第九話「基礎体力と鬼ごっこ」
朝になり目が覚めたロイドはいつも通りの流れをこなしてジャックの待つ地上に向かった。
「遅いぞロイド、もう九時だぞ」
早く来ていたジャックがポケットから懐中時計を出してロイドに言った。
「無茶言うなよ、こっちは地下の生活に慣れてないんだ。朝日が差し込まない地下で寝るなんて時間感覚が狂っても文句はないだろ?」
「慣れろ、それかタイマー時計でも使え」
「そんなのがあるのか?」
「寝具室に置いてあるぞ」
まじかよ―――
「オッケー、これからは注意するよ」
「そうしてくれると助かる、よっと!」
ジャックは話しながら螺旋階段の入り口の裏手に回って百糎程の大きな機械をロイドの前に持ってきた。
「なんだいこれ?」
「トレーニングに使う装置」
ジャックはそう言うと機械の後ろに付いている小さな青いボタンを押した。
「なんだ急に地面が・・・」
揺れ始めた地面はいつの間にか草原から白いタイルに変わっており四方も白い壁で覆われてしまった。
「簡易結界だよ、アリス様がマナで編んだお手製さ、強度はまあ、ダイヤモンドくらいだろ」
「アリスが?これを?あの子はいったい何者なんだ?」
ジャックから聞かされたことに対して疑問が多数浮かんでいたロイドであったが
「悪いな、俺はアリス様の事は喋らない様にしてるんだ。お前が嫌いだからって事じゃない、一応仕えてる身の俺がベラベラと主人の事を喋ったらその時点で主人との関係は切れちまう、それだけはさけたいんでね、クイーンかキングに聞いてくれ」
変なところで律儀なジャックに見直したロイドはそれ以上言及するのはやめて違う事を聞くことにした。
「そうか、それじゃあ僕はこれから何やるんだ?」
「鬼ごっこさ」
「は?」
どうやらジャックを見直すのはもっと先の方が良いらしい
「なんで鬼ごっこ?それに僕とジャックしかいないんだぞ、面白くもなければトレーニングにもならないぞ」
苦笑いをしながらロイドがそう言うとジャックは
「俺は参加しないぞ、お前が逃げで鬼はこいつらだ!」
パチンとジャックが指を鳴らすと突然黒い球体にてっぺんに白い紐とそこに火が付いているそれはまるで
「爆弾?」
「ご名答、これはボマリンと言って対象の敵を認識させるとそいつを約五十分間追尾し接触した瞬間爆発する面白い召喚物だよ」
「威力は?」
「腕が飛ぶくらい」
「―――俺はこいつから五十分間逃げろと?」
「こいつだけじゃない後二つ追加で三匹から逃げるんだ」
爆弾の正面には顔があり悍ましいほど気持ち悪い顔をしていた。
「きっも、なあなんでこんな事やらなきゃいけないんだ」
「前の戦闘で気付いたんだがお前基礎体力少し低いだろ、幻術や強化とかで補うのは良いけどな基礎体力がしっかりしてないとお前ここぞって時にガス欠になるぞ」
ジャックの言葉は的を射ておりキエラとの戦闘や魔族との戦闘の時にマナ切れでガス欠になっていたのを思い出した。
「マナが空になれば残るは少しの体力だ。だがお前にはその少しの体力を残すだけの力がない、だからこの鬼ごっこで基礎体力を上げようってわけ」
「けど急すぎないか、それに普通に運動してればいずれ基礎体力もあがるだろ?」
「馬鹿か、キエラとの対決は三か月後、ちんたらそんなことしてたら一年は必要だ。勝ちたくないならそれで良い、だが俺らは何としても勝たなきゃいけない、つまりお前の選択肢は爆弾にやられるか逃げ切るしかないんだよ」
ジャックの熱弁に返す言葉もなくロイドは首をコクリと縦に振り準備運動をした後に逃げる姿勢を構えた。
「この結界の範囲は縦三キロ横五キロだ。壁をうまく使ったりしてボマリンを当てて爆発させるのもありだ。ただ一つ注意としてこの結界内では魔術は使えないから気をつけろよ」
「マジかよ!」
「ゲームスタート!」
