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【本編完結】学園のアイドルは料理下手。目立たぬ俺は料理講師。~いつの間にやら彼女を虜にしていた件~  作者: 波瀾 紡
◆本編

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70/84

【70:秋月由美子はかく語りき】

「春野さん。子供が取り返しのつかない失敗をしそうな時は、子供の意思に反してでも、親は全力で、命をかけてもそれを防ぐべきだと私は思っているんですよ」


 日向のお母さんは無言でコクリと頷いた。


「でもそうじゃない時は、アドバイスはするけれど、本人の意思を尊重すべきだと思うんです。上手くいかないこともあるでしょうけど、それが子供の成長につながる」


 母は気持ちを落ち着けるように一度深呼吸をして、話を続けた。


「この子達はまだまだ若くて拙《つたない》いことだらけだけど、いい加減な考え方は持ってないと信じています」


 母は顔を日向に向けて、優しく穏やかな視線を送る。


「特に日向ちゃんはホントに真面目で努力家で、自分が何をすべきで、何をすべきじゃないか、きちんと考えている」

「ま、まあ、それは……」


 日向のお母さんもチラッと日向を見た。本当は日向を信頼している。そう感じるお母さんの表情だ。


「今の学校に残ることで、日向ちゃんには取り返しのつかない失敗になるとお考えですか? 東京に転校しないことで、日向ちゃんはこの先不幸になりそうですか?」

「いえ……それは……ないと思います」

「じゃあ、日向ちゃんの決断を尊重してあげることはできませんか?」


 日向のお母さんは、母の顔を見つめて、また無言になった。


「あ、そうだ春野さん。念のために言っておきますが、私は祐也のためにこんなことを言ってるのではありません。はっきり言って、今回のことで祐也が悲しい思いをしようが、それはどうでもいいんです。それも祐也の人生の勉強だから」


 母は俺を向いて、ニヤリと笑ってる。なんだよそれは。俺はどうでもいいのかよ。

 まあでも、母の言うとおりだ。俺のことよりも、日向のことが大事だ。


「でも日向ちゃんが祐也を選んでくれて、ここに残りたいって言うなら、それを尊重してあげて欲しいと思うだけです。だから祐也には言いました」


 母は、また日向の顔を真剣な表情で見つめる。


「日向ちゃんが後悔するような付き合い方だけはするなと」

「由美子先生……」


 日向は母の顔をじっと見つめて、目にはほんのり涙を浮かべている。


「もしも祐也がそんなことをしたら……その時は私は、祐也をボッコボコにぶちのめして、春野さんの目の前に差し出しますから!」


 ボコボコにぶちのめすって……この母ならやりかねない。

 ──しかし、母が俺と日向を、尋常じゃないくらい信頼してくれているのがわかる。

 そして俺のことはどうでもいいと言いながら、俺のことも日向のことも、大切に思っていることがビンビン伝わる。


「ひな……いえ、春野さんのお母さん。ぼ、僕は……春野さんが東京に転校するなら、心からそれを応援するつもりでした。でも春野さんがここに残ってくれると言うなら、母が今言ったように、春野さんが絶対に後悔しないように、全力で努力します!」


 俺の言葉に、日向は感極まった声を漏らした。


「ゆ……祐也君。ありがとう……」

「春野さんのお母さん。僕はまだまだ何もわかってない未熟者だけど、気持ちに嘘はありません!」

「お母さん! わかって! わかってよ!」


 日向のお母さんはまた俺と日向を交互に見比べて、それから「ふぅーっ」と大きくため息をついた。


 全然お話にならないと呆れられているのか? 信頼してもらえていないのか?


「あのね、祐也君。日向はね……」


 お母さんは俺をまっすぐに見て、諭すような口調で話し始めた。


「外では絶対にそんな姿は見せないと思うけど……家では結構いい加減だし、部屋は散らかしっぱなしだし、不器用だし、案外甘えん坊でワガママを言ったりもするし……」

「ちょっ、お母さん! 何を言い出すの?」


 ──へっ?

 いったいなんの話だ?


 日向が急に焦った顔になって、あわあわしてお母さんの肩を揺すっている。


「そんな女の子なのに、それでもいいの?」

「えっ……?」


 ──はい。不器用なのと甘えん坊なのは知ってます。

 部屋が汚ないのと、案外ワガママは知らなかったけど……たぶん大丈夫……だと思う。


「あ、はい。大丈夫です!」

「わかったわ。祐也君もお母さんも信頼できそうだし、今回は日向の判断を尊重します」

「えっ? ホントに? お母さん、ありがとう!」


 日向は涙を浮かべて、お母さんの肩に抱きついた。


「春野さん、わかってくれてありがとう」


 母もホッとした顔で、頭を下げる。


「春野さんのお母さん、ありがとうございます!!」


 俺もテーブルに額がぶつかるくらい頭を下げた。認めてくれて、本当にありがたい。


「あっそうだ、春野さん! 私が焼いたマドレーヌが家の方にあるんですよ。一緒に食べましょう!」


 母は急にそんなことを言い出して立ち上がった。俺の耳元に口を近づけて、小声でごによごにょと何かを言う。


「気が変わらない内に、地固めをしてくるわ」


 ──俺の母親ながら……由美子先生、怖ぇ。


「さあ、行きましょう! 母親同士、込み入った話もしましょうねー」


 母はそう言いながら、焦っている日向のお母さんの腕を掴んで、自宅の方へと行ってしまった。

本日も感謝の2話投稿で頑張ります!

(夜にもう一話)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 祐也の告白?みたいなのがあって誠実な部分を出せた後に日向のお母さんが折れたのを見てまるで我が子のように嬉しく思えました。そのあとの暴露話にくすっとしたりして最高の話でした。執筆活動大変でし…
[良い点] 秋月由美子お母さんのすごさと、これからの人生を見通す力に感心しました。 >「気が変わらない内に、地固めをしてくるわ」 これも達観していると思います。
[一言] いつも思う事だけど、由美子先生がカッコ良すぎる! 惚れてしまうじゃないですか!
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