第十八話「首都と闘技場」
朝になり目を覚ますと最初に目にしたのはどこまでも蒼い空だった。
「へ?」
状況がいまいち把握できないでいたロイドはまず起き上がろうと手をついて起き上がるがその手に伝わる感触はいつものベッドの妙に硬い感触では無く、妙に湿っていてそれでいて少し手で下を握ってみるとボサボサしたものが当たり、引っこ抜いて確認してみると
「草?」
何かが可笑しい、それだけは寝起きのロイドでも分かった。
その後辺りを確認する為起き上がるとそこは約一か月半前までよく見ていた光景だった。
「え?えええええ?!ンンン!」
自分の居場所を確認したロイドは驚愕のあまり大声を出してしまったがすぐに誰かが後ろから口を塞いできた。
「馬鹿!大声を出すな!」
手で塞がれた口をすぐさま解き、後ろを振り向いて確認してみるとそこに居たのはクイーンとリュックを持ったジャックだった。
「おま、なんで、え?」
唐突に大量の情報を取り入れたロイドの脳はパンク寸前だった。
「話せば長くなる、それでも説明してほしいか?」
ジャックはどこか子供をあやす様に言ってきた。
「簡潔に頼む」
「あ、簡潔にね・・・説明しようロイドがここで寝ていたのは大きく分けて二つある、一つ、ロイドが朝になっても起きなかった。二つ、クイーンの突発的行動により首都ローゼンへ行くことになった。以上!」
「簡潔にと言ったが簡潔過ぎやしないか?」
ジャックの説明にそう言うとクイーンが割り込みながら
「あぁ!もういい!私が説明する、昨日アリス様から連絡が来て、首都ローゼンの警備レベルの調査を頼まれたから此処に居るの。それなのにロイときたら全然起きやしない、だからジャックを呼んで首都ローゼンまで担いでもらってたのよ」
「あぁ~そういう事ね、で?僕必要なの?それに首都では顔バレしてるよね?」
「要るわよ、ロイは元憲兵でしょ、それを活かしてこの首都の憲兵達の力量を教えてほしいのよ」
「いや、そんなの情報特化の部があるんだろ?そいつらに教えてもらえばいいじゃん」
「それはそうだけど・・・」
何故かもじもじとしてるクイーンの横に居たジャックが近づき耳打ちで
「それがだな、昔リーニュとひと悶着起こしやがったんだよ彼奴、それ以降俺らの部と関係は最悪、アリス様が不在の今、リーニュに情報を貰えたのはローゼンの地図だけときた」
「ちなみにそのひと悶着とは?」
「ボマリンを不細工と言ったリーニュの上層部がいて、それをクイーンがボマリンを部署内に大量に投げ込んだんだ」
「そんな事で!」
「何ベラベラ喋っとるんじゃ筋肉ダルマ!」
耳打ちしていたジャックにそう言うと脇腹に一発、強い蹴りを決め込んだ。
「痛い!何すんだよクイーン、俺はただ真実を話したまででってやめてごめんなさい!」
ロイドとの戦闘での強さはどこへいったのかジャックはクイーンの攻撃に涙目になりながら謝っていた。
「筋肉ダルマが!今度言ったらお前の眼球片方白くするぞ」
「はいっ!」
「えっと、もういいかな?」
さっきのやり取りで目が覚めたロイドはまず
「服はどうすればいいのかな?」
寝間着のままであったのでクイーンに聞くと
「あぁ~これ着なさい」
ジャックの担いでいたリュックからいつもの服と靴、それにローブも出して渡してきた。
「有難う、ってローブ?」
「顔がばれてるんだからローブを羽織るのは当たり前でしょ」
「あぁなるほど」
木の後ろに隠れて素早く着替え、寝間着をジャックのリュックに突っ込んだ。
ローブの色は灰色で地味ではあるが顔まで隠すと不信感丸出しだった。
「本当にこれで大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、そのローブ、特注でヴィンディチェ以外の者から見ると何処にでもいる普通のおっさんに見えるようになってるから」
「おっさんなんだ・・・」
凄いんだろうけど少し残念な気持ちだ。
「それじゃあ行きましょ、ここから近いのは~東門か、よし出発!」
遠足気分のクイーンを先頭にロイド達は東門から検問を抜け首都ローゼンへと入って行った。
まず出迎えてくるのは宿屋の数々、少し進むとローゼンに住む人達のエリアに着き、中心に進むにつれて憲兵の本部や宿舎、闘技場や武器屋などが多くなっていく。
「ここは中心のキエラと王が住む城から円状にエリアがあるんだ。」
