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【本編完結】学園のアイドルは料理下手。目立たぬ俺は料理講師。~いつの間にやら彼女を虜にしていた件~  作者: 波瀾 紡
◆サイドストーリー

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【SS:春野日向は祐也を知る①】

本編の「前日談+後日談」合計4話のサイドストーリーです。

アフターストーリーのご要望がかなり多かったので、投稿することにしました。

お楽しみいただけたら幸いです。

 あれは高校一年生の秋だった。


 放課後。親友の千夏ちなつと一緒に駅までの下校路を歩いていると、ウチのブレザー制服を着た男子が二人、道端で何やらワイワイと騒ぐように話をしているのが目に入った。


 私は思わず立ち止まって、その様子を眺めた。


「ねえ日向ひなた、どうしたの?」

「えっ……? ああ、あれ。何してるのかな?」


 二人の男子は向かい合って、喧嘩ではないけれど、何かを言い合ってる。片方のボサボサ頭の男子は、手に何か青い紐か布のような物を持って、相手に見せている。


 相手の男子が、その青い紐を指差した。


「なぁ祐也ゆうや。そんなもん、そこに捨てとけよ」

「ダメだよ。誰かの落とし物だろ? このまま捨てたら、きっと汚れてボロボロになってしまう」


 誰だろうと思って見たら、『捨てとけよ』と言ってるのは、同じクラスの水無みずなし 雅彦まさひこ君だ。まあまあイケメンで明るくて、クラスの女子にもそこそこ人気の男子。


 水無君と向かい合って、紐のようなを持ってるのは……

 あ、あの子も同じクラスの男子だ。


 えっと……誰だっけ?


「日向、あんな感じが好みなの?」

「えっ……? なんの話?」

「あれ。水無君。まあまあイケメンよね」

「なに言ってんの千夏。別に水無君に興味あるってわけじゃないよ」


 イケメンに目がないのは千夏で、私は別にイケメンが好きとかじゃない。


「じゃあ、もう帰ろうよ。雨が降ってくるかもしれないよ」

「ちょっと待って」


 確かに空はどんよりと曇ってて、いつ雨が降り出すかもしれない。だけど水無君に興味がある訳じゃないけど、あの二人が何を言い合ってるのか、ちょっと気になる。


 それにもう一人の子、祐也って呼ばれてるけど誰だっけ?

 同じクラスなのに名前が出てこないのは、ちょっと失礼だよね、私。


「なあ祐也。どうせそれ、誰かが捨てたんだろ?」

「いや、これ、新品じゃないけど、綺麗に洗濯してあるし、捨てたって感じじゃないよ」


 その彼が水無君に見せてる紐……というか、ネクタイみたいなのは、鮮やかなブルーで確かに綺麗に見える。


「捨てたんじゃなけりゃ、なんでこんな所に落ちてんだよ?」


 水無君は道路端に設置された、ジュースの自販機の下を指差してる。どうやらそれ(・・)は、自販機の前に落ちてたみたいだ。


「それは……想像でしかないけど……自販機でジュースを買おうとして、鞄から財布を取り出した時に、うっかり鞄の中からこれが落ちた……ってとこじゃないか?」

「まあそうかもしれない。……で、祐也。だからと言って、どうなんだ? さっさと元の所にそれ置いて帰ろうぜ」

「いや、ダメだよ。風に飛ばされるかもしれないし、雨が降るかもしれない。汚れてしまうよ」


 水無君は大きく息を吐いて、呆れたよって感じに肩をすくめてる。でももう一人の彼は、真剣な顔のままで、そこを動こうとしない。


 ボサボサ頭で顔はよくわからないけど……なんとなくやる気が無さそうな表情なのに、案外頑固なんだこの人。ちょっと意外な感じ。


「だったらどうすんだ? ここにずっと立って、持ち主が現れるのを待つつもりか?」

「いや、そういう訳にはいかないな……」

「そもそもそれ、なんだよ? 別にそんな大事な物じゃなさそうだろ?」

「いや、これはコックタイだな」

「コックタイ? なにそれ?」


 ──コックタイ? なにそれ?


