第十話「最善策と終了」
次の日からも同じメニューを繰り返すだけで何も変わらず、ロイドは悉くボマリンにぶつかって未だ対応しきれず半月が過ぎ去ってしまった。
「何回目だよこれ!」
「今日で特訓開始から二十六日目だから今回含めて二十六回だな」
ロイドはボマリンに追いかけられながら壁に座るジャックに話しかけていた。
「お前も成長しない奴だなあ、二十五回もやってまだこんな毬にやられてるようじゃキエラには勝てんぞ~」
力なくそんな言葉をロイドに吐き捨てるジャックの視界はロイドの身体の動きの細部まで捉えていた。
「そんな事言われたって対応も何も魔術は使えんは服は投げるだ。日に日にお前が無理難題な注文を増やしていくのが悪いんだろうよッ!」
壁にぶつかりながら急速に横に走り抜けるロイドに三個のボマリンの内、先頭に居たボマリンが対応しきれず壁にぶつかりながら爆破した。
「お、やるじゃん」
ロイドが爆発地点から遠くに逃げ延びており、爆発による影響を一切受けていなかったのを見ていたジャックは小さくそう呟いた。
「後二体」
息を整えながら走る速度は落とさずボマリンと一定の距離を保っていた。
逃げながら次の方法を思案するロイドだったがいい案が浮かばずにまたも同じ方法で切り抜けようとする。
「もういっちょッ!」
壁に差し掛かりロイドは身を横にずらし先程よりも速くその場から立ち去り、先頭のボマリンは同じ様に爆発した。
「単調、それに二回も同じ事を・・・この結界内を使って立ちまわっているが縦横どちらも長いこの結界内で二回やるなんて自殺行為だぞ、どうする?」
ジャックはロイドの身体が悲鳴を上げる寸前であることを察してここからの立ち回りをどうするのか注視して視ていた。
(クソッ!足がうまく動かない、無駄にでかい結界内で走り過ぎたか、でもこれしか方法が思いつかないんだよ!どうする、また壁まで・・・無理だ。出来たとしても爆発に巻き込まれる、出来る事は無いのか本当に・・・)
じりじりと近づく体力の限界を感じながらロイドは最善策を脳内で模索していく。
(タイルの地面、壁は頑丈で爆発後の痕さえ残さないほどに頑丈だ。こんな気が滅入る白箱の中で何が出来る、何を策とする、考えろ、考えろ!)
足がもつれ始めて速さを維持できなくなってきた中、ロイドは一つの道筋を閃いた。今まで一度だってした事は無い、けれど経験してきた事。最善策にして最悪な策。
「どの道体力の限界だ。やるしかないんだ僕、気張っていけ!」
ロイドは身を翻しボマリンのいる方に視界がいくよう背中から地面に倒れこんだ。
「何だ・・・あのバカ!死ぬ気か!ここまでやって来てリタイアかよ!」
ジャックの言葉などお構えなくロイドはボマリンに注視したまま息を整えていた。
「やめだ止め!お前がそこまで馬鹿だとは思わ―――」
「続けろ!逃げ切って見せる!」
ジャックが地面に降り、ボマリンを止めようとする姿を肩越しに見てロイドは怒鳴る様に言った。
ジャックはロイドの言葉に「勝手にしろっ!」と言って壁に寄りかかり結末を見ることにした。
その間にも距離を詰めていたボマリンはロイドに向かって減速することなく向かって行く。
ロイドとの距離十メートルの処でロイドは
「ここだ!」
下降しながら向かってくるボマリンを見てロイドは身体を当たらないよう左手と左足で思いっ切り右にずらしてタイルの地面にボマリンをぶつけた。
「痛ッてええ!」
ロイドの左腕が爆発に全てもっていかれた。ボマリンにかすりさえしなかったが被害は甚大なものであった。
「なあジャック・・・これで僕は逃げ切ったって事にしていいんだよなあ」
不敵に笑うロイドは痛みなどお構いなしに右手を地面に着きながら立ち上がりジャックに向かって行く。ボタボタと無くなった左腕の断面から大量に血が出ていながらも気にせず近づいてくるロイドに恐怖すら覚えながらもジャックは結界を解除して言い放った。
「あ、あぁ、お前の勝ちだ」
左腕が戻っていきロイドはさっきまでの狂気さとは裏返しに
「はあ、疲れたぁ!」
と言い草原に寝っ転がって空を見上げていた。
「なあロイド、なんで最後あんな事をしたんだ。もっと策はあっただろ、それに片腕を無くしたままその後も戦えるとでも思ってるのか?」
そう言ってジャックはロイドに尋ねてみた。
身体を起こしてロイドはその問いに答え始めた。
「なんでだろうな、さっきの特訓の回数を積んでいくうちに痛み自体感じにくくなったのもあるけれどジャックの掲示したルールの中で立ちまわるには僕の力じゃ限界があるんだよ、もとが幻術と短剣で立ちまわってた身だからそこまで過度な運動はしないし、まあ偏に言えば僕はこの策以外に最善策は一つもないんだ。それとこの後の立ち回りについてだけど幻術使って自分を騙したり、キエラとなら最後の技にでも賭けるつもりだよ」
「最後の技って、お前それ通じなかったんだろ!だから今こうやってアリスに拾われてるんだろ、負に賭けたって意味はないんだぞ!」
ジャックはロイドが何故此処に居るのか予めアリスに聞いておりロイドの最後の技と言うものが大体何なのか分かっている筈なのだが
「ジャック、お前が思ってる技は違うよ、あれはあれで今まで最後の技として使っていたけど新しいのが思いついたんだ。勿論秘密だけど」
ロイドの言葉に戸惑いつつもジャックは一旦冷静になって懐中時計をポケットから出して時間を見た。
「今日の練習メニューはこれで終わりだ。早く帰って寝ろ」
懐中時計をポケットにしまい身を翻して帰って行く姿を見てロイドはジャックに尋ねた。
「これで終わりなのか?!まだ昼も回っていないだろうに、何で急に」
歩きながらジャックは
「明日からは違うメニューだ。お前が逃げ切った、いや、躱しきったのは事実だからな、次のメニューに移行するんだよ。残り日数も少ないし追い込みだ。分かったら帰って今日は寝てろ」
いつも通り螺旋階段を使わずに飛び降りて地下に行くジャックにポカーンとした顔で見送った後ロイドも螺旋階段を使って降りていく。
「いつも思うけど彼奴は人間なのだろうか、もしかしたらゴリラ、違うなここから飛び降りたら死ぬし・・・蟻か!キモッ!ゴリゴリのマッチョ蟻とかキモ過ぎって何考えてんだ僕」
食堂に行き飯を食った後シャワーをしてロイドはベッドに入り時計に目をやる。
「まだ十二時じゃねえか」
などと言いながら睡魔がロイドを襲い、ここ数十日間の疲れを取る為にも身を預けて就寝した。
1900PV有難うございます。
二話で決着がつくとは・・・
まあ先は案外長いものです。
これからもよろしくお願いします。




