第三話「現状と協力」
海の中から引きずり上げられる魚の様に意識がどんどん戻って来る、最初に目に下のは石で作られた白い天井と、次下げられたランタンだった。
「お!起きたかロイド、いや~心配したよ、ざっと計算しても三日間寝込みっぱなしだったからさ、ポックリ逝ってるのかと思ったぞ」
声につられ左側に首を向けるとそこには小さな女の子が手をやれやれといった形にして少し暗い、扉の前で立っていた。
「誰ですか?」
僕の知っている人でないのは確かだった。それにあの格好をいつもしているのなら忘れるどころか脳裏にこべりついて離れないだろう、そんな格好をしていた。
「俺かい?なんて説明すればいいかな?―――アリスとでも名乗っておこうかな、俺を知ってる奴らからはそう呼ばれているんでね」
意識が遠のく中で聞こえてきた中性的な声に一人称を【俺】と言う少女?、いや、少女だろう。ルビーの様に紅い瞳、艶のある白銀色をした腰丈まで伸た髪に白く透き通った色の素肌にフリル付きの白と黒の入ったドレスを着た少女。
「アリス―――そうだリーリエは!痛ッ」
あの後リーリエがどうなったのか知らないロイドはベッドで寝ていた身体を無理やり起こそうとするが力を入れるだけでも身体にスタンガンを当てられたように痺れてきた。
「馬鹿!マナがカラカラな上に戦闘での疲労が蓄積してるんだ。無理に動こうとすればそうなるに決まってるだろ!君は大人しく安静にしていろ、リーリエについてはうちの医療班が手を尽くしてる最中だ」
アリスはロイドの身体を無理やりベッドに押し戻し、リーリエが今どんな状況にあるかを伝えた。
「医療班?君はいったい何なんだ?此処はどこなんだ?」
ロイドはアリスの言葉に従ってベッドに寝ていながらもふと思った疑問について何も考えずに聞いてみた。
「一気に質問をしないでくれるかな、俺は神様じゃないんだから」
「ごめん―――」
なにやってるんだ僕は、一遍に聞いたら困るに決まっているじゃないか。
「まあいいや、全部答えてあげるよ、質問はその後でね」
ロイドの傍に立っていたアリスは近くにあった机から椅子を拝借してベッドの横に置き、話を始めた。
「まず一つ目、俺はさっきも言ったようにアリスで、ヴィンディチェのリーダーだよ、二つ目に此処はそのヴィンディチェの地下拠点。そしてヴィンディチェにはそれぞれの部署が存在しており、特に三つに分けられる、戦闘特化のレヴェヨン、情報特化のリーニュ、治癒特化のゲリール。お前さんの連れていたリーリエは今、ゲリールの中でも優秀なチームの治療を受けているところだ、心身ともに杜撰な状態だからね、並みの術者や医師には治せないんだ。金額にしたら街一つ買えるだけの金額は払ってもらわないとね、説明終わり!質問どうぞ~」
手を差し出しどうぞと言うアリスにロイドは質問していく。
「僕にそんな金があると思うかい?それになんで君は僕たちを助けてくれたんだ?」
「君を助けたのは金が目的じゃないんだ。そうだな、言うなれば君の力を貸してほしいんだ」
「僕の力?キエラにボロボロに負けた僕に力なんてないよ」
そうだ。僕はあの一線で格の差を見せつけられた。努力で言えば勝っていただろうがそんなの実践では自信にしかならない、現実は酷なものだ。力を必要としてるものにはこずに悠々自適に過ごしては欲望に従順に生きていた奴に天と地ほどの差のある力を授ける、それがどうしようもなく救いのない現実だ。
「そうかな?俺にはお前さんにはとんでもない力があると思っていたんだがね」
そう言った後アリスは背中に手を回し、どこからか分厚い資料を出した。
「ロイド、少年期に愛しのリーリエをキエラによって取られ、それからというもの何かに取り憑かれたかの様に剣技や術を極め続ける毎日、入団テストでは唯一の合格者で半月もせずに魔族を倒してはその功績をキエラに買われて勇者側近にまで上り詰め、その上キエラとの対戦では自前の変な技で頬に傷をつけたとか。この経歴を見ただけでもお前さんに力があるのは明確だろうに」
「経歴なんて白紙と同然だ。そんなのは実戦で役立つものでもなけりゃ、足を掬われるだけの物でしかないんだよ」
「君性格曲がってるって言われるだろ、俺が直々に褒めてやってるのに酷い奴だなあ」
