表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新・ガリア戦記  作者: 維岡 真
第2章 剣闘士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/300

女流剣闘士

一撃だった。


兜がずれ、ほんの刹那――彼女の顔が露わになった。


観客が気づいたかどうかは分からない。


彼女はすぐに兜を拾い、何事もなかったように被り直した。短髪で、遠目には判別しづらい。少なくとも歓声の波の中に「女だ」と気づいたざわめきは混じっていないように思えた。


女性の剣闘士自体は、珍しくない。


だが、男の剣闘士に混じって戦う女をセリスィンは見たことがなかった。


――だからこそ、彼女は宿でも兜を外さなかったのだろう。誰とも話さず、一人で。


(……なぜ、そこまでして?)


答えを探しかけたところで、彼女の剣が唸った。


上の空になりかけたセリスィンは、はっとして受け止める。


そこから先は、彼女の猛攻だった。


兜を取られたのが癪に障ったのか、怒りを押し殺す余裕すらないのか。次々と、息をつかせぬ連撃が飛んでくる。鋭い。綺麗だ。迷いがない。


だが、セリスィンは捌く。


彼女の剣捌きは一級品だと認めざるを得ない。足捌きも、間の取り方も、セリスィンの半年より遥かに“戦い”を知っている。


それでも――セリスィンは一つの差に気づいていた。


技術ではない。


体格差だ。


彼女の剣は速いが、重さがない。受けた瞬間、押し切れない。セリスィンの剣を“止める”ことはできても、“折る”まではいかない。


(もし、同じ身体の大きさなら……)


そんな想像が一瞬よぎる。


だが現実は現実だ。


攻め合いの中で、じわじわとセリスィンの剣が前へ出る。彼女の足が半歩ずつ退く。呼吸が乱れる。


そして――


セリスィンの一撃が、彼女の得物を弾き飛ばした。


剣が砂の上を転がる。


セリスィンは切っ先を彼女へ向け、止めた。


決着。


場内の空気が一瞬固まり、次いで歓声が膨れ上がる。


セリスィンは係員の合図に従い、退こうとした。


――その瞬間だった。


彼女が、再び襲いかかってきた。


「いいぞ!」 「やれやれ!」


勝敗がついた後の攻撃は禁じられている。だが観客は無責任に煽る。血の匂いを求める声が、あちこちから飛ぶ。


セリスィンは反射で受けた。金属音がはじけ、腕が痺れる。


(……本気か)


通路脇から係の者が顔を出し、ざわついた気配が増す。止めが入るのも時間の問題だ。


セリスィンは一瞬だけ手で制した。


――ここで無理に終わらせれば、彼女はもっと意地になる。


(気が済むまで、やらせる)


セリスィンは腹を決め、再び剣を交えた。


◇  ◇  ◇


数合。


彼女の攻撃は鋭い。だが、怒りが前に出て、間合いが荒くなる。


セリスィンは致命に繋がる箇所だけを外し、確実に打ち返していった。


そして、ほどなくして――二度目の決着がついた。


彼女は剣を地面に突き、片膝をついていた。肩で息をしている。もう襲ってくる気概はない。


セリスィンは今度こそ退こうとした。


……が、一瞬だけ躊躇い、結局、彼女の身体を担ぎ上げた。


「なっ……!」


彼女が暴れる。じたばたともがく。だがセリスィンは無言で運ぶ。


観客はそれを“見せ場”と勘違いして、さらに湧いた。


セリスィンはその歓声を背に、通路へ消えた。


◇  ◇  ◇


「なぜ、あんなことをした!」


場を離れたところで、彼女は兜を脱ぎ捨てるように外し、激昂した。


「……いや。パフォーマンス? 俺たち剣闘士だし」


セリスィンは、わざと軽く言った。


その軽さが余計に火を注いだ。


「一生の恥だ……! 兜を脱がされたうえに、担がれるなんて……!」


彼女は壁に拳を叩きつけた。


セリスィンは少しだけ間を置いてから、問いを投げた。


「……なんで剣闘士を続けてる」


彼女は答えなかった。


ただ、セリスィンを睨みつける。その瞳の奥に、怒りだけじゃない別のものが見える気がして、セリスィンはそれ以上踏み込めない。


彼女は踵を返し、去ろうとする。


セリスィンは呼び止めなかった。


とんだ一戦だった――そう思いながら、セリスィンもまた控室へ向けて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