第四話「病室と円卓」
次の日
朝になり目が覚めたロイドは寝ぼけまなこの中、自室を出てふらつきながら洗面所を探した。
昼夜問わず暗いであろう廊下を歩きながら通りすがった人に洗面所の場所を聞いて向かい、顔を洗う。
「そう言えば俺この服で寝てたのか―――」
顔を水で洗いタオルで拭き眠気が覚めたロイドは鏡を見てボロボロになった憲兵服を着ている事に気づき少しの間頬けた後にアリスが来ることを思い出して自室に駆けて戻っていった。
「おはようロイド君、身体はもう大丈夫なのかい?」
「はいまあ、寝ていた分体力は落ちているかもだけどマナも戻ったようで動ける状態ではあるよ」
「そうかい、それじゃあこれに着替えて―――いやその前に風呂に入ってきたまえ、なんか匂うぞ」
げ、僕としたことが忘れてた。あの日から風呂に入ってなかったんだ。
「分かった、行って来る」
「ロイド君、これを持っていけ、ここのマップデバイスだ。俺は先に地下二階の病棟の206号室で待ってるから、風呂あがってパンでもかじってから来い」
投げ渡された小さなボールペンを手に取り、取り敢えず突起部を押し込んでみると目の前に大きなマップが出現し赤ピンと目的の場所の名前が書かれていた。
「ありがとう、すぐ行くよ」
アリスと別れてマップを見ながらロイドはシャワールームに向かって行った。
「ここか―――」
シャワールームと書かれた場所に着き、中に入る。男女別の札が掛かっており男子の方の扉を開き中に入る。脱衣所で服を脱ぎ、近くにあったゴミ箱にボロボロになった服を放り込み浴室に移動する。
「で、でか!」
外見から出は見当もつかないほど無駄にでかい浴室に驚きながらロイドは一番端を使った。
朝が早いからなのだろうかロイドの独占状態だった。非常に気まずい・・・
洗い終わり出ようと浴室の出口に移動すると頭上からタオルケットが降ってきた。
「ここって無駄にハイテクなんだな―――」
身体を拭き、脱衣所で服を着替え終わるとロイドは姿見で服装を見た。
薄い水色と白を基調とした動きやすい服装で憲兵の時のよりも着心地は断然良いものだった。
一度自室に戻り、机に並べられていた紅い短剣と刃無しの短剣、左手にグローブをはめて食堂に向かった。
「ここが食堂―――ここもデカ!」
食堂には多少の人が席に座り、話しながら食事をしていた。
そんななかロイドはご自由にどうぞと書かれた籠の中に入ってるパンを一つ取り、口に銜えた後にアリスに言われた場所に向かった。
このパン、冷めて少々硬いが中々にうまい!今度ちゃんと食べに来よう。
「ロイド君、こっちだ」
地下二階に移動し、病室を探しているとアリスが手を振りながら教えてくれた。
「お、なかなか似合ってるじゃないかその服、どうだい動きやすいだろ」
「そうだね、それでここに何があるんだ?」
「君の大事な人が眠っている場所だよ」
ロイドははっとし、リーリエの事だと気が付いた。このところ色々あり過ぎてリーリエの事を忘れてしまっていたが気が付くや否や病室の扉を開けて中に入った。
「リーリエ!」
ベッドに横たわり、点滴とペースメーカーに繋がれたリーリエを見てロイドは泣き出しそうになりながらリーリエに近づく。
「リーリエは大丈夫なのか」
ひざを折り、寝ているリーリエの手を握りながらアリスに聞く。
「自我の崩壊及び洗脳に骨折箇所六個に薬物により身体がボロボロになっていたが粗方は治ったと言っても良いだろ」
扉の淵に背を持たれるアリスがそう言いながら付け足しで
「実際の処だが昔の記憶が残っているかまでは保証できない、事情が事情だ。察してくれ」
「彼女を助けてくれただけでも有難すぎるくらいだ。本当にありがとう―――」
ロイドの頬を伝う涙がリーリエの手にぽたぽたと落ちてゆく、嬉しさに悔しさ、安堵に憎悪と色々な今までの感情が涙となって流れ出てゆく。
