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第二話「キエラと神器」

薄暗くランタンの光が無数に広がる部屋の中でロイドはその光景に恐怖と不快感にさいなまれた。

そこにあったのはロイドの身長優に超える程高く、そして広く積み上げられた女性で出来た死体の山だった。


「なんだよこれ、なんなんだよ!ウヴェッ!」


 ロイドはその光景に耐え切れずに吐いてしまった。

 なんなんだよ、どうしてこんなところに死体が、それにどうして女性だけ―――!。

 あの日の事を思い出した。リーリエが連れ去られる日の事を、


『勇者様のご命令でこの者達を連れてくるようにとのお達しだ』


 そして憲兵が出してきた紙に書き記されていたのは全て女性だった。


「キエラが?これを?」


 あぁ!もうめちゃくちゃだ意味が分からない!

 頭を掻きむしり現状を理解しきれないでいたロイドの頭によぎった嫌な可能性。

 ―――リーリエがこの山の中にいる可能性―――


「リーリエ!」


 無我夢中で死体の山に向かい、手探りで一人一人どかしていく。

 もしもここにいるのであればリーリエは死んでいる筈だがロイドはそんなことお構いなく唯ひたすらにリーリエの名を呼びながら探していく。

 腐敗臭が鼻から入ってきてその激臭で吐いてしまいそうになる、それでも探さないと、リーリエが。


「お願いだ神様、どうかリーリエを」


 神にすがりながらロイドは手を休めることなく探していると死体の山の奥にある赤い木の扉の向こうから声が聞こえてきた。


「き・え・・ら・さま・・・」


 途切れ途切れに聞こえてきたその声はどことなくリーリエの声に似ていた。


「リーリエ!」


 声のした赤い扉の前に着きドアノブにをねじるが鍵がかかっていて開かなかった。


「くそ、こんなの!」


 ロイドは爆発の詠唱を口にし扉を粉砕させた。

 爆発による粉塵の中、中に入るとそこには無数の檻が横にずらっと並んでいた。

 この地の構造はあまりよく分からないがここまでの敷地面積を有するものではないはずなのにそれはロイドの視力でもぼやける程、横に長かった。


「キ・エ・・ラ・さま」


 扉から入ってすぐの場所にその人はいた。

 

「り、リーリエなのか・・・」


 顔を見た時一瞬躊躇ったがその眼の色と声色は昔のリーリエの面影を残していた。

 だがそれ以外は全て違っていた。両腕には大量にできた青紫色の注射痕と針で縫ったような後までもあり、髪はストレスによるものなのか白くなっていて、昔の透き通った金色の髪は消え去ってしまっていた。


「リーリエ、俺だ、ロイドだ!分かるか?」


 檻に近寄りリーリエに自分が誰であるが言うがその返事は酷なものだった。


「ロ・・イ・ド?、キエラ様は、どこ、どこなの!!」


「リーリエ!」


 リーリエはロイドを檻越しから手を伸ばし、ロイドの首を容赦なく締めていく、リーリエの顔は溢れ出る唾液と血走った眼で尋常ではないことがロイドにも分かった。


「キエラ様をどこにやった!、クスリを、クスリを私に!」


「やめろ、やめてくれ、お願いだ」


 意識が遠のきそうになる中、ロイドはリーリエの右手を掴んでいた左手のグローブに魔力を籠め。


「ショートカットスペル【スリピーホーネット】」


 即効性の強い睡眠術をリーリエに唱えた。

 すぐにリーリエに術の効果がかかり眠ってしまった。


「すまない、今はこれしか僕にできることは無いんだ」


 ロイドは握っていたリーリエの右手を檻の中に入れ、リーリエを無理のない態勢にしてから、檻の扉を詠唱で破壊し、リーリエをおんぶして出ようとした時だった。


「遅いと思ったらこんな所に居たのかロイド少年」


 扉の正面に立ち、こちらに不敵な笑みを浮かべながら言ってきたのはキエラだった。


「おいキエラ、これはどういうことだ!」


 叫びながらキエラに問いかける、その言葉に尊敬や敬意等は存在せず、ただ憎悪だけが言葉に染みついていた。


「さっきまでとは打って変わってその言葉遣いにその眼、もしかして私を恨んでいるのかい?やめときな少年、どうせ私には勝てないんだ。さあその子を離したまえ。貴重な人体実験のモルモットなんだ」


「リーリエはモルモットなんかじゃない!、質問に答えろキエラ!これはどういうことなんだ!」


 やれやれといった顔でキエラはこの現状について話し始めた。


「急かす人は嫌われるぞ少年。まぁいい、ここは私の研究と享楽の場所だよ、勇者として転生してからというもの私は首都外の小さな村から女性達を集め、この地下の檻に入れて私利私欲の為に色々としたさ。新しく作った薬を注射したり、拷問をしたり、とにかく色々としたさ。あぁ、心配しなくてもいいぞロイド少年、その子も私がしっかりと嬲ってあげたからね!」


