第十一話「強化と氷」
アラームの音がけたたましく室内に鳴り響き目が覚めた。
手を伸ばし頭上にある棚に置かれたアラームの停止ボタンを押して鳴り響く音を消した後、布団を退かして立ち上がりいつも通りに過ごしていった。
「なんだこれ?」
シャワーを終えて自室に戻ってみると一枚の紙が机に置かれていた。
装備を整えて地上に上がってこい。
ただこの一文だけが書かれており送り主の名前すら書いていなかったが何となく誰だか予想がつく。
「ジャックか、装備って戦闘時のだよな、いつも持ち歩いてるけどこうして念を押してるって事はまたあれなのか?」
脳裏に浮かぶ特訓初日の苦い思い出。頭を数回振り考えないようにしてロイドは装備を整えて食堂にて朝食を食べてからジャックの元へ向かった。
「よおジャック」
ロイドは螺旋階段を上り切った先にジャックが居るのを見て声を掛ける。
「来たか」
振り向いてロイドを見たジャックの姿は今まで以上に猛々しいものだった。
「何だよそれ?それに顔にも何か着けてるし」
髭を生やしたおっさんの仮面を被り、手にはパンチンググローブを装着していた。
「あぁこれか、今日の特訓の為の物だ」
そう言うとジャックは後ろに置いていた機械のスイッチを押し、何度も見てきた白箱の様な結界を発動させた。
「え?これってまたあのキモイ爆弾と逃げるのか?」
顔面蒼白にしながらロイドが尋ねると
「いや、今回は違うぞ、相手はこの俺だ」
「は?!」
唐突過ぎるその言葉に目をひん剥いてジャックに驚きの声を漏らしていた。
「まあ薄々そうだとは思ってたけど此処じゃ術は使えないんだろ?だったら―――」
「使えるぞ、ほれ」
手に火の球を簡易術式で出すのを見て自分が騙されている事に気が付いた。
(そういやボマリンを結界内で動かしたの彼奴だよな、クソッ!よくよく考えてみたら術使えるんじゃねえか)
なんて事を考えながらジャックの口車に乗せられていたのだと気づき少し苛立ちを覚えていたが過ぎた事だと自信を宥めた後にジャックに聞く。
「それで?お前と戦うってのはどういうことだ?」
「そのまんまさ、一対一の真剣勝負。殺す気でかかってこい、どうせこの結界を解けば身体は元に戻るからな」
「そうか・・・」
実際自分でも経験している事なので大丈夫なのは知っているがジャックに今まで一度として勝っていないのも含めてロイドには不安要素しかなかった。
「なあハンデとかは―――」
「ない」
ロイドが話すや否やジャックは被せる様に断言した。
「ですよねえ~」
「そんな事を言ってないで始めるぞ」
冷や汗を掻き始めているロイドに打って変わってジャックは仮面越しでも分かるほどに愉悦に浸っているのが分かる。
手袋を奥に引っ張った後に懐から赤い短剣を取り出す。
「それじゃあこれが始めの合図だ」
一定の距離を取った後ジャックは下に置かれた缶を足で突っついてロイドに見せる。
「ガンマンかよ」
ロイドがボソリとそう突っ込んだと思いきや思い切り上に缶を足で蹴り飛ばした。視界にギリギリ捉えられるぐらいの高さまで到達すると共に急速に缶は地面に向かって下降してくる。
気を張り詰めている処にカランッと缶が地面を跳ねる音がした。
(来る!)