ペースメーカーは一定のリズムで音を鳴らし、ロイドの泣き声と共に室内に響き渡る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「行こう」
「もう良いのか?」
ロイドは涙を拭って立ち上がり、病室を後にする。
「彼女を助けてくれた。その条件として僕は力を貸す、そういう条件だろ」
「ロイド君は面白いね、うん」
ロイドの背中を思いっ切り叩いた後アリスはついて来るように促した。
「君には俺の作戦の要だ。まずは定例会議からだ。君には立ち会ってもらうよ」
歩きながらアリスは話した。
「定例会議?」
「そう定例会議、ここはヴィンディチェの本部で他の十一個の支部との現状確認と次の指示を俺が出す」
「全国にあるんだな、てっきり此処だけだと思ってたよ」
「君には資料を見せたろ?あの情報の出先は支部からだ。それぐらい考えつかないのかいロイド君は」
なんかすみません・・・
そんなこんなしていると大きな扉の前でアリスが立ち止まった。
「着いたぞ。≪神は動かず物語は動き出す≫」
アリスがそう言うとガチャッ!と中からロックが外れる音がし、扉がジリジリと動き出した。
「さあ気を引き締めろロイド君」
扉が開き終わるとアリストロイドは中に入っていく。
「なあなんでこの本部は馬鹿でかいんだ」
「さあね」
天井にシャンデリアがあり、横にはランタンと鎧のオブジェ、眼の前には大きな円卓と十二個の席が置かれていた。
「ロイドはそこで立って見てろ」
アリスは目の前の他の椅子と違い華美な椅子に座り、円卓に足をのっけた。長いドレスだったので見えない様になってると思うが行儀の悪い座り方だ。
「あらあらアリス、何時にもまして早いじゃない」
突如として左側の席に黒い影が現れアリスに話しかけてきた。
「そっちが遅いんだろブレーメン」
「そうだぞ、遅いぞ!」
「あたかも最初から居たみたいに振舞わないでくれるかしらハインリヒ」
次は右側の椅子に黒い影が、
「もういい、現状報告を左から言え」
アリスが呆れながらそう言った。そんな中いつのまにかアリスを除く十一個の席全てに黒い影が座っていた。
「リジャス支部長クノイスト、現在レベルCです」
何やら奇妙な言葉が聞こえたが今聞くのは止めておこう
「ウェルター支部長のクレープスっす、レベルはC」
「ゲレル――マレーン――C」
「クイーン支部長ブレーメン、レベルはCよ」
「パトラ支部長のエルゼです!レベルはCです!」
「ミュリア支部長のベルマン、レベルB」
「リゼラ支部長シルヴィー、レベルB」
「ラジ支部長マローン、レベルAです」
「ドンフィーノ支部長チャレンジャー、レベルB」
「志那菊支部長里美芳江です、レベルC」
「璃支部長の巨勢です。レベルはCという事で」
アリスを除いて11人全てが答え終わった。
「やはりラジか―――まあいい、予定はこのまま進行でそれぞれ半年後までにレベルEにする事、以上だ」
アリスの言葉を聞き終わると影はどんどん消えてゆき一人だけ残った。
「どうしたマローン」
残っていたのはどうやらマローンだったようだ。
「はいアリス様、勇者の動向がどうやら気にかかるというか、こちらの計画に気付かれてる節がありまして―――」
「そうか、彼奴らが動き出したのかもな。よしマローンは適任者を見つけ次第仕掛けろ、手段は問わない」
「分かりました」
アリスの言葉に頷き、マローンも消え、残るはロイドとアリスだけになった。
「なあアリス、さっきのレベル?ってのは何だ」
近寄って聞いてみるが
「君には知る必要がないものだ。さあ行くぞロイド君、時間は有限だ。命短し急げよロイドだよ」
なんて訳の分からないことを口にしてはぶらかされてしまった。
答えたくないのならそれで良い、僕の役目はアリスの力になるだけ。それ以上もそれ以下もないのだから余計な詮索は野暮なものだと思い、聞かないことにし、ロイドはアリスの後をついてその場を後にした。
700pVありがとうございます。
出来るだけ早い投稿を心掛けて頑張ります!