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第二十一話「クイーンとドール」

「ロイの部屋に上着を取りに行ったときに床に手帳が落ちてたのよ」


「それで見たのか……」


 ロイドはクイーンの言葉を繋げる形で聞くと


「そうよ、そこで拾って少し見たのよ」


「チッ、人の私物を勝手に見るとか……」


 不機嫌気味にロイドは舌打ちをしてクイーンに言った。

 ロイドの表情は今までクイーン達に見せてきた表情とは明らかに違っていた。鋭く、それでいて不機嫌さを隠すことを一切しようとしなかった。


「なによその顔、ロイが落とすのが悪いんでしょ!それよりも最後の頁に書かれたあれを作ってるのかって聞いてるの!」


 ロイドの態度に少しキレ気味になったクイーンはロイドの言葉などお構いなしに本題に切り込んできた。


「何で答えなきゃいけないんだよ!お前らだって僕に隠し事してるじゃねえか!僕を問い詰める前にそれを答えたらどうなんだ!」


 強めにロイドがそう言い放つとクイーンは口を閉ざした。

 

「やっぱ言えないんじゃねえか!よくそれで聞き出そうとしたな、クソッ、気分悪い」


 ロイドの怒声は食堂中に響き渡り、食堂に居た全員が声を上げたロイドを注視する。


「それじゃあ先、帰るから……何だよ……」


 全員が見ている状況にロイドは耐え切れずその場を後にしようとするがクイーンが袖を掴んできた。


「私からは何も言えない、けど……けどもしもアレを作ったのならお願いだから使わないで、ロイの大切な人の為にも……」


「何だよ急に……」


 ロイドはクイーンに掴まれていた手を振りほどき食堂を後にする。


                 ❃


 ロイドは食堂から出ると自室に向かうのではなくその足はリーリエの居る病室に向かっていた。


「……」


 病室に着き、中に入って椅子に腰かけてリーリエを見つめて呟く。


「なあ、僕、如何したら良いのか……」


 ロイドの言葉に反応するわけもなくリーリエは目を瞑ったまま動かない。

 

 あの日から何もかもが上手くいかなくなった。結局は今回も上手くいかないまま終わるのかもしれない。

 リーリエを見つめていると昔から何も変わらない弱気な自分になってしまう、だけど、


「リーリエ、ごめんね……必ず僕は君が過ごしていくこの国を変えてみせるよ」


 眠ったままのリーリエにそう告げロイドは手を一度握った後、一度自室に戻り机に手帳から千切った紙を置きペンを取り出し書き連ねた後に病室に戻りペースメーカーの置かれた机の端に置いて出ていった。


(ここにはもう来ない、もし来てしまったら決意が揺らいでしまうから……)


 ロイドは目を赤くし、泣きそうになりながらも歩みを止めず自室に戻っていく、自室に着くとロイドはベッドに寝て枕で顔を覆いながら静かに泣いた。


 クイーンのあの言葉が胸に黒い靄を作っている、彼女の為……

 僕が今できる彼女の為とクイーンの言う彼女の為は反対のものかもしれない、だけどこれしか方法は無いんだ。

 全ての可能性を自分なりに導き出して出た答えがこれしかなかったんだ。僕は物語の主人公なんかじゃない、ただの平民上がりの兵士でしかない、そんな僕が出来る事は唯一つしかないんだ。


    ―――――リーリエが起きた時に笑って暮らせる世界にする―――――


 ロイドは数時間泣き続けた後、何事もなかったかのようにベットから立ち上がった。

 目の下には泣き腫れた目のまま自室から出て月明りだけが差し込む草原に居た。


「キエラとの闘いは術無しの肉弾戦、ならあの機械を使って練習するしかない」


 そう呟きながら機械を探し、セットすると初めてその機械のメニューを見た。


「あれ、これってこんなに色々なことが出来たのか……」


 てっきり結界を出現させるだけかと思ってた。

 浮き上がるようにして出て来たメニューを左手でスクロールしていく、筋トレや基礎トレーニング等もあり少しイラっときた。


(最初っからこれでやれよ)


 スクロールしていくうちにある項目が目に入る。

              《架空対人戦》

(架空?)


