第十九話「リーリエと終了」
「ここにするか」
ローゼンから帰って来たロイド達は休憩も含めて食堂に来ていた。
「さてと、これからだけどロイドは予定とかあるのか?」
食堂の空いていた席に座り落ち着いたところでクイーンが尋ねてきた。
「これからって、僕はクイーンとキングの特訓を受けるだけだけど?」
「それとは別に、他に用事は無いの?」
クイーンは特訓以外の用事を聞きたいようだが
「残念ながら僕はこのヴィンディチェに友達は居ないもんでね、いつだってカレンダーは真っ白だよ」
「寂しい人ね……」
「同情するな!余計に悲しくなる……」
「俺はロイドの友達だぜ!」
満面の笑みで言って来るジャックだがそれに対し、少し不服そうにロイドは「ありがとう……」と返した。
「それはいいとしてロイ、唐突だけど私がロイに対しての特訓は今日で終わりよ」
本当に唐突なものだった。クイーンから言われた言葉に目を丸くしながら
「ちょ、ちょっと待って、今日で終わり?!なんでさ、まだ教えてもらいたい事はたくさんあるのに」
小銃を撃てるようになっただけの今じゃまだ物足りないと感じたロイドがそう言うとクイーンは溜息交じりに
「貴方の仕事は何?キエラと戦う事でし、そしてキエラは術封じを持っている、そんな相手に私やジャックの教えた事が使えるとでも?基礎体力を運動で上げるジャックのは多少役に立つとは思うけどマナを使う術に関してはゴミ同然よ」
「なら何で僕に特訓を……」
「そんなの決まっているじゃない。キエラと戦う前の金等級との戦いに負けないようにする為よ」
「あくまで僕を生き延びさせるために教えてくれたのか……」
クイーンの言葉に現実を見せつけられる、あくまでもロイドが相手するのはキエラだという事を。
「ジャックやクイーンの方がキエラと互角に戦えるんじゃ……」
見てきた限り僕以上にこの二人は強い、特にジャックは術を用いなくとも互角に渡り合える気がする。
「無理よ」
ロイドの言葉をすぐさまクイーンは否定した。
「私達はキエラには勝てない、それ以前にキエラに手を出せない」
クイーンの言葉はどこか不可解だった。
「手を出せないってどういうこと何だ」
「言った通り、私達ヴィンディチェはキエラに戦いを挑む権利すら与えられていないのよ、それ以上は話せないわ」
「話せないってまたアリスか」
「さあ?どうかしらね」
何度目だ。いつだって言及しようとするとアリスの名前が出てくる、アリスは一体何者なんだ……
「それじゃあ私はこれで、アリス様に連絡しないといけないから、ロイ、頑張りなさいよね」
そう言った後、クイーンは席から立ち上がり食堂を出ていった。
「何を頑張ればいいんだよ」
そう呟いていると先程まで黙っていたジャックが口を開いた。
「ロイド、強くなる必要はない、ただ一つの事に貪欲になれれば良いんだ。お前はそういう人間だ。戦っててそれが分かった。お前が化ける時はそういう時だ」
「一つの事に貪欲になる……」
ジャックにしては意外な言葉だった。
「らしくないぞジャック、でも……うん貪欲になってみるよ」
「そうか、なら俺ももう行くな、身体ちゃんと動かしとけよ、寝すぎて身体硬くなったなんて言ったら怒るからな」
「あぁ分かってる、自分なりにトレーニングはしておくよ」
ジャックが食堂を出ようとする際に一度こちらを向き何か言う事を思い出した様で大声で言ってきた。
「キングは大体自室に籠ってるから期間に入ったらこの階の一番左にある部屋に行くといいぞ、そこがキングの部屋だ。それじゃあな!」
「ありがとう!」
ジャックに礼を述べた後、ロイドも食堂で食事を済ませた後自室に戻った。
「さてと―――」
ロイドは自室に着くと椅子りポケットからボロボロになった手帳を出した。
ページをパラパラと捲りながら流し目で見ていく。
手帳には術式の数々やキエラについての事が書かれておりどの頁を見ても余白がほとんどない状態になるまで書かれていた。
そして手帳の最後の頁には術でもキエラに関する事でもないものが書かれていた。
「――――――」
その頁を数分睨みつけた後ロイドは手帳を仕舞い、椅子から立ち上がりフラフラと歩きながら後ろにあるベッドに倒れこんだ。
「アレしかないのかな……」
*
クイーンの特訓が無くなり、久しぶりに爆睡したロイドの身体は以前よりも少しだけ本調子に戻っていた。
「外にでも出るか」
起きてからというもの、ロイドは居ても立っても居られず外に出て自分なりにトレーニングをしていた。通りすがったジャックにも手伝ってもらいながらある程度身体を動かした後に食堂で食事をとり、次にシャワーを浴びた。
最後にロイドは地下二階にあるリーリエの居る病室に入った。
ベッドの横に置いてある椅子に座りリーリエの少し暖かい左手を握った。
「お邪魔するよ、やあリーリエ、今日は話に来たんだ」
未だ目を覚ますことなく植物状態になっているリーリエにロイドはこれまでの事をひたすら話していた。伝わっているか分からないけれどそれでも話し続けていた。
「それでね、リーリエ――――」
何時間話しただろうか、リーリエに会えない時間が長かったのもあり色々を喋ってしまっていたが返ってくるのはペースメーカーの一定の音だけだった。
「それじゃあもう行くね、お休み」
握っていたリーリエの右手を離し病室を後にした。
「よおロイド、どうした?」
次にロイドはジャックの部屋に来ていた。
「これが欲しいんだけど手に入るかなって」
ロイドはそう言いながら一枚の紙をジャックに渡した。
「なになに……これなら手に入るぜ、今取りに行くか?」
「ああ頼む」
ジャックはロイドの欲しかった代物を調達し、ロイドの部屋まで運んでくれた。
「何度も何度も有難うなジャック」
「容易い事よ、それじゃあな」
そう言ってジャックが部屋を出ていくとロイドは扉が開かないように扉の下に斜めに削った角材をはめ込んだ。
「これで良し、やるか―――」
ロイドはジャックから貰った物を使って作業に取り掛かった。
キングとの特訓の期間に入るまでロイドは朝トレーニング、昼病室、夜作業をサイクルして続けていき。
ロイドはある物を完成させたと同時にクイーンの期間が終了したのだった。
3400pv有難うございます。
期間が開いてしまいましたが何とか投稿していくのでよろしくお願いします