「エリア?」
ロイドは路地裏にジャックとクイーンを呼び、ジャックの持っていた地図を広げさせて説明した。
「中心がエリアE、憲兵の金等級はほとんど此処に居る、側近も居るにはいるんだけどデスクワークばかりで腕がなまってるんじゃないかな」
「なんだそりゃ、デスクワークなんて下っ端にやらせればいい事を」
「安泰した暮らしが一生続くんだ。デスクワークぐらい軽いものだと思ってるんだよ」
「説明を続けて」
「分かった。次に中心の城から少し離れて地図にある赤い屋根の群れの場所がエリアD、憲兵本部に学校がある場所だ。ここには銀等級と銅等級が大量にいる、金等級三十人に対して銀銅合わせて二千人てところか、朝と昼は半分の千人、他千人は村に行ったり色々な用事で外に出ているんだ」
「ならここが一番目の難所か」
「そうなるかもしれないね、そう言えば戦闘の部隊って何人在籍してるんだ?」
「レヴェヨンの事か?えっとだね、三百ちょい」
「・・・それで作戦時は何人で攻め込むんだ?」
「できて百」
「・・・」
不安要素しかないといった顔のロイドを尻目に
「大丈夫だろ!アリス様も前線に立つって言うし、レヴェヨン自体腕利きのヤバい奴らが揃ってるから」
「そうか・・・」
クイーンの言葉に不安しかなくて汗がダラダラと出てくるが気を紛らわせるため説明を続けた。
「次にエリアC~Aはほとんど同じ様なものだからまとめると銀と銅が少し徘徊してるくらいだから簡単に抜けるよ、けど一つ問題がある」
「なんだ?」
二人が首を傾げロイドの指し示す場所に目をやると
「門だ、ここは縦五十メートルの壁が円状に出来ており、門は東西南北に一つずつしかない、緊急事態には分厚い石の門が閉まる、魔族が来ても閉めなかったから閉まる可能性は低いけど一応頭の中に入れとくといいかも」
「そうか、石の門ね~」
クイーンはポケットからペンを取り出してロイドの言ったことを殴り書きしていく。
「ローゼンについての大体の説明は終わりかな」
「了解、じゃあ次は金等級の奴らに会いに行くか」
「え?」
クイーンはペンを仕舞うとロイドにとんでもない事を言い始めた。
「どうせだ、金等級の実力ってのを見ておきたい、その実力を見てどれだけ強いかは大体判断できるだろ?」
「まあそうだけど」
「で?何処に居るんだ?」
ロイドは少し悩んだ後、諦めて
「闘技場に行けば会えるんじゃないか?たまに金等級が遊びがてら出てくる事があるんだ」
「ならそこへ行こう!行くぞジャック、ロイ」
すぐさま路地裏を出てクイーンはおおよその場所に向かって歩き始めた。
「なあやめないか?」
「なんでだ?面白そうじゃん」
子供の様なはしゃぎ声でクイーンは歩いていると目的の建造物が見えてきた。
「ここか!でかいな、ここで決闘をやるのか」
「ちょ、待ってよ!」
ずんずん中へ入っていくクイーンの後を追うようにロイドとジャックも闘技場の観戦席に入って行った。
「お!何かやってるじゃん!」
最前の手すりに掴まって食い入るように見る先には二人の巨漢の男が佇んでいた。
「ロイド、あのどちらかは金等級の奴か?」
ジャックとロイドも追い付きクイーンの後ろの空いてる席に座ってからジャックが聞いてきた。
「いや、どちらも違う、憲兵は外に出る時は側近以外必ず腕章を付けないといけないんだ」
遠くから見ても分かる、二人の巨漢はどちらも上半身裸で足に枷が付いている。
「あの人らは罪人だ。国内で重罪を犯した人達はこの闘技場の地下で監禁されていてここで見世物として勝負させてるんだ。十回連続で勝てばここから問答無用で出られる」
「おいおい、それって大丈夫なのかよ、もしその条件を満たしたら罪人が出てくるんだろ」
怯えた声のジャックに対して冷静なロイドは
「大丈夫さ、今までここを出られた奴はいない」
「それって・・・」
ロイドの冷静さに何か察したジャックだがその傍らで客席から大歓声が上がっていた
『すげ!!!!これで九連勝だぞ彼奴!』
『もしかしたらいけるかもな!!』
ロイドとジャックが中心の方に眼をやるとそこには一人、髪の長い巨漢の男だけが立っており、話す前に居たはずのもう一人が見当たらない。
「おいクイーン、どうなってんだこれ?」
ジャックはクイーンに尋ねてみると
「さっき開始の合図が鳴ったんだ。次の瞬間にはあそこに居る奴の手に心臓が握られてたんだ」
