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【本編完結】学園のアイドルは料理下手。目立たぬ俺は料理講師。~いつの間にやら彼女を虜にしていた件~  作者: 波瀾 紡
◆本編

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72/84

【72:春野日向は素を出したい★】

「あのさ、じゃあさ、祐也君」

「なに?」

「前に言ってたでしょ?」

「何を?」

「祐也君も私も、学校で素を出せたらいいねって話」


 そう言えば、そんな話をしたことがある。日向は何を言いたいんだろう?

 目に涙を浮かべたままニコニコとする日向を、俺はぽかんと見つめた。


「それと素を出せたら、私たちの関係も隠さずに出そうねって言ってたよね」

「そ……そうだった……かな?」


 俺たちの関係と言ったって、前に話した時は、料理教室で講師と生徒として関わりがあるという程度だった。


 だけど今は……


「ねえ、祐也君」

「なに?」

「学校で、いつ素《・》を出す? つまり私たちの関係」

「ええーっ!? いつって……」

「だって来週から二学期が始まるよ」

「お、おう。そうだな」

「二学期の初日?」

「ええっ!? いきなりーっ!?」

「ダメ……?」

「ダメって言うか、心の準備がまだ……」

「そっかぁ……」


 日向はしょぼんとしている。悪いなとは思うけど、やっぱり心の準備は必要だろ。


「そんなに早く、俺たちの関係を公表したいのか?」

「うん。だってさ。関係を内緒にしてたら、どこかに遊びにも行けないし……」


 確かに、それはそうだ。K市みたいに、誰にも会わない遠方にばかり行くわけにもいかない。

 

 それに遠方であっても、何度も出かけたらそのうち誰かに見られるかもしれない。


「本当は夏休みに、祐也君とお祭りとかプールとか行きたかったんだけど、誘えなかったのよね……」


 そうだったのか。それは日向に悪いことをした。

 もしも日向から誘ってくれたら出かけようなんて、俺はなんて受け身で身勝手だったのだろう。ホントに情けないと、今になったらそう思う。


「じゃあさ。これからは気にせず遊びに行って、誰かに見つかったら公表するってのはどうだ?」

「ええーっ……コソコソしてるみたいで、なんかやだなぁ。それに公表するまで、学校では話もしづらいし」

「別にわざわざ公表しなくても……普通に学校で俺たちが話をしたら、自然と回りも気づくだろう?」

「少なくとも千夏には言わないといけない」

「ああ、俺も雅彦には言わないといけないな」


 付き合いだしたことを誰かに言うなんて、普通はここまでだ。お互いの仲の良い友達。だけど日向は、なぜかそれ以上の公表を考えているようだ。なぜだ?


「でも、他の人にもちゃんと伝わるようにしないと……なんか私って、割と噂とか広がりやすいみたいだし」

「あ……そっか」


 日向は学校では学園のアイドルとして超有名人だ。確かに中途半端に内緒にして噂に尾ひれはひれが付くくらいなら、俺と日向が真面目に付き合いだしたことを、ちゃんと伝えたほうがいいようにも思う。


「それとね……私と祐也君が付き合ってることを……えっと……あの……」

「ん? どうした?」

「みんなにも知ってもらいたいな……なんてね。えへっ」


 頬をピンク色に染めて日向は上目遣いで俺を見ながら、ぺろっと舌を出した。

 その愛らしい姿が、俺の脳を直撃して、爆発しそうになる。頭がくらくらして、何も答えられない。


 そうなのか。日向は俺と付き合ってることを……みんなに知ってもらいたいんだ。なんと可愛いことを言うのか。


「えっと……祐也君は……やっぱりそんなのは、嫌かな?」

「いやいやいや! 全然嫌じゃない! うん! ちゃんとみんなに公表しよう。俺も腹をくくるよ!」

「ホントに? いいの?」

「おう。それが日向の望みならな」


 ──そうだ。俺は日向が後悔しないようにするって決めたんだから。


「うん、ありがとう! それと祐也君も私も、ちゃんと素を出せるようにしようね」

「あ……そうだな。そういう約束だったな」


 俺が素を出すって、いったい何をどうしたらいいんだ?


「私は苦手なものは苦手って、ちゃんと言えるようにする。祐也君は……あっ、そうだ! いいことを思いついた!」


 日向は何かを閃いたみたいで、ぱぁーっと表情が明るくなった。何を思いついたのだろう?


「二学期が始まって一週間くらいしたら、二回目の調理実習があるでしょ?」

「ああ、それくらいの日程だったかな」

「私たちが付き合ってるのを公表するのは、その日にしない?」

「えっ? なんで?」

「面白いから」


 日向はそう言って、ニッと笑った。まるでいたずらっ子の笑顔だ。そしてその日の計画を嬉しそうに教えてくれた。


 調理実習の日に、俺が料理の腕を披露することまで、日向の計画に入っている。


「えっ? そんなことまでするの?」

「うん。祐也君の素を出すんだから、それでいいでしょ?」

「あんまり気が乗らないなぁ」


 渋る俺の顔に向かって、日向は人差し指をすっと伸ばしてくる。なんだろう?


 日向は人差し指の先で、俺の鼻の頭をきゅっと押さえた。


「だって祐也君。私はあなたの素敵な姿を、みんなにも見てもらいたいの」


 そのまま日向は美しい目を細めて、ニコリと笑う。鼓動がドクンと跳ねて、胸の奥がきゅうっとする。


 ──そんなことをされたらもうダメだ。

 俺は思わず素直にこう答えた。


「あ……ああ。わかったよ」

「やった! 楽しみだなぁ……」


 小さくガッツポーズをした日向は、ホントに楽しそうに笑っている。


「あ、そうだ。その日までは、学校が始まっても、今までどおり祐也君と私は関係のないフリをしようね。その方がサプライズがあって楽しそう」

「わかった」


 日向って案外子供っぽいというか……こんないたずら好きな所があったなんて意外だ。


 ──いや、俺はまだまだ日向のほんの一部しか知らないのだろう。

 これからもっと日向のことを知りたい。日向にも俺のことを知って欲しい。


 そういうことも含めて、きっと付き合うということなんだろうし。



 そんなことを考えていたら、自宅の方から日向のお母さんと母が戻ってきた。かれこれ一時間近くも二人で話していたようだ。


 日向のお母さんもすっかり落ち着いて、穏やかな笑顔になっている。

 日向とお母さんは二人とも笑顔で、仲良さげに帰っていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日向の台詞はとてもずるい。あんなのを言われたら嬉しいとか恥ずかしいとか可愛いなどのすべての幸せの感情が合体した究極な感情になりそうです。(自分でもなにいっているのかわからなくなるくらい最高…
[一言] 母親ズのお茶会の内容、閑話にならないかなー 日向母も子を思ってのことで、決して悪いことではない。 娘に自分の指針を否定されて、落ち込んでただろうから、由美子先生に慰めてもらったのでは、と思…
[一言] 誠実に愛し合う日向ちゃんと祐也君は好感が持てます。子供が少ないこの時代に、若い世代に期待するしか無いですから。
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