最後の言葉でロイドの顔は蒼白したがそんなのお構いなしに鬼ごっこの開始の合図がジャックから聞こえた。
「それじゃあ俺はこれで」
ジャックの方を向くとそこに姿は無くいつの間にか結界の壁の上に座っていた。
「化け物かよって!」
ロイドはジャックにばかり気を取られておりボマリンの事を見忘れていた。
一匹にボマリンがロイドに突っ込んで来るのをすぐに視認し着ていた上着をボマリンに被せる様に放り投げると同時に爆発した。
「イツッ!」
爆風でロイドは後ろに飛ばされ白いタイルに体が打ち付けられた。その威力はジャックの言った通り四肢の一つが吹っ飛んでも可笑しくないほどの威力があった。
「逃げないと!」
身体をすぐに起こして迫りくる二つのボマリンから逃げ始めた。ボマリンの速さはロイドの今の走りと同等で少しでも力を緩めば追い付かれるものだった。
「クソっ!こんなんもつわけねえ!」
走りながら考えるロイド。
(壁にぶつけて爆破させるか?ダメだ僕にそんな芸当出来るわけない、ならもう一度衣服を投げるか?馬鹿か!ポロシャツとズボンだぞ、どちらを脱ぐにせよ速度が落ちて追い付かれる、なら一か八か壁ギリギリっで待ってみるか?あぁ!もういい!これでいこう!)
ごちゃごちゃになった脳内に渇を入れてロイドは壁まで全力で走った。
「おっしゃこい!」
ボマリンとの距離は五百、壁を目の前にしてロイドは止まりボマリンが近づいてくるのを視た。
「ここだ!」
ボマリンがロイドと当たる僅か数センチの処をロイドは身を捩りながら躱して爆発させた。
「やばっ!」
先程よりも近距離で爆発したことで交わしたロイドは爆風と共にもう一つのボマリンの近くにまで飛ばされてしまった。
転がりながらロイドは態勢を持ち直して走り始めた。ボマリンとの距離は先程よりも近づいたが一つだけという事もあり気持ちに余裕が出来ていた。
「さっきと同じ様に壁で同じようにやればってあれ?」
走っていると右足がガクリと変に抜けていた。
ガス欠だ。ロイドは二つの爆弾を躱すのと逃げる事だけで体力を極端に使ってしまい足が思っている様に動かなくなっていた。
(やばい、これじゃ)
落ちていくロイドの走力とは違いボマリンは着々とロイドとの距離を詰めていた。
百メートル、十メートル。
そしてロイドの背中にポンと何かが当たる感触がした。
(死ぬ!)
ロイドは爆発に巻き込まれて内臓器官が更け出る程に重傷を負った。
(痛い熱い痛い熱い)
頭の中でそれだけが永遠に流れていた。
「うっわグロ!」
ジャックは近寄りロイドの惨状を見て感想を言った後、機械の方へ行き青いボタンを押した。
「え?」
ロイドの身体は見る見るうちに元に戻っていった。
「どういう事だよジャック!」
自身に起きた出来事に頭が追い付かないロイドはジャックに聞くと
「簡単な事さ、さっきのは自身のコピーで今が本体」
「はい?」
ジャックの言ってることの意味が分からなかったので聞きなおすと
「つまりコピー機みたいなものだよ、まず自信をコピーします。そして結界内にコピーした自分が出ます。思考だけが本体からコピーに移動しただけ、つまりこの機械は言うならばコピー機だ。」
「そうなのか・・・」
ロイドがそういうとジャックは次に基礎体力の為のメニューを渡してきた。
「鬼ごっこで自分の体力の無さを自覚しただろ、後は基礎体力を上げるこのメニューをこなせ、終わったら帰っていいからなそんじゃ」
ジャックはそう言って帰えって行き。メニュー表には馬鹿みたいに大量の文字と数字が所せましに書かれておりやる気が失せそうになる。
だが自身の力のなさを痛感したロイドは自身に渇を入れてジャックの提示したメニューを全てこなし、その日は終わった
1700pv有難うございます。
中々時間が取れずに投稿できていませんが出来上がり次第投稿していくのでよろしくお願いします




