軍事などドラマのお添え物です。お偉方にはそれが
最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い~帝位に興味ないですが、死ぬのは嫌なので弟を皇帝にしようと思います~(タンバ)
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この作品はずっと前から読んでいますが、取り上げたことはありませんでした。強大な軍備を持つ帝国が諸外国を巻き込んだ後継者争いをする話で、そうした意味ではしょっちゅう軍事衝突があるのですが、戦闘そのものは主人公がいつも圧倒的な力で制するからです。
しかし、マイソフは過去の文章で時々触れていますが、軍事的に正確であることは小説として面白いことを保証しません。主人公アル(アルノルト皇子)は強力な魔導師であり、隔絶した個人的戦闘能力を(幼少時の偶然によって、ただし帝室の血の影響下で)持っていますがそれを隠し、出来の悪い怠惰な皇子と言う世評に甘んじています。そのうえで、双子の弟レオナルトが次期皇帝となるよう暗躍します。
つまりアルは皇子相応に儀礼的な尊重を受けますが、公式に認められた兵権がなく、今後顕職につくとも思われていません。しかしあの手この手で、地域の有力者や海外勢力がレオナルトに有利な行動をするよう求めていくのです。そこがこの作品の見せ場になっています。だから戦闘そのものは、味方になってくれた勢力や戦士の蹂躙シーンでいいわけですね。
アルノルトは第七皇子で、絶対の後継者とされた第一皇子は物語開始前に早逝。数多くのライバルは個性的で、個性に応じた勢力をバックにつけます。父皇帝の兄弟たちの多くは争って敗れましたが皇弟ディートヘルムは引退した現皇帝協力者として、物語がだいぶ進んでから登場します。
多くのなろう系作品と同様、冒険者ギルドは政治的に中立な国際組織であり、登録した冒険者たちが特定の国の軍事的勝利のために戦わないよう制限していますが、他の冒険者とは隔絶した戦闘力を持つSS級冒険者が何人かいて、他者が言うことを聞かせるのは容易ではありません。じつはアルも偽名でSS級冒険者をつとめていて、その姿でいる限り帝国を利する軍事行動は取れません。非戦闘員を守る人道的行動だとか、言い訳が必要になってくるわけです。
じつは第一皇子の死に始まる、やや異例に深刻な(国力を弱める)後継者争いには帝国そのものに害意を持つ闇の勢力がいるらしく……という話がだんだん追加されていきます。生き方を貫く人がいるかと思うと、祖国の危機に新しい生き方を選び取る人もいます。軍記ものでありながら、ドラマでもっぱら稼いでいる作品です。