中間管理職としての勇者
前回ご紹介した作品を読み進めています。
信者ゼロの女神サマと始める異世界攻略(大崎 アイル)
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この作品は「最弱なんだけどとんがった一部の能力を使って勝ったり人を勝たせたりする」作品でもありますが、ファンタジーの皮をかぶったラブコメでもあります。それって、なんの皮もかぶってないス〇イヤーズではないのかとも思いますがそれはともかく。そこは組織でも戦術でもないのでスルーします。
信者ゼロの女神サマであるノアを主人公高月マコトは頼ることにします。ところがこの主人公、持っているスキルの関係で、魅了の類を一切受け付けません。ノアも、現在の支配的な神族たちも、マコトに何かを強制することができません。殺すのは不可能ではありませんが、対立する神族との関係で、現世への直接介入は控えねばなりません。マコトの行動原理はまさに侠客的で、誰かを守りたいと思うと自己犠牲をいといませんから、神々の手が届きにくい問題をしばしば解決できます。そこで交渉したり説得したり、気に入られたり嫌われたりという関係が生まれます。
これって中間管理職ですよね。どっちかというと理想的な。民間企業でも完全に無礼講な会議ってあんまりないんじゃないですかね。あるとしたら、無礼を働く側が人間関係的なコストを払うことになります。私の叔父が1990年代まで地方銀行に勤めていましたが、「あんまり正論ばかり吐く奴は業務監査とかの仕事に回され(て出世街道を外れ)るんだ」と言ってましたね。まあ大魔王復活をめぐる事件が相次ぐ中での駆け引きですから、王朝が興るときの有力者間の交渉みたいなもので、その場では何でもアリだけど後でやっぱり粛清とか暗殺とかありそうですよね。それはともかく。
異世界物は全般に、「政治支配なんて面倒なだけだからパス」という主人公が多数派で、内政を握るなら圧倒的な生産系能力を発揮して配分のギスギスを表に出さないものが多いと思います(このエッセイでご紹介した作品には、それに当てはまらないものも多いのですが)。明確な上位者(たち)を持つだけでなく、自分の周囲を守るために絶え間なくそれらと交渉をして、自分の達成結果もその関係にフィードバックされていく作品は、いまちょっと手薄になっているところではないかと思います。