「は?何だよそれ意味わかんないぞ」
「私もさっぱりだ。彼奴の動きが速すぎてこっちとしても参ったもんだ」
クイーンはそう言いながらロイドの横の空いてる席にぐったりと座り込んだ。
「次が本番だ」
「本番って!」
ジャックは席から立ち上がり、その場で中心に目をやると今度は巨漢の男とは違って背は小さく、腰には鞘に入ったままの刀が携えられていた。
次に右腕を見てみるとそこには腕章があり金色の星が付いていた。
「彼奴が金等級の奴か?!」
「そうだと思うよ、服装も憲兵のだし間違いない、それに九連勝の奴の前に現れるのは決まって金等級の奴って決まってるんだ。だから未だに出てきた者はいない」
「はへ~、お?始まるぞ!」
両者が対面、一定の間を取り始まりの時を待った。
「おいわかぞう、そんなオモチャで俺に勝てるとでも?」
巨漢の男は憲兵に向かって挑発交じりにそう言うと
「はて?オモチャですか、その飾りの筋肉よりかは使えますがね」
両者ぴりついた雰囲気の中、戦闘の火ぶたが切られた。
「死ね小僧!」
先に動き出したのは巨漢の男、無駄な動き無く憲兵に近づくと捩じった右手を心臓に向けてすさまじい速さで繰り出すが
「はて?何をしようとしているのですか?」
憲兵は繰り出された右手をスパリと切り落としながら巨漢の男の背後に回り込んでいた。
「なぁ?!」
「面白くないですねぇ」
巨漢の男が言葉を発する前に憲兵は首を斬り落として決着をつけた。
「何だよありゃ!デカい男も凄かったけどあのちびっ子も凄いぞ!」
「うおおお!すげえ!!!」
ジャックがそう言いながらはしゃぐ横でクイーンもはしゃいでいた。
「予め強化の魔術でも付けておいたんだろ、罪人の足に付いてる枷には魔封じが付与されてるから」
「なんだつまんね!」
「そうだそうだ!」
踵を返してクイーンとジャックは席に戻った。
「実際彼の強さは桁違いじゃないかな、剣裁きから何から何まであの巨漢よりも上をいっていた。もし魔術が使えるとしても勝っていたんじゃないか?」
「そうなのか、――――よし帰るか」
クイーンは少し経ち気持ちが落ち着いてからそう言い闘技場の外に出た。
「情報としては十分な方だろ」
クイーンはそう言いながら門へ向かって行く。
「彼奴の名前とかって知ってるのか?」
「闘技場の?知ってるよ、たまに闘技場によるといつもいたから、彼奴の名前はガロン・エリウス、憲兵内では闘技場の番人って二つ名が流れてるくらいには有名だよ」
「番人ね」
ロイドとジャックはクイーンの後ろを続く様に喋りながら歩いていた。
門を出て首都ローゼンを後にするとクイーンはロイドが目を覚ました場所に向かって歩いていた。
「おいクイーン、帰るんじゃないのか?」
「そうよ帰るの、だから転移紋のある場所に行くんじゃない」
「それって・・・」
ロイドの思っていた事はどうやら当たっていたらしい。
「ざっとこんなもんね」
ロイドの寝そべっていた痕が少し残る草の生えた場所で小さな紋様を中心に距離をとり白い粉を袋から出して六芒星と円を描くように撒いて行った。
「中に入って」
クイーンに言われるがままロイドとジャックは円の中に入ると
「狂ったお茶会へ」
言葉と共に目の前が歪み次に目を開けた時にはいつもの特訓で使っている草原に着いていた。
「いつも思うんだが転移する時のそれってなんか意味でもあるのか?」
何もなかったかのようにクイーンとジャックは階段に向かう中、まだ転移に慣れていないロイドは頭をくらくらさせながらもふとした疑問を聞いてみた。
「知らないわ、アリス様が決めたものだもの」
「そうなのか・・・」
その回答は謎を深めるばかりだが不在の人に聞けるわけもなくロイドも後に続いて階段を下りて地下へと向かった。
「あ、ロイさあこれリーニュに渡してきてくれない?」
「嫌だよ、何で僕が」
クイーンが渡してきた地図を払いのけて拒否した後、
「この際だからリーニュ?の人達と仲直りしてきてください!」
「それ言われたらな~、しょうがない行ってみるか」
クイーンは意を決してリーニュの部署に向かったのだがどうなったかは誰も知らない。
ただ一つ、ボマリンが爆発する音が地下内に響き渡っていたとか――――
3200pvありがとうございます。
何となく長く書きたくなったので約五千字程のものを書かせてもらいました。
以上!




