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【本編完結】学園のアイドルは料理下手。目立たぬ俺は料理講師。~いつの間にやら彼女を虜にしていた件~  作者: 波瀾 紡
◆本編

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74/84

【74:春野日向は企てる】

 夏休みが明けた。

 二学期初日の朝、登校すると、雅彦が一番に声をかけてくる。


「おはよー! 久しぶりだなぁ祐也! 会いたかったぜー」

「おう雅彦。俺も会いたかったよ。……にしても焼けてるな」


 雅彦の顔は、真っ黒けだ。ニヤッと笑うと歯だけが白く浮いて見える。


「おうよ。アマンとプール3回に家族で海にも行ったぜー 祐也は……あんま焼けてないな」

「ああ。家族で一回海行っただけだ」


 雅彦のヤツ、相変わらずのリア充っぷりで、高校生活を満喫してやがる……


 ──と考えた瞬間、心の中に『お前だってリア充だろ』と言う反論が聞こえた。もちろん反論したのは俺自身の心だ。


 そうだった。俺も……


「どうした祐也。楽しそうな顔して」

「あ、いや。夏休み明けって、みんな楽しそうでいいなぁって思ってさ」


 教室のあちこちで、「久しぶりー」とか「焼けたねー」とか、楽しそうな声が上がっている。


 雅彦はぐるっと教室中を見回した。


「そうだな」


 俺も教室を見回すと、いつもどおり女友達に囲まれる日向が目に入った。日向はいつも輪の中心にいるけど、どちらかと言うと聞き役で、穏やかに笑っていることが多い。


 けれども今日の日向は、物凄く楽しそうにニッコニコしている。いつも以上の満面の笑顔だ。


 その日向が、一瞬──ほんの一瞬だけ──横目でチラッと俺に視線を向けた。


 たぶん他の誰も……隣で同じ方向を見ている雅彦でさえも、絶対に気づかないであろう微妙な動きだった。


 だけど俺には、日向が『祐也君、おはよー!』と言ってるのがわかる。俺も心の中で『おはよう、日向』と返した。


 日向とはそれ以上何も無いのだけれども、二人の間には明らかに変化した何かがある。

 ──そんなふうに感じた。


 二日後には調理実習がある。日向が企てる、俺たちの関係のサプライズ公表。そのことを考えると、楽しみではあるけどドキドキが止まらなくなる。



 そして二日が経ち──その日はやってきた。


◆◇◆◇◆


 調理実習は前回同様3、4限目を使って行われる。2限目が終わると、調理実習室にみんなで移動だ。


「祐也、行こうぜ」

「あ、俺、用事があるから先に行くよ」

「あっ、そうなのか?」


 俺はそう言って、先に教室を出た。向かう先は調理実習室なのだけれども、その近くのトイレに行くつもりだ。


 ──日向のプランはこうだ。


 調理実習が始まる前に、俺はちゃんと髪型を整えて、みんなを驚かせる。そして調理実習では、もちろん本気で料理の腕を見せる。


 調理が済んで試食が始まったら、日向は俺のグループにやって来て、料理の出来栄えを褒める。


 そのセリフは『祐也君、凄く美味しそう!』だ。


 もちろんクラスメイトは、俺を下の名前呼びする日向に驚く。そこで日向は『実は私たち付き合ってるんだ』と高城千夏に小声で言う。


 すると高城のことだ。驚いて大声でそれを叫んで、クラス中に広がる。


 ──なかなか大胆な計画だ。

 でもそんなに難しいことはない。


 唯一難しいのは、日向がちゃんと照れずに、高城に俺たち二人が付き合ってることを言えるかどうか。


 日向はとてもワクワクした感じでこのプランを語ってたから、たぶんそれも問題あるまい。


 そんなことを考えながら早足で歩いていたら、すぐに調理実習室がある校舎に着いた。廊下の向こうの方に調理実習室があるが、すぐ手前のトイレに目を向ける。


 この中の洗面台で髪型を整えてこようと、制服ズボンのポケットに入れた整髪剤を握りしめる。

 その時、調理実習室の扉が開いて、中から家庭科の担当教諭が出てきた。


「あっ、秋月! いい所に来た。ちょっと手伝ってちょうだい」

「えっ……何を?」

「私ったら、実習の説明プリントを職員室に忘れて来たのよ。私の机の上に人数分のプリントがあるから、それ取ってきて」

「あ、いや、俺は……」


 ──今から髪を整えてないといけないんだ。


「早く! 授業が始まっちゃうから、大急ぎで取って来て! 駆け足でね!」


 ──いや、そんな無茶な!

 と思ったけど、仕方がない。俺は職員室に向かって走り出した。




 職員室からプリントを取って、大急ぎで走って戻る。プリントを見ると、今日の実習メニューはパスタだ。

 ミートソーススパゲティ。付け合わせの茹で野菜もある。それとコンソメスープ。


 まあ基本的なメニューだから問題はないけど、料理上手に見せるにはやっぱり見栄えの工夫だな……


ミートスパゲティなら料理教室でやったことがあるし、日向も問題ないだろう。




 調理実習室の所まで戻って来て、髪型を整えるのはどうしようかと思い、トイレの入り口を見る。


 俺がきちんと髪型を整えた姿をするのを、日向はとても楽しみにしていた。ちょっとくらい先生を待たせてもいいか。


 そう思ったのに、その時調理実習室の扉から教師が顔を覗かせた。


「あっ、秋月待ってたよ! 早く早く!」


 早く来いと、激しく手招きしている。

 ──くそっ、仕方ない。


 結局髪型を整えられないまま、調理実習室に入るしかなかった。



 プリントを持って実習室に入ると、もう既にクラスのみんなはエプロンを着けて、グループごとに各調理台に分かれている。


 ふと前のホワイトボードに目を向けると、グループ分けの出席番号が、各調理台ごとに書いてあるのが目に入った。


 それによると、なんと……

 俺と日向は同じグループになっていた。

ここまでお付き合いいただき、そして応援いただいた読者の皆さまへ


皆さまへのスペシャルサンクスとして、次話から4話ほどの間、めくるめく(大げさすぎる?)楽しい、二度目の調理実習エピソードをお届けします。

どうぞお楽しみくださいませ(=´∀`)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日向の計画なんかかわいくて成功して欲しいと思った矢先にトラブル発生!?って思ったけど日向と同じグループになれてなんとかなりそうでよかったです。執筆活動大変でしょうが頑張って下さい。応援して…
[良い点] 日向が可愛いすぎる これからも更新頑張ってください
[一言] いまどきの教師はこんな風に頼まなそう? 校長や教頭にバレたら普通に怒られるし(笑)
感想一覧
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