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新・ガリア戦記  作者: 維岡 真
第1章 無名の孤児
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模擬戦

 模擬戦。

 通常の訓練では木の剣を使うがこの日ばかりは皆本番で使う刀剣で戦いを行うことになる。

 いわば実際の剣闘士の戦いを限りなく再現した予行訓練だ。

 もちろん死なないように勝敗はかなり前段階で決まり、またしっかりとした防具もつけており命に関わるような攻撃は禁止されている。もちろんそれでも重症になることもあるがそれは相当な不運な場合につきた。

「逃げるなよ」

 更衣室でセリスィンはダグラスに声をかけられる。

 特に対戦相手は教官のグラシアムが決めるのだが、逆に要望があればよほどでない限り話は通った。

 セリスィンは鼻で息を鳴らしダグラスを睨んだ。

 逃げるなど微塵も思っていない。セリスィンはそう心の中で思った。


   ◇    ◇    ◇


「それでは只今より模擬戦を開始する」

 定型となったグラシアムの号令がコロシアムに響く。

 這いずり舐めるようにダグラスが自分の剣を撫でる。

 セリスィンはキッとダグラスの方を見る。食堂でのセリスィンが吹きかけた一件は寮内では有名になり、誰もがこの戦いの行く末を楽しみに見ていた。

 ダグラスたちの一派は大きな声で野次を入れている。

 他のものやもう一派のシリアスたちは腕を組んで黙って見つめていた。

 セリスィンは一呼吸置き、とある人物をちらと見た。

 彼と同室のカタルス。

 昨晩のこといつも寡黙なカタルスが珍しくセリスィンに声をかけた。

「明日の戦い何か策はあるのか?」

 いつも寡黙なだけにセリスィンは驚いて言葉を出す。

「いや、いつも通り戦おうと思ってたけど」

 するとカタルスが静かに言った。

「やつは速攻で攻め型の剣士だ」

 やつというのがダグラスのことを指しているのがセリスィンにはわかった。

「やつは独自の剣さばきで力も強い。慣れるまではとても厄介な相手だ」

 だが、とカタルスは続ける。

「逆に言えば、慣れて長期戦に持ち込めばやつの荒さも際立ってくる。そこの隙を逃すな」

 と、カタルスは言った。

「ありがとう」

 セリスィンは素直に礼をする。

「なんで急にそんなことを言ってくれたんだ?」

 純粋な疑問をカタルスにぶつけた。

「お前が負けたら俺が困る」

 カタルスはそれだけ言って喋らなくなった。

 一晩たちセリスィンはカタルスの真意を考えていたが、おそらく同室のセリスィンがこの戦いに負ければ自分にも飛び火がくるに違いないというカタルスの思いであったとセリスィンは消化した。

「それではダグラスとセリスィンの模擬戦を開始する。ストップの合図には必ず従うように。それでは始め!」

 グラシアムの言葉と同時にダグラスが突進してくる。予想通りの動きにセリスィンは応戦するもいきなり刀剣のぶつかり合いのはざまダグラスが蹴りを入れてきた。ランダムな動きに止むを得ずセリスィンはバランスを崩す。

 体制を整えたセリスィンはダグラスを見る。防具越しに嘲笑しているのがわかり、来いよと誘っているのがわかった。

 ダグラス一派から歓声が聞こえる。

 セリスィンは怒りつつも冷静にダグラスに向かう。なんとか一撃をダグラスに入れようとするも戦い慣れしているダグラスが独自の剣で剣撃をさばいていく。一派の声がさらに大きくなり、一方でセリスィンは少し焦り始める。

「ほらよ」

 重厚な一撃がダグラスから降り注ぐ。

 セリスィンはなんとか首の皮一枚その攻撃をかわした。

 ーーしかしこのままだと。

 カタルスの言っていた長期戦の前に勝負がついてしまう。

 焦りが見えるセリスィンだった。

 

  ◇   ◇   ◇


「同室のお前からはどう見えるあの戦い」

 シリアスがカタルスの元にやってきて問う。

「……」

 カタルスは無言で戦いを見つめる。目に入ってくるのは防戦一方に変わったセリスィンの必死な姿であった。

「まだまだ慣れていない。剣撃に」

 カタルスはそう言った。

「慣れていない? ああ、セリスィンか」

 二人の戦いを見つめながらシリアスが言う。

「剣の持ち方も振り方も防ぎ方も。どれを取っても素人だ。でも……」

 と、カタルスが言葉を残す。

「でも?」

「あいつは野生だ。もしその気になって剣に慣れたらダグラスや俺、そしてお前にも」

 とカタルスが言った。

「ほう?」

 相変わらず防ぐので精一杯のセリスィンを見るシリアス。

「お前がそんなことを言うなんて珍しいな」

 シリアスがそう言って再び無言で戦況を見つめる。


  ◇   ◇   ◇


「クッソ」

 セリスィンの口から思わず言葉が漏れる。

 腐っていてもさすがは剣闘士。剣の腕自体は向こうの方が一枚も二枚も上手だった。

 これが素手同士の戦いならセリスィンはだいぶ自信があったが、ここが剣闘士の訓練場であることから郷に入るしか方法ない。

 そろそろ防ぐのも目一杯になり万事休すかとなったところでダグラスが剣を止めた。

 セリスィンからある程度距離を取り、ダグラスはその持っている剣を右から左へと持ち替えた。

 そしてセリスィンを挑発するかのようにくいくいと指をやると、一派から嘲笑が浴びせられた。

「あの野郎ふざけてやがるぜ」

 一派が笑い声をあげる。

 これに対しセリスィンが思ったことはムカつきよりも助かったという安堵の気持ちだった。

 ーーこれで奴の剣に慣れる時間が増える。

 たとえ利き手と逆であってもそれはセリスィンにとっては嬉しいことであった。

 なりふりは構っていられない。要はこの勝負に勝てばいいこと。プライドや過程はどうでもよかった。

 逆手のダグラスにセリスィンは向かっていく。今度は立場が逆転しダグラスが防御に入った。

「おいおいおい大丈夫か?」

 一派からは野次の声が浴びせられる。

 セリスィンは構わずダグラスに剣を当てに行く。

 防御に入りつつもダグラスの表情には余裕があった。

 ニヤリと不気味に笑い、セリスィンの剣を防いでいた。いくばくかの剣撃の後セリスィンはダグラスのパターンに気づいた。

 受けてさらに攻撃を入れようとしてくるときに剣を持っている腹が空く。

 セリスィンは完璧なタイミングが来るのを待った。

 そしてその時は来た。

 大きな剣を振りかざした直後横腹が空いているのがわかる。

 セリスィンはそこをめがけて横波の剣を入れた。

 ーーもらった。

 そう思った瞬間ダグラスの顔が緩んだ。

 ダグラスはゆっくりと横にスライドし、そして剣でかわす。

 ーーまさか。

 セリスィンは慌てて剣を引っ込めようとするもダグラスの剣が振りかざされる。

 ーー罠だったのか。

 セリスィンは必死に自分の目の前に剣を出した。

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