公がちょっとしたきっかけでブレイクスルーを勝ち取るたびにゲームにメンテが入り、プレイ可能な時期が提供期間の半分もないという状態が続いていきます。そしてたいてい、主人公がゲーム内でやらかした情報公開などが現実世界に大きな影響を与えるのです。
主人公の友人たちがゲーム世界で謎の特権的地位にいて、主人公が(命からがら)その時点での驚くべき達成を勝ち取れるのはそのおかげなのですが、逆に言うと、主人公が成功するにあたって「理屈も何もない」のです。物語序盤、読者に与えられる情報は断片的です。どんな出版社の編集さんでも一度は突っ返すでしょう。でも問題ないのです。シナリオを進める原動力は主人公が直接手を触れられないところにあって、きわめて強力で、そのおかげでいかなる「意外な展開」も可能であり、またそれがデッドエンドにならないのです。
一部の戦闘描写と、一部の未来世界描写はグロテスクです。しかし、するっと流されます。それは主人公の精神世界がある種の不自然な強靭さを持っているからで、それにも理由があることがやがてわかってきます。作品世界の技術体系や、人類に迫っている危機、そして未来と干渉しあうテクノロジーについて、読者は徐々に知っていくことになります。ゲーム内だけでなく、現実世界でも命がけの危機が起こり始めます。
材料が出そろって見るといわゆるSFなのですが、近代科学の論理性は最初のうちは大きな役割を果たしません。読者は出来事から出来事に強制ワープさせられ、説明を提示されるのはずっと後です。
すべての戦闘描写には「必然」と「偶然」が混ざりあっていますが、理由があって起きているのにその場では説明がつかない……というのはよくあることです。それにしてもこの作品、非常に(そして非情に)極端なところを攻めています。ジャンルが爛熟してくると、こういう挑戦的作品が出てきますね。




