第十七話「温度と粉」
「こんちゃーす」
「何時だと思ってるんですか?」
「午後一時」
「遅くないですか?いつもならもっと早くに始めてるでしょ」
ロイドはいつも通り朝早くからクイーンを待っていたのだが一向に来ず一日の半分を待ちぼうけんい費やしてしまっていた。
「そんな責めるなよ~、それに早く来たなら起こしに来ればよかっただろ?」
「仮にも女性の部屋に入ることはしない主義でだな」
「仮ってなんだよ仮って、私はれっきとした女だぞ、まあいいやそれじゃあ時間もないから始めるよ」
「話をそらさないでって――――」
ロイドの言葉を無視して結界を出現させてボマリンを出した。
「ほら行った行った。時間がないんだテキパキ行くぞ」
「はいはい分かりましたよ!」
定位置に就き開始の音が鳴らされた。
「頑張ってちょ、ロイ」
「ほんと自由気ままだよなここの人たちは!」
すぐさま小銃を構えるも先程まで視界に映っていたボマリンは姿を消していた。
「だよな~、なら。。幻視の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【ヴァイスラウホ】【射出】」
数メートル離れた位置に指で銃の形をとり地面に魔術を撃ちこんだ。
地面から白煙がその場を包み込むと同時に二か所から光が見えたのを確認し
「記幻の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【ゲデヒトニススタグネーション】【ダダダダダダダダダダ】」
二か所を連続して撃ち流していき二つのボマリンを爆発させた。
「って煙邪魔だな!」
二つ落としたは良いものの自身が出した魔術が仇となり視界に映る全てが塗られる前の画用紙の様な白一色だった。
「いったん距離を」
その場から走り出しまだ煙が届いていないであろうクイーンの居る方面に向かって走り始めたが背中にゴンッとぶつかる音がした。
「何で僕の場所が分かるんだよ?!」
爆発に巻き込まれたロイドは爆風と共にクイーンの近くに飛ばされた。
「ありゃグッロ」
クイーンは後ろに置いてあった機械ですぐさま結界を解除してロイドの元へ戻った。
「一つ言い忘れてたんだけどボマリンは温度で対象を感知してるから煙があっても近づいては来るよ」
「それを先に言え・・・」
「今思い出してねぇ~ゴメンゴメン」
ヘラヘラとしながらロイドに謝ったクイーン。
「さあ次行くよ次!」
「少しは休ませてくれ」
「ダメでーす!」
顔から倒れこんだままのロイドの手を引っ張りながら定位置に移動しようとするが
「痛いわ!僕が顔面から倒れこんでるの分かるよねえ!まるで鑢に掛けられる木材の気分だわ!」
あまりの乱暴さに跳ね起きてグチグチ言うと
「起きたね、ならまだ大丈夫、はよ行きな」
ロイドに向かって手で払いのける仕草をした後結果を出現させボマリンを出した。
「それじゃあ行くよ~」
間髪を入れづにスタートの合図を出した。
「まだ思考が追い付いてないってのにッ!」
ロイドはすぐさまこの状況の打開策を思案し始める。
(体温で感知するなら体温自体を無くせば・・・馬鹿か!死ねって事じゃねえか、他に何か―――)
数十秒その場で銃も構えず思案した後、ジャックの鬼ごっこの時と同じ様に最悪の案が脳裏によぎった。
「おいクイーン!こいつらを小銃で撃ちぬけばいいのか、それとも小銃を用いてこいつらを爆発ればいいのか?」
「何を急に、・・・いや待てよ、オッケーだ。ボマリンを爆発させればいい事にしよう」
何か悟ったかのようにしてクイーンはロイドの言葉に答えた。
「そうか、なら・・・できる!」
対処法を見つけたロイドは詠唱を即座に始めた。
「強化の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【アクセレラシオン】」
強化した後すぐさまクイーンの元へ走り寄りクイーンを背にもう一つの術を唱え始めた。
「粉塵の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【フラウアダストクラウド】」
脳内で今までに見てきた穀粉のうち小麦粉を思い浮かべながら唱えた後。
【射出】
白煙同様地面に向けて撃ち込むと忽ち空中に小麦粉の粒子が爆発するように飛び散り周囲は白く濁った状態になっていた。
「おま、まさか!」
実際にやるとは思っていなかったクイーンがロイドの肩を引っ張って止めようとするがロイドは小銃を粉塵に向けて撃ち放った。
【ダダダダ】
粉塵の中、火花を飛び散らせながら銃弾は粉塵の中に消え
「伏せて!【術式開放】」
予め用意していたストックの魔術を発動させると同時に銃弾の火花が飛び散り粉塵爆発が起こった。
ロイドはクイーンを抱き込む様にして無理やり伏せさせストックしていた氷内に間一髪で入り込むことが出来た。
ジャックを閉じ込めた氷箱がこんな場面で役立つとはと思いながらも粉塵爆発の威力は予想以上で氷箱の外側からビキビキと亀裂が入る音が聞こえてきた。
「頼む耐えてくれ!」
亀裂は大きくなり内部で確認できるほどの亀裂がロイドの視界に映った。
「ヤバい!」
「ちょっ何を!!」
クイーンを覆うように抱き込むと耐え切れずに粉砕した氷箱の破片がロイドの身体の至る所に刺さっていき、氷箱が無くなってから数十秒後に爆発はおさまった。
「ボマリン爆破かん…りょ―――」
「ちょっと退きなさいよ!」
ロイドは疲労によりクイーンに覆う形のまま気絶してしまった。
「ふう~~なんなのよ此奴、でたらめも良いところじゃない。あの手帳に記された事を本当にやりかねないわね」
ロイドから自力で離れたクイーンはそう呟くと結界を解除して後ろポケットに入っていた紙に術を唱え
「もしもしジャック?私、クイーンよ、ロイが気絶したから部屋まで背負って送って行ってあげて、―――はあ?筋トレ中だ?!おい筋肉ダルマそんな事で私の言う事を聞けないなら明日の晩御飯の肉団子にしてやるわよ?―――素直にそう言えばいいの、それじゃ後よろしく~」
電話の役割を持った紙を破り捨てた後、クイーンは一人階段から地下に降りていきロイドの事など目もくれずに去って行った。
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「ここは」
最初に目にした白い天井でここが地上ではなく地下である事が分かり横を向いてみると
「よおロイド、やっと起きたか」
「ジャック」
ジャックは手に持っていたおしぼりを絞ってロイドの額に乗せると
「それじゃあ俺は一時間後に又来るから」
「ジャックが運んでくれたのか?」
ロイドは天井を向きながらジャックに尋ねると。
「クイーンに言われて泣く泣くだけどな」
「ありがとう」
「例を言うならクイーンに言っとけ」
そう言った後ジャックは部屋の扉を閉めて去ってしまった。
「クイーンか・・・」
あの時のとっさの行動を振り返ってみるロイドだったがあまりの恥ずかしさに布団を顔まで隠して藻掻きながら眠りに着いた。
3000pvありがとうございます。
区切りが良い数字だと何故か気が引き締まりますね。
他に言う事もないのでそれでは次回もよろしくお願いします。