アリスは溜息交じりにそうはいた後に少し声のトーンを下げ、真剣にロイドに言った。
「ロイドはさあ、今の世に転生勇者は要ると思うか?」
急に話を切り替えられた上にテンションも変わったアリスの言葉に戸惑いながらも答えた。
「要らないんじゃないかな、少なくともこの国には転生勇者は要らないんだと思うよ、勇者自体が魔族と変わらない様な者だからな」
毛布に隠れたロイドの手には力が込められていた、あの惨状を見てもまだ勇者は要ると言う奴がいるのならそれは狂信者か同類でしかないからだ。
「俺はね、要らないと思ってるんだ。この国を含めた全ての国の勇者達をね」
「まってくれ、この国の勇者が可笑しいだけじゃないのか?なんで他の国の勇者も必要な言って決めるんだよ」
アリスは手にしていた資料の一部をロイドの視線に向けるようにして見せた。
「この資料を見てもそう言えるかな」
視線をアリスから資料に移し、内容を読んでいく。
【ダヴァナ王国、転生勇者 キエラ・モルゲン】
2100年転生
神器 クレイ所持
形態を自由自在に変化させて向かうものに適した形態で交戦可能。
自身にも複数の加護が付いており、その一つに魔術を無効化する加護が備わっている
キエラによる被害者数2万人(女性のみ)
表向きでは理想の勇者を演じ、裏で女性を使った医療実験や私的欲求の消化に用いている。
貧困な村やローゼンから離れた村を中心に憲兵を使いローゼンの地下にある実験室に閉じ込めていると推測される。
転生以前の事は不明であるが医療の知識を持っている為、医療関係の者と考えられる。
等々、キエラの情報が紙一枚にギッシリと書かれていた。
アリスはページを捲り、他の国の勇者についてもまとめられた資料を見せてくれたがどれも最悪な勇者達しかおらず、見ているだけで苛立ちを感じられるほどだった。
「どうだい?ざっと見こんな感じだが、これを見たうえで全ての国の勇者は必要だと思うかい?」
少し考えた後に口にした。
「その資料が本当の事ならば勇者なんてのは要らないと思う、―――だが僕はその勇者達について一つも知らないんだ。だから結果として僕は答えられないよ」
実際にそうだった。身に起きたキエラの事なら僕は言える、だけど他の国の事なんて産まれてこの方興味すら抱いてこなかったんだ。僕に答えるだけの判断材料が足りないのは明確だ。
「そうかい。まあいいや、君にはこの国の事だけ知ってもらえれば良いからね」
アリスはそう言いながら立ち上がり、椅子を机に戻して資料を後ろに戻しながら言った。
「それはどういう意味だ?」
「簡単な事さ、ロイド君にはこれから僕らヴィンディチェに所属してもらって勇者の殺害に協力してもらう。もちろん報酬はある、リーリエの治療と殺害後のリーリエとロイド、それと君の村の安全の保障さ、どうだい悪くないだろ?」
「もしも僕が嫌だと言ったら」
恐る恐るアリスに言うと、冷めた顔にランタンの影がアリスの目元を暗くさせ、恐怖を増幅させる中アリスは言う。
「即刻、リーリエさんの治療をストップさせてもらうし、君を殺すよ」
僕に選択権は存在しないようだ。その顔に嘘は無く、本当に治療を止めるだろう。
「分かった。承諾しよう、僕の力を貸すよ」
アリスの顔には満面の笑みが滲み出ており、扉に手を掛けながら言った。
「そう言ってくれると信じていたよ!明日君を迎えに来るからそれまでに身体を元の状態に戻しておいてくれよ、後は服と食事はこちらで用意させてもらうから心配しないでね、それじゃあまたね」
手を振りながらアリスは扉から出ていき、部屋には僕一人だけになってしまった。
アリス―――彼女はいったい何者なのだろうか、謎が深くなるばかりで頭の中がこんがらがってしまっている。
「考えたって仕方ない、今は何も考えずに寝よう」
ロイドはもう一度深い眠りについた。
ヴィンディチェという組織にキエラの殺害、短期間で大きく物事が進んで行く中でも、眠りに着く時だけは何も考えずに済んだ。
見て下さりありがとうございます。
次回もこのぐらい早く投稿できるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。
それと500PVありがとうございます。