召喚獣三原則
ひとつ前で取り上げた『Frontier World ―召喚士として活動中―』のWeb版を読み進めています。いちど書籍化されて、打ち切りになって、異例の再書籍化(相当にリライト)をしているので、Web版の方が先に進んでいて、しかも途中で止まっています。たぶん「続きは書籍版で」という構想だったのでしょう。
ところで「ロボットにだって心があるんだ」というタイプのSFは古来多いですよね。ロボット三原則で知られるアシモフの作品群がまずありますし、手塚治虫『火の鳥 未来編』もロボットをモノ扱いする男とそのロボット・ロビタの関係が話の軸になります。もちろん『鉄腕アトム』もそういう話が多いですよね。特撮マニアであれば『ジャイアントロボ』や『大鉄人17』、あるいは『人造人間キカイダー』を思い出すでしょう。
ロボットにだって心があるくらいですから、ペットにだって心があります。子どもとして扱える対象を持って(干渉的な/受容的な)親ごっこがしたい人もいれば、とくに用事のない語りかけ(主に、自分の気持ち)を誰かに聞いてほしい人、逆に他愛もないペットの仕草や自分への甘えをただ受け取りたい人……人がペットに求めるものはいろいろですが、動物としてのペットにストレスを持ち込んでしまうこともあります。ちょっと珍しいところでは、犬を大事にしすぎて「自分が群れのボスだ」と勘違いさせてしまい、人の言うことを聞かない犬になってしまうこともあるそうです。実際のペットは、実際の人間ほどではないかもしれませんが、付き合い方を誤ると悪いフィードバックを返してきます。召喚士(師)を扱う異世界小説・VRMMO小説は多いのですが、昔のロボットものの定番パターンを踏まえつつ、「ペット生活あるある」を加えて様々に枝分かれしています。
『Frontier World』の召喚獣はAIで操られるゲーム内の存在ですから、プレイヤーに否定的な反応をすると言ってもたかが知れてはいますが、プレイヤーに対して遠慮がちで打ち解けない個体がいたり、2体召喚したら何となく折り合いが悪くて、スキルを取得しないと言葉が通じないので召喚士が原因に悩んだりします。この世界ではプレイヤーたちが閉じ込められたりせず、商業サービス世界で起きる程度のことしか起きませんが、まだゲーム世界の隠し設定が解き明かされていない……という趣向です。知性のある召喚獣と仲良くなって一族や故郷の懸念・無念を解き明かし解決するのが、どうやら召喚士というジョブの最終目標であり、小説のクライマックスでもあるようです。まあ召喚獣が順次追加召喚されるので、終わらないと言えば終わらないのですけれど。
我々が遊ぶゲーム内でNPCの「友好度を深める」手段は、予算をかけて贈り物をすることであったり、長い時間を過ごす(戦闘に何度も起用するとか)ことであったりします。実際の組織経営では、部下の拘束時間を長くしたり、限られた予算を親睦に使ったりすることはマイナスの影響も生みますよね。そういうのがうっとうしいから(実際の世界では、あるいは実際のMMOでは)リーダーなんかやりたくないという人も多いでしょう。そこのところはやはり読者に不快感を与えないために、美しく刈り込まれている小説が多いですね。この小説では、ちょっと迷惑な盟主が率いるギルドなども登場して、比較的きわどい話も取り上げていると思います。やっぱりペットより人の方が危険ですよね。