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【本編完結】学園のアイドルは料理下手。目立たぬ俺は料理講師。~いつの間にやら彼女を虜にしていた件~  作者: 波瀾 紡
◆本編

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24/84

【24:秋月祐也は尊敬する】

 今日の料理教室が終了した。


 春野は帰り支度をするために、いつもの花柄ピンクのエプロンと三角巾をテーブルの上で丁寧な手つきで畳んでいる。


 春野は今日一日、キャベツの千切りに始まって、大根の輪切りや短冊切りなど、包丁使いの練習ばかりして過ごした。


 おかげで包丁の使い方は、かなり様になってきたように思う。


 それにしても、やっぱり春野は大したヤツだ。


 彼女は今日、文句一つ言わずに、面白くもないであろう包丁の練習を、ただただ黙々とこなしていた。


 正直言って俺だったら、あっという間に投げ出していたと思う。


 春野の姿を見て、俺が普段からいかに努力が足りないか、ひしひしと自覚させられた。


 他人に気を遣って喋るのが面倒くさいなんて言って、友達を増やそうともしない自分は、情け無いヤツなんだと思う。


 俺ももっとがんばらなきゃな……という気持ちが芽生えるものの、そんな簡単にはいかないよなぁ……と思うのも確かだ。


 本当に春野って子は凄い。



 学校のみんなが知ってる春野は、華やかで、軽々と何でもスーパーにこなす美少女。


 カーストトップに君臨する、みんなが羨む才能を持った特殊な人間。


 もちろん誰でも努力さえすればそうなれるわけではないから、確かに春野には天才的な能力があることは間違いない。


 けれどもそれらはすべて、春野のこの真摯で努力家な部分があってこそのことだと、俺は知ってしまった。


 そう思ってエプロンを鞄にしまう春野を見ると、今まで以上に彼女がキラキラと輝いて見えた。


「……ん? 秋月君? どうしたの?」


 布製のショルダー鞄をよいしょと肩にかけて、春野が俺の方を向いた。


 ──しまった。

 俺がぼんやりと見ていたのを、春野は不審に思ったに違いない。


「あ、いや……お疲れさん。面白くない包丁使いばっかりで疲れたろ?」

「ううん、そんなことない。どんどん自分が上達するのがわかるから、面白かったよ」


 春野はニコリと笑顔を浮かべて、「ありがとう秋月君」と付け加えた。


 その笑顔のキラキラ具合に、また鼓動がドキリと高まる。


 ──いかんいかん。あんまり春野の魅力に当てられる訳にはいかない。


 今はこうやってウチの料理教室に来てくれて、接する機会もある。

 だけれどもそこから離れれば、やはり春野は高嶺の花であることは間違いない。


 料理教室に来なくなれば、俺と春野が接する機会なんてのは、ほとんど無くなるだろう。


 そこを勘違いしてはいけない。

 春野と俺は、所詮は住む世界が違うんだ。


 俺は自分にそう言い聞かせる。




「今日もありがとうございました!」


 帰り支度を整えた春野が、玄関で靴を履いて俺と母に会釈した。

 他の三人の生徒さんが先に玄関を出て、春野もそれに続いて出ようと玄関ドアの取手に手をかける。


 ところが彼女は急に取手から手を離して振り向いた。


「あっ、そうだ、秋月先生!」

「「はい?」」


 俺と母が同時に声を出す。

 それに気づいて母と俺は顔を見合わせた。


 母はプッと笑って春野に問いかける。


「どっち?」

「あっ、ごめんなさい。由美子先生のつもりで声かけました」

「あ、はい。どうしたの、春野さん?」

「来週は料理教室、お休みをいただきたくて……」


 来週の土曜日は、ゴールデンウィークの真っ只中だ。


「家族旅行に行く予定なので、来れないんです」

「ああ、そうなのね。わかった」

「ホントすみません」

「いいよー そう言えば他の生徒さんも休みたいって言ってたから、来週は教室自体お休みするわ」


 母は俺を向いて、ニヤッと笑った。


「ウチも家族旅行にする?」

「いや、いい」


 俺が即答すると、母は拗ねたように口を尖らせた。


「ええーっ!? 祐也、冷たいなぁー」

「ゴールデンウィークは父さんが単身赴任先から帰って来るんだから、二人でどっか行ってこいよ」

「あっ、そうだねー 父さんと二人で、ラブラブデートするわ!」

「はいはい、お好きにどうぞ」


 どうぞご勝手に、って感じだ。


 父と母も雅彦達と同じくバカップルだと思う。

 まあだけど結婚して何年も経って、バカップルでいられるのは凄いことかもしれないけれど。


「秋月先生」

「「はい?」」


 あ、またやってしまった。

 春野の言葉に、母と俺が同時に答えた。俺達親子はまた思わず顔を見合わせる。


「あ、いや……由美子先生って、ホントにご夫婦の仲がよろしいんですね」

「まぁねぇー」


 母は否定することもなく、手のひらを頬に当てて嬉しそうに答えた。やっぱりバカップルだ。


「春野さんちはどうなの?」

「えっ? いや、あの……ウチは……」


 春野は言い淀んだ。もしかしたら何か事情があるのかもしれない。母もそれを敏感に感じ取って、急に話題を変えた。

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