「洋食の料理人の服装でさ、首に巻いてるネクタイみたいなヤツがあるだろ。あれだよ。鮮やかなブルーって珍しいよな」

「そうなのか? 祐也、よく知ってるな」

「えっ……? あ、いや、テレビで観たんだよ」


 へぇ、あのネクタイみたいなの、コックタイって言うんだ。初めて聞いた。


 でもなんだかあの子、あたふたしてる。どうしたんだろ?


「で、祐也。コックタイって言うのはわかったけど、そんなの別に貴重品でもないだろ。やっぱそこに置いて、もう帰ろうぜ」

「いや、貴重品かどうかわからないだろ。本人にとっては大事な物かもしれない」

「大事? なんで?」

「あ、いや。あくまで可能性の話だけど……例えば料理人を目指して田舎から出てきた人が、田舎のお母さんから『頑張ってこいよ』ってプレゼントされた物だとか……」

「ほぉ、なるほど。お前、なかなか想像力が豊かだな。……で、祐也。そうだという可能性はいかほどだ?」

「あ……1%ってとこかな」

「だろうな。じゃあそれは、ほっといて帰ろう」

「いや待てよ雅彦。せっかくだから、できることはしてから帰ろうよ」

「できることって……?」

「そうだな……あっ、そうだ。そこのコンビニでビニール袋を貰ってくるよ。それに入れてこの道路標識に縛っておけば、汚れたりどこかに飛んでいったりしないだろ」

「そこまでするか?」


 水無君は口をあんぐり開けて、呆れてる。そりゃそうよね。普通はそこまでしない。


「まあ、料理人ってさ、きっと道具とかを大切にする人が多いんじゃないかな。お、俺もよくは知らないけど。……だから雅彦、悪いけどちょっとここで待っててくれ」

「祐也。お前って、相変わらず真面目だな」

「おう。真面目なだけが、俺の取り柄だ」

「いや、真面目で……誠実なとこな」

「そっか。ありがとな、雅彦」


 彼は水無君にニコリと笑顔を向けてから、コンビニに向かって走って行った。


「へぇ。秋月あきづきって変わり者だねぇ。そんなことまでするなんて」


 ──あっ、そうだ。秋月君だ。


 千夏の呆れたような言葉で、ようやく彼の名前を思い出した。同じクラスなのに、ごめんね秋月君。


「普段はボーっとして、やる気が無さそうなのに……こんなことにはこだわるんだね」

「そ、そうだね。変わり者だね、秋月君」

「じゃあ日向。そろそろ帰ろうよ」

「あ、うん。そうだね……」

「あのさ日向。駅の近くに新しいジェラートのお店できたの知ってる?」

「え? 知らない」

「じゃあ食べに行かない?」

「ジェラートかぁ……いいね!」

「ほら、日向。もうよだれが垂れてるよ?」

「えっ……嘘っ!?」


 まさか?……とは思ったけど、思わず手で口を拭った。


「あはは、嘘だよ。ホントに日向は食いしんぼなんだから!」

「ええっ? もうっ、千夏!」


 まあ確かに、私が食いしんぼなのは間違いないけど。さすがに道端でよだれは垂らさない。


 そんなバカを千夏と言い合ってたら、コンビニから出てきた秋月君が、ダッシュでこちらに戻ってくるのが見えた。


 風で前髪が上がって見える顔は、真剣そのもの。彼の顔をこれだけはっきりと見るのは初めてだ。


 真剣な表情をしてると、案外キリッとした顔で、でもその目はなんだかものすごく優しい感じ。


 ──へぇ、秋月君って、こんな顔なんだ。


 いや、特にイケメンだとかカッコいいとか思った訳じゃないけど。でも芯が強そうなのに優しい目。そして見も知らない他人のことを思っての行動。


 彼はきっと、いい人なんだろうなって……そんな気がした。

【新連載のお知らせ】

中短編(2万文字程度)のハイファンを書きました。

20話足らずで完結します。息抜きにどうぞ。


『その勇者。めっちゃ美人で世界最強なんだが、どこかヌけてる』

https://ncode.syosetu.com/n2880ge/

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかのアフターストーリーありがとうございます。祐也の性格がイケメンすぎます。しかも日向からの第一印象もとても良かったみたいだしこの二人が付き合ってくれて本当によかったと思いました。楽しみ…
[一言] おぉ!「前日談+後日談」ですと!? 作者様に感謝!
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