 狂気に満ちたその顔と言葉にロイドの精神を制御していた最後の一本の弦がプツリと脳内で音をたてて切れた。

 俯いた顔のままロイドはおぶったリーリエを檻から出して、支柱に体を預けさせるようにして置いてから右手に先程武器庫で選んだ赤い短剣を手にしてキエラに言う。


「キエラ―――死ね」


 ロイドはキエラとの距離を勢いよく詰めて短剣をクビ一線に斬りつけようとするがキエラの後ろ手に持っていたハンマーが短剣の刃を防ぐようにして突如現れた。

 ハンマーの形態は変化しており、コピー用紙の様に薄かったが強度は合金並みに硬いままだった。


「危ないじゃないか、死んだらどうするんだよ!」


 薄くなったキエラの武器は又も形を変え、ロイド目掛けて棘の様形を変えた刃が勢いよく伸びた。


「なんだその武器、ハンマーじゃねえのかよ!」


 自分の推察した武器と全然違う事に驚きながらも棘を避けながら一旦距離を置いた。


「ハンマー?そんなちんけな物の訳が無いだろ、これは転生時に神から貰った神器だよ、名をクレイって言うんだとよ」


 神器、聞いたことはあるが見たことは一度もなかった。キエラの持つそれが神器なら僕に勝ち目なんか無いんじゃないか、いやでも、これなら!


「幻視の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【ヴァーミリオンヒート】」


 キエラに見せた事のない試験の際一度だけ使った魔術、これなら!


「消えろ」


 パチンッ!とキエラは左手の指を鳴らすと一瞬にしてロイドの唱えた術は跡形もなく消え去った。

 あまりにも一瞬な事で茫然と立ち尽くすロイドにキエラが言った。


「言っとくが俺に幻術やら魔術やらは効かないよ、これも神から貰った補正でね、この意味分かるよな」


 キエラの言葉に嘘は無い、さっきのを見れば誰だって分かるさ。なら何をすれば勝てる、神様はなんであんな奴に力を与えた、なんであんな奴を転生させた!。

 憎み、恨みながらもロイドは最後の賭けに出た。


「幻実複製の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【レプリカロンド】」


「だから無駄だと―――!」


 キエラは呆れながらロイドの術を消そうと指をはじき鳴らすが術は消えず、次の瞬間ロイドの「射出」の合図と共にキエラ目掛けて赤い短剣が迫ってきた。


「チッ!どうなってんだよその術は!」


 唱えた術から放たれた赤い短剣の一本がキエラの頬を掠めたが他の短剣は神器クレイの形態変化で全身を覆うような盾に変わり、当たることは無かった。


「ダメだったか・・・」


 力尽きたロイドは倒れこみ動けなくなってしまった。


「少年、今のはどういうことだ!」


 術が消えなかった事に驚きを隠しきれないキエラはロイドに聞いた。


「分からない―――だけど結果的にお前を傷つけることは出来た」


 実際に自分でも分からないんだ。ただこれでならキエラに効くと思った。ただそれだけの安っぽい賭けに僕は賭けて勝ったが同時に負けた。


「何なんだお前!もういい死ね」


 キエラはクレイの形態を剣に変化し、倒れているロイドに近づいていく。

 ロイドはそんななか、隣に目をやるとリーリエが眠っていた。

(たった一度でもリーリエを幸せにすることが出来ただろうか、僕が死んだあとリーリエはどうなるのだろうか、まだ生きて君のそばに居たかったな)

 最後の力を振り絞りリーリエの手を掴み、死ぬ時を待っていると

≪生きたいならポッケに突っ込んだ刃無しの剣にでも魔力を籠めやがれ!≫

 脳内に聞こえてきたその言葉にロイドは刃無しの剣を思い出し魔力を雨粒一滴最後の願いを込めた。


「ロイド!!」 

 キエラの振りかざした剣は空を斬り、地面のコンクリートに刃が突き刺さっており、ロイドとリーリエの姿が消えていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「危なかったねぇ、一時はどうなる事か冷や冷やしたよ、あれを紛れ込ましておいて正解だったよ」


 中性的な声がロイドの耳に聞こえてくるがガス欠気味のロイドは姿を見ることもできず、そのまま意識を失ってしまった。


「え?もしかして俺がこの二人担いで持って行かないといけないの?、もっと早くロイドに刃無しの短剣の指示するんだった―――。仕方ねえやるか!って転移できたんだった俺」

遅くなってすみません

それと300PVありがとうございます

次話は今回よりも早く投稿しますのでよろしくお願いします。

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