 ロイドは頭にはてなを浮かべながらその項目を押し、青いボタンを押した。

 以前と同じく白一色の結界が出現していく、そして以前とは違う事が起きた。前方に肌色のデッサンドールらしき物体が出現した。


「なんだあれ?」


 拍子抜けと言った表情でロイドが頬けているとギギギと関節を木が擦れながら関節が動く音がしていく。


「おい、待て待て待て待て!」


 次の瞬間、凄まじい速さでロイドの背中に回り込んだドールは右足でロイドの脇腹を蹴り、壁まで飛ばしていった。


「あはは、痛ッ!」


 さっきの一撃で背骨の数本持っていかれたかもしれない、そう思いながらロイドは負けじと術を発動させようと唱え始める、


「強化の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【ボディーリペア】」


 だが術が発動した気配がない。


「もしかして……術禁止のやつなのか……」


 段々と顔から血の気が引いていきロイドは無理やり体を起こして機械のもとへ向かって強制終了させようとするがドールはその行動を見逃さなかった。

 ドールは走るロイドの頭を後ろから鷲掴み、凄まじい力で機械と真逆の方向の壁に飛ばした。


「強すぎるだろ……」


 二度目の衝撃で先程折れた骨が粉々になり身体中を内側から蝕んでいく。


「グハッ!」


 ドールが何もせずとも死ぬだろうが無慈悲にもロイドに近づき今度は正面から頭を掴み上に放り投げた。


「マジか……」


 ロイドは頂点に達し落下していくが動ける体ではない為ただ落下するのみだった。

 そんなロイドに後ろに下げた足を思いっ切り振り上げて腹部に蹴りを放った。

 その力は人が出せるものを遥かに超える強さでロイドの口から臓物が飛び出すギリギリのところだった。


                 ❃


「はっ!」


 気絶したロイドが勢いよく立ち上がるとそこは白い壁のない普通の草原だった。


「どういうことだ?」


 ロイドは頭を掻きむしりながら対角線にある機械に歩いて向かいメニューを見てみるとそこには《プレイヤー戦闘不能により強制終了》と書かれていた。

 なんて良心的なんだ。痛みだけは伝わり戦闘不能までボコボコにしてトラウマを植え込んでから強制終了とは、良心的すぎて壊したくなる……と思いながらロイドはそれでも機械の青いボタンを押してもう一度架空対人戦を起動させた。


(もしもこれに勝てばキエラに勝てるかもしれない)


 力は断然ドールの方が上である、そしてロイドが術を使えないというキエラとの闘いと同じ条件である事でロイドの闘心に火を点けたのだ。


「来いよドール、お前を倒してやる」


 腰に携えた赤い短剣を取り出し構えるロイド。

 ギギギとまたも関節が鳴りながら動き出したドールは次の瞬間前回と同じ背後に回っていた。


「またかよ!」


 分かっていた。分かっていたけれど体がついていかない。

 ロイドは何とかして前回同様の状況は避けようとドールの方に身体を向かせて左脇腹を腕で防ぐようにしていたが


「なんでだよ!」


 ドールは先程とは違い、左足を振り上げてロイドの頭上に足をもっていくとそのまま奈落落としをきめた。

 顔面から地面に叩きつけられたロイドが脳震盪になっている状態でドールはお構いなしにロイドの手に握られていた短剣を盗ると上にまたがり、首の横に短剣をもっていくとスパンッ!と横に振り払い頭と他の二つに身体を切り離した。


                  ❃


「はっ!」


 ロイドは衝動に駆られながら前回同様機械の元に向かいボタンを押す一歩手前まで来たのだが


「いや待て、焦るな」


 たった二回の対戦でも分かったがドールとの差は歴然だった。また突っ込んでも同じようになるだけなんじゃないか?と思ったロイドはまず基礎や筋肉トレーニングする事に決めた。

 だがまずシャワーに入る事にした。あの二戦でロイドは十二時間使っていたらしい、頭上を見ると月ではなく太陽が上空にある……

 シャワーに入り終わったロイドは自室で仮眠した後に夜になってから上に行き機械のメニューから【トレーニングルーム筋力】を押し、結界が出現していく。

 白い結界の中にダンベルやハードベンチ等家に置いてありそうなものからどこぞの施設に完備されてる物等も出現した。


「さて、やりますか」


                ❃


 ロイドは一通り流しで三時間ほど筋トレをした後に機械のボタンを押し、終了させてメニューから【トレーニングルーム基礎体力】を出現させた。身体が筋肉痛で悲鳴を上げそうな中、ロイドは出現した一つのルームランナーで走った。


(何気に充実した環境だよな……)


 なんて思いながら一時間トレーニングをして終了させ、ロイドはシャワーをし、飯を食い終わると眠りに着いた。

 約半月間はこのサイクルを続けていた。

 攻め入るのは後一か月後と言われてから半月間ロイドは体力と筋力の向上の為に時間を費やしてきた。半月で成果が出るとはさすがに自分でも思っていないが淡い期待をしていたりした。


「今度こそ彼奴に勝ってやる!」


 トレーニングから一日休みを挟んでコンディションを整えて気合いを入れた後、ロイドは機械のメニューから《架空対人戦》を選択して押し、起動させた。


「よっしゃこうや木の棒!」


 意気揚々とそう言葉を吐くと前回とは違く左手に赤い短剣、右手に銀色の短剣を持っていた。


(どうせ術が使えないんなら手袋したって意味がない、だからトレーニングの合間を縫って倉庫から良い短剣探していたりもした。どれだけ硬いか分からないが使えるものであると期待しておこう)


 不安しかない銀色の剣を握りしめたロイドの前にドールが出現していく。

 前回同様ギギギと音を鳴らしながら動き出し次の瞬間ドールは後ろに回っていた。


「きた!」


 ロイドはすぐさまその行動に対応してドールの振り上げていた右足を左手の短剣で真っ二つに切り離した。


「何度も同じ事してんなよ、こっちだって成長してるんだ」


 ドールにそう言うと後ろに下がり距離をとった後、


「来いよ、反撃はこっからだ!」

 

3900pvありがとうございます。

投稿の間隔が空き気味な私の作品を見て下さりありがとうございます。

一週間に二本、(出来れば三本)出すことを目安にして頑張っていきたいです。

それではまた。

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