プレイヤーとしての運営さん
現実のMMORPGにはどんな人間関係・利害関係があるのか、別のシリーズで話したことがあります。
ミリタリ警察日誌・新たなるツッコミ「続 ファンタジー世界の軍事」
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現実のMMORPGには、もう1種類のプレイヤーがいます。「運営さん」です。ソシャゲの運営さんが持つ利害関心や行動は、MMORPGの運営さんと部分的に重なっています。
MMORPGの運営さんは私企業です。ですからまず、政府により規制されます。例えば卑猥な意味を持つプレイヤー名が禁止されたり、プレイヤーのゲーム内発言において特定の語句が禁止されたりします。プレイヤーの「過労死事件」が起きた国では連続ログイン時間や1日当たりのログイン時間が規制されたり、より総合的な「スタミナ」値で管理されたりします。多くの国では、日本のガチャに当たる仕組みはネットワークカジノの規制に引っかかります。
そして私企業ですから、キャッシュを稼がないといけません。ゲーム内で稼いだアイテムや金銭をゲーム外の現金で売買するRMTは、多くのゲームで禁止されていますが、法的に禁止されていません。それをどうやって見つけ、阻止するかは運営にかかっていますし、制限するほど余計な人手やシステムが必要になります。アイテム課金のない月額課金制のMMOは、楽をして強さや資産(パートナー召喚獣とか)を手に入れようとするとRMTしかないわけですから、人を安く雇える国からログインして多人数・長時間プレイで稼ぐ「ゴールドファーム」が一般客の狩場を奪ってしまうことがよく起きました。しかしこれは言い換えると、運営にとってはゴールドファームが大口の課金客ということにもなるわけです。
課金システムを変えない限り、運営にとっての二律背反(課金収入は欲しいがクレームが積み重なるのも困る)には出口がありません。だから多くのゲームがアイテム課金に移行しました。射幸的なガチャが禁じられている国でも、経験値2倍アイテムなどを「運営が」売ることで、ゴールドファームを儲からなくしたわけですね。
これとともに、「一部の廃人さんが落とすお金が運営収入の大きな比率を占める」という一種のゆがみが生じ、それはソシャゲへも引き継がれています。例えば初心者・新規客への配慮がないことは直接的には運営収入をほとんど減らさないとしても、それによって廃人さんが顔をしかめてゲームを移ってしまうのであれば、それは運営さんにとってマズい選択なわけです。ただし廃人さんの動向などは最高機密ですから、プレイヤーは限られた「引退表明」やプラットフォーム業者のランキングなどからあれこれ憶測するしかないわけですが。
さて、創作におけるMMOでたまにあるのは、劇中の運営さんがゲーム内の秩序や正義をストレートに守る言動をしていて、「弊社の売上」を全く気にかけていない例です。これはまあ、スタッフがプレイしたことないんじゃね?という話ですね。
前回取り上げた「召喚主のニーズがゆがんでいて転生者が不幸になるので反乱する」話のバリエーションとも言えますが、「運営が実は秘密結社の類で、特定の意図をもって運営をしている」バターンが最近増えてきました。ギャグ的なものだと、「特定の極端な好みを持ったプレイヤーが極端なプレイをして、(ある尺度で)突出した成果を挙げてしまい、そのユニークな達成が客寄せにもなるので運営が黙認する」のもパターンとして確立しつつあります。パイオニアは「防振り」でしょうね。
痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。(夕蜜柑)
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リアルなMMORPGというのは、レイドボスのレアドロップ利権、武術大会の八百長などを典型に権謀術数ドロドロとしているわけでして、そのまま創作に持ち込まないのはむしろ当然です。重病の明るくはきはきしたプレイヤーが亡くなった件は実際に経験しました。私は人違いでメッセージもらっただけのご縁でしたが。亡くなって半年たっても、その人のギルドマークをつけたままの事実上無所属プレイヤーがおられて、ずっとこのマークとともに行くんだと言っておられました。
MMORPGものの定番というと不遇職差別ものですよね。もちろん「運営さん」にとって、これは文句を言われるばかりで勘弁してほしい話です。昔は本当に重苦しい差別話が多かったのですが、最近のゲームはあとで職を変わる道を確保して、生産・採集などゲーム内収入につながるものはジョブでなくスキルで実装する方向になっているようです。不遇とは逆に、生産・採集に有利な職ができてしまうと、みんなその職のサブキャラを持ってしまったりして、それはそれで困るのですね。だから不遇職差別もののリアルな作品は、若い人にはだんだん書けなくなっていくんじゃないかなと思います。
もちろん「いろいろ言われてさらされるリスクがあるからパーティリーダーやりたくない」とか、別の矢印でげんにょりするような差別というか能力格差というか、ゲーム世界に足りない人・有り余ってあぶれる人というのは、永遠にあるのでしょうけれど、それこそ創作の中でくらい、こういうのは忘れたいですね。