我が名はNPC
人工知性を人として尊重するか、また人とかかわるときのルールをどう定めてどう強制するかは、アシモフらのSFに始まって、本邦では鉄腕アトムからソードアート・オンラインまで連綿と描かれ続けてきました。
アニメ『ガンダムビルドダイバーズ』では、MMOシステム内で活動する謎のキャラクターをシステムの安定性維持のために排除しようとする「運営陣」と、高ランクプレイヤーのフォース(ギルド、クラン)群が協力したり、対立したりします。営利企業のシステムに人口知性のたぐいが生まれれば、サービス終了につながるバランス崩壊やデータ障害を避けるため、少なくとも運営陣はそうした存在を消去しようとするでしょうね。
この世界がゲームだと俺だけが知っている(ウスバー)
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は、転生先がドラクエとMMOをチャンポンにしたようなゲーム世界です。つまりタイトル通り、主人公だけがこの世界をゲームだと思っており、本来NPCであるキャラクターたちは必死に自分の人生を歩んでいます。ゲームで描かれていた奇妙な行動の「こだわり」もそのままですが、話し合ってみると彼らなりの理由もあります。世界のシステムを知り尽くしていることを生き残りのカギとして使い、随所にあるゲームのバグを利用しながら、NPCと友情を通わせ、ゲーム世界の危機に立ち向かいます。バグを作り出すだけでなく、難易度の高すぎる関門を作ったり、斜め上の修正バッチを当てたりする「クソ運営」が影のプレイヤーのように(ただし、その結果個々のプレイヤーに何が起こるかなど全く気にかけていないように)描かれています。
ゲームのNPCが独自の知性を持っているのと、何らかの意味で「中の人がいる」のとはゲーム内では見分けがつきません。つまり運営側の中の人がいる場合も、ハッキングなどによりNPCが外部から操作されている場合も、プレイヤーからは「リアクションが豊かすぎるNPC」に見えるだけですし、中の人などいなくて、そういうNPCなのかもしれません。
アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~(ぺんぎん)
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VRMMOはウサギマフラーとともに。(冬原パトラ)
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これらの作品はまだまだ進行中で結末が見えませんが、ちょっとNPCっぽくないNPCたちが登場して、互いにキャラ設定を超えた因縁を持っている様子がうかがえます。ほんとにNPCなのかそうでないのかは……
いきなり全力全開バスターが撃てるのが強みでは話が進みすぎるので、「世界の構造を知っている=レベルやパラメータが見える、わかる」ことを手掛かりに生きていく作品は多いですね。普通の小説ではそうしたところをあいまいにしながら、そして時々見込み違いに驚いたり悔しがったりしながら話が進んでいくわけで、まあ実際の世界もそうですけどね。
ただそれ自体は「世界を操る方法」または「世界が自分たちに何か仕掛けてくる方法の探知」でしかありません。「何が迫ってくるのか、何が急務なのか」ではないのです。そこを別に設定しないといけないわけですね。まあ逆に、「いつまでたっても何も起こらない日常話」にも書籍化レベルのヒット作はありますが、「世界設定で工夫したところ」と「小説としてのウリ」が一致しないというのはリスクです。
「転生先の世界ルールを解き明かす系」というのは転生物の進化ツリーの中で大きな幹であって、『Re:ゼロから始める異世界生活』などは代表例でしょう。NPCで何か仕掛けてくるというのは、そのバリエーションなのだと思います。パラメータやスキルは世界の細部ではあっても、それ自体がプレイヤーに何かを迫るというわけではないので、物語として動かすにはもう少し別のものが必須です。