第六話「幻術と茶番」
あの混沌とした間は数分で収まりさっきまで穴の中に居たジャックが泣き止み、あった時みたいにロイドに絡みながら話しかけてきた。
「なあロイド、お前って何が使えるんだ?空間を超越するとか時間を止めるとか?」
「んなわけあるか!僕が使えるのは基礎魔術の他に幻術とその応用だけだ。ジャックが期待してるような化け物スペックは持ち合わせてねえわ!」
あまりにも自分勝手が過ぎる故にロイドは尖った口調でジャックの期待を否定しながら自分が使えるのを答えた。
「お!いいじゃん幻術、あれでしょ?モクモク~って煙出して身を隠して後ろからグサッ!て奴でしょ私知ってるよ!」
何処からか出した黒い頭巾を被ってジャックの後ろに立ち、またもどこからか持ってきた木刀でジャックの背中に強く突いた。
「いだい!なにすんだよクイーン」
う~ん、クイーンのやってる事は実際に幻術を使ってやる時もあるけどこれあれだよね、東洋に伝われる忍者だよね、絶対そうだ、黒頭巾被ってるし木刀持ってるし―――
「中らずと雖も遠からずかな。幻術ってのはそうだな、在るモノを無くし、無い者を在るモノにするんだよ」
「よく意味が分からないな?やってみてくれないか」
「それ賛成!やってよ幻術、ニンニンてさ」
ジャックとクイーンの言葉攻めにより泣く泣くロイドはやる事にした。
「一つだけ注意、できるだけ今居るこの場所を脳裏に焼き付ける事、そうしないともしかしたら死んじゃうかもしれないから、いいかい?」
はいはいとロイドの言葉は軽くあしらわれた。
「じゃあいくぞ!」
キエラとの一戦以来一度も使っていない幻術、たった数日使ってないだけでも感覚を忘れる事やマナを操作できないことがある、幻術は使用者のマナを調整して発動する。その事により粘土の様に相手に対して魅せ方を変えることが出来る。幻術を発動するときにマナの量が多ければ現実とは乖離した別の場所を創り上げ、魅せることが出来る。逆に弱ければ現実に同化させて魅せることが出来る。全ては使用者のマナ次第、それが僕の教わった幻術というものだ。
ロイドは左手に装着していたグローブを手前に引っ張り左手を地面に手をつき詠唱を始めた。
「幻視の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【リューゲツーク】」
「なんだこれ、え?!」
「さっきまで草原に居たのに列車の中に居るよ!」
ギャアギャア幼子の様に騒ぎ立てる二人を他所にロイドは精神を研ぎ澄ましていた。
まだできる、キエラが言ってたのは本当だろう、だけど少しの希望があるなら。
ロイドはキエラとの戦いで術を消されたあの状況の時のマナを思い出し、それ以上のマナを加え、増強させていった。
「ねえロイド、列車のスピード上がってない?って前に見える橋中央で真っ二つになってんじゃん!」
ロイドは列車内だけでなく列車外にも幻術で乖離性を持たせていた。
「ヤバいって彼奴止めるぞジャック、ジャック?!」
ロイドの幻術で魅せられたジャックは真っ二つになった橋を見るなり恐怖に振るえた挙句に失神してカニの様に泡を口から吹いていた。
「使えない奴だな、ロイド止めろ!―――ツッ!聞いちゃいねえ此奴、なら実力行使だお前が悪いんだからな!」
クイーンの猛烈なキックがロイドのみぞにクリティカルヒットしロイドは倒れこんでゴロゴロと転がった。
辺りは元の草原に戻っており術は解けていた。
「あんたなんのつもりだ!あんなのもしあのままいってたら!」
「ゲホゲホッ!待ってくれ先に言ったろ」
「何を?」
咳き込むロイドの胸倉を掴んで紙一枚の近距離まで近づいていたクイーンに弁明するロイド
「これはあくまでも幻術だ、身体的外傷を受ける可能性は零だ。つまりあのまま行っても何も起こらないさ、痛みもなければ傷もない」
「精神面はどうなんだよ」
ギクッ
「えぇ~、そこはね?ガッツで」
「テメエ!」
幻術の最大の特徴である精神的な傷について聞かれたロイドはそこまで考えてなかったと笑いながらそう言うがクイーンは許してはくれないらしい。
「待て待てクイーン」
さっきまで泡を吹いていたジャックがクイーンの後ろ襟を掴み母猫の様に上に持ち上げてロイドと距離を取らせた。
「なにするんだよジャック、彼奴殴んねえと気が済まねえんだよ」
シャアシャアとこちらも猫の様に牙むき出しでロイドに近寄ろうとするが
「もとはと言えば俺らが悪いんだ。俺らがロイドに見せてくれなんて言ったからこうなったんだ。どちらも悪かった。そうじゃないのかクイーン?」
「でもよお、―――あぁ分かったよ!この事は無しにしてやる、今回だけだからな!」
ジャックの言葉に宥められたクイーンは頭を掻きながらそう言った。
「茶番は済んだかお前ら」
今まで会話にすらまともに入ってこなかったキングが三人の元に欠伸をしながらそう言って近づいてきた。
「茶番だとおぉ!」
無駄に絡みに行くクイーンをジャックが抑えてどうしたんだいとキングに聞いた。
「俺らは此奴を育てろとアリス様に仰せつかってる、なのにジャックといいクイーンといいなんだこの体たらくは」
「寝ていた奴が其れを言うか?」
クイーンの意見に頷くジャックとロイドを尻目に話は続いていく。
「こいつはアリス様が言うには最後の切り札だそうだ。それなのに自分のマナも制御できず一歩間違えたらポンコツ二人が死ぬところになるまである大事故を起こしやがる。そこでだ、これから一か月ずつ俺ら三人が此奴の指導員として一人前の奴にしようってわけだ」
「一か月間ロイドとマンツーマンでの指導か、確かに効率的だな、ポンコツは余計だが」
「だろ?じゃあ明日から三十日交替な、じゃんけんポイ!」
二人がキングの話を真面目に聞いているというのに突然じゃんけんを始めたキング。
「うし、お前ら出さなかったから負けな、俺最後に教えるっと、じゃあな」
勝手に決めて勢いよくどこかに消えてしまった。
「やられた、彼奴のペースに釣られちまった」
「え?」
「私もだぜ」
「え?え?」
「そんじゃ俺先やるよクイーンは俺の後でも良いだろ?」
「良いぞ」
「ちょ、ちょっと待ってキングのあれ許すの?ズルだよねえあれ!それに勝手に僕の指導方法決めてるし!」
「彼奴はああゆう奴だ。それにじゃんけんに対応できなかった俺らが弱かったってことだ」
「いやいや意味わかんないから!あぁどうなってんだよお前ら三人、一番の茶番はこれじゃねえか!」
ロイドはクイーンとジャック、逃げていくキングの背に指を指しながらそう言った。
「まあいいじゃないかロイド、明日から宜しくな」
肩にポンと手で叩いた後ジャックとクイーンは地下に通じる螺旋階段を階段を使わずに飛び降りていった。
「あぁもう滅茶苦茶だあ!」
一人残されたロイドはそう叫んだ後我に返り螺旋階段で病室のある地下二階まで下りて行った。
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