缶から目を離してジャックの方を向くと途轍もない速さで距離を縮めてきた。
「強化の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【アクセレラシオン】」
「強化の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【ヴィランノヴァ】」
ジャックとロイドの双方が同時に強化の術を唱えた。
ジャックは筋力、ロイドは走力を術により強化した。
「泣くんじゃねえぞ!」
ジャックの拳から放たれるストレートパンチがロイドに向かって急速に近づいてくる、間一髪のところでロイドは横に避けており拳は壁に当たっていた。
「ヴぇ?」
ロイドがジャックの拳の先を見てみると壁に微かではあるが傷が出来ておりその威力の恐ろしさを知り変な声が出てしまっていた。
「さすがに痛いな」
手をブルんと振った後向き直って避けたロイドに向かってくる。
「ヤバい!幻視の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【ウィレコナル】」
ジャックは術を聞くや否や仮面の下でニヤリと笑いながら同じくパンチを繰り出すが結果は同じ、そこには誰も居なかったのだが。
「その術、前も使ったよな、同じ相手に二度も同じ術を使うとどうなるか教えてやるよッ!」
繰り出したパンチの威力をそのまま右にもっていき回転しながら後ろにアッパーを繰り出した。
「なッ!」
そこには先程まで前方に居たロイドが短剣を握りしめており、ジャックのアッパーは短剣が己に突き刺さるよりも早く相手に当たった。
ボキッ!あばら骨が折れる音が体内から聞こえてくると共にロイドは上空に打ち上げられていった。
「まじかよ彼奴、容赦なさすぎだろ!」
上昇していく身体は壁より少し下の処で下降を始めた。
(一か八か試すか!)
「氷雪の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【フリーレンカステン】」
ロイドはそう言いながら短剣を突き出してジャックに向ける。
「ではこちらも、強化の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【フリーゲンシュラ―ゲン】」
術を言いながらジャックは低い体勢でロイドが来るのを待ち構えた。
そして両者の武器が届く距離に入るとジャックが先に仕掛けた。
飛び上がりながらジャックはロイドに向かってアッパーをもう一度繰り出す。
だが今度は先程と違い何十ものパンチをがロイドを襲う、無数に迫りくる拳に怯みもせずにロイドは剣を振り下ろしてグローブに当てた。
急速にジャックの周りに分厚い氷が出現し、ジャックの事を閉じ込めた。
「やった!って」
喜ぶのも束の間、ロイドは地面に落下し身体を打ち付け、折れた骨に振動が奔り痛みが増す。身もだえながらロイドは転がって痛みを堪える、呼吸すらしずらくなっておりジャックをどうこうするまで頭が回っていなかった。
ゴトンッ!と氷箱の内側から音がしてロイドは気が付き、這いながら近づきすぐさま予め微かに作っていた穴に術を放つ。
「術式、―――解放」
乱れる呼吸の中ロイドは声を振り絞ってそう言うと穴から中に向かって炎が雪崩れ込んでいき、急速に温められた氷箱は温度に耐え切れず、爆発した。
視線を上に向けてみるとジャックが仁王立ちしてその場から動かないでいた。
「やったか?」
そう思い、立ち上がって千鳥足で近づいて見てみると仮面からは笑い声がこぼれていた。
「なんで?!」
後ろに急いで下がろうとするが身体は悲鳴を上げて動かなくなっていた。
「なんでかって?そんなの俺に筋肉に聞いてほしいね」
ジャックはそう言いながらロイドを両腕で体を押さえてジャーマンスープレックスを掛けようとするがロイドを浮かしたところで固まってしまった。
「や、やめー!え?ジャック、おーい・・・気絶してるよ―――」
ジャックに掴まれたままのロイドが首を捻って見てみると仮面に開いていた目の穴を見ると白目を剥いていた。
「ちょ、放してくれませんかねえ、おいゴリラ放しやがれッ!」
ジャックの脛をけるが動かず、ロイドは諦めながらジャックが気が付くのを待とうとしたがいつ起きるか分からない現状に不安を抱き術で腕の一本を吹きとばした後に脱出してすぐさま停止ボタンを押した。
「これで終わりっと、やっぱこの感じ慣れないよなあ~って起きろよッ!」
「痛でええええええ!」
治っていく身体を不思議そうに見た後、ジャックに近づき球に蹴りを入れて起こした。
「これは効くのな、訳わからん奴だな」
ロイドは身悶えるジャックを眺めながらそう思っていた。
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