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第八話「筋肉と術」

「ちょっ!いきなりかよ!」


 ポケットに入れていたグローブを着けてジャックの攻撃に対応しようとした時、


「隙が開いてるぜロイド!」


 グローブを着けた一瞬の隙の内にジャックはロイドの足を振り払い、草原に転げたロイドのみぞに向かって明確な一打を振り下ろした。この間使った時間は三秒ほどであっけなくロイドは失神してしまった。


「あらら、遅すぎるぞロイド、それでも憲兵か?」


 ロイドが目を覚ますとジャックが見下ろした状態でそう言ってきた。


「唐突な事だったんで対応できなかっただけだ」


「そうか、だけど誰もがお前を待ってくれると思うなよ、詠唱中もそのグローブをつける時も気を張りつめとけ」


 ジャックのその姿は昨日と雰囲気から全てが違っていた。例えるなら兎がゴリゴリのゴリラに変わったくらい違う。


「じゃあもう一戦だ」


 ロイドを立たせて距離をとった。


「なあこれに何の意味があるんだ?」


「意味なんてない、ただの小手調べだよ、お前がどのぐらいの強さでどれだけ俺と戦えるかを今日はとことん見せてもらう」


「そうか」


 ジャックがもう一度戦闘態勢に入ったのを見てロイドも気を引き締めて迎え撃つ準備をした。


「いくぞロイド」


 先程と同じ距離を詰めるジャックにロイドは術で対応しようと唱え始める。


「反幻の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【レフレクシオン】」


 詠唱が終わると共にジャックから腹部に強烈なアッパーをくらったロイドだが倒れたのはジャックの方だった。


「な、なんで・・・」


 ピクピクと動くジャックは不思議そうにロイドに聞いた。


「ジャックが僕に向かって打って来たアッパーの痛みを反射さしただけだよ」


「そうか、それはどうも!」


 ジャックに近づいて説明していたロイドの足を引っ張り寝技にもっていき十字固めをロイドに掛けた。


「やばいやばい!痛くないけどこれはマジで首折れるって!痛みしかジャックにいってなくてダメージは僕に蓄積していくんだよ!ギブギブ!」


 ロイドは内容をジャックに喋り、技を解いてもらった。


「なんだそうなのか、あんなちっさい痛みに俺が怯むわけないんだよ、さっきのだって痛くはあったけど動けない訳ではないからな」


「あくまで幻術の延長線上なんだ。痛みを無くした様に自分に錯覚させてそれと同時にジャックに痛みが伴う様に錯覚させるんだよ」


「それさ、術が解けたらどうなるわけ?」


 ジャックの素朴な疑問にロイドは


「え?そりゃあ痛みは僕に帰って痛ッあああ!」


 術が解けた途端ロイドは痛みに藻掻き苦しみながら失神した。


「これで二回目だぞロイド」


「あ、あぁ」


 もう痛みとか色々なものでどうでもよくなりそうだった。自分が悪いんだけどここまで刃が経たないときたものだから・・・


「よし三戦目だ。次は俺も術を使うからそれなりの覚悟しとけよ」


「えぇ!そんなの失神確定じゃないかって居ないし・・・」


 ジャックは所定の位置に戻ってロイドと似たグローブを両手にはめた。


「次こそ勝つ、じゃないと失神しちまう!」


 より一層ロイドは気を引き締めて戦闘に臨んだ。

 ジャックが近づいてくるのを視認するとロイドは詠唱を始めた。


「幻視の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【ウィレコナル】」


 ジャックの方も走りながら詠唱を唱えていた。


「強化の魔術よ、マナの路を開き我に力を与えよ【ヴィランノヴァ】」


 着けていたグローブが棘を生やし、元あった筋肉が倍ほどになり、全身が膨れ上がった。


「マジかよゴリラじゃねえか!」


「覚悟!」


 ロイド目掛けて放たれたグローブ越しのパンチは空を斬り先視認できるギリギリの速さでロイドの顔面にぶち当たった。


「なに?!」


 ジャックはロイドの顔面をしっかりと捉えていたのだがそこには誰もおらずジャックのパンチの余波で出来た土の道が前方に広がっていた。


「間に合った!それと同時に!」


 背後を取ったロイドがすぐさま


「術式開放!」


 その言葉と共にジャックの身体に電流が奔った。その大きさはスタンガン以上落雷未満のもので普通の人なら死に至るか気を失うかするのだがジャックはピクリともしなかった。


「マジかよ・・・」


「見つけた!」


 ロイドを視認したジャックが片手のグローブを外してロイドの頭を鷲掴んだ。


「もしかして・・・」


「お休み!」


 グローブが着いたもう一方の手でロイドの顎にアッパーをかました。血は出ないもののロイドは宙を舞い草原に顔面からダイブした。


「起きたかロイド」


「「起きたかロイド」じゃねえわ!あんなん死ぬは絶対死ぬわ!何で生きてんだよ僕!何で気絶しないんだよジャック!」


 おどおどしながらロイドは話し始めた。


「そりゃあ俺、身体強化してたから筋肉が分厚くなって絶縁体みたいな役割を果たしてたんじゃないのか?」


「ねえわ!絶対ないわ!筋肉お化けかお前!」


「それにしても最後のあれなんだよ、始めて見たぜあんなの」


 自分の事なんてお構いなしにジャックは興味津々に最後の術について聞いてきた。


「あれは保管箱に詰め込んでおいた術だよ、脳内の端の方に箱を一つ作っておくんだ。その場所に先に詠唱しておいた術を詰め込んでおくんだ。そして緊急事態になったらさっきの通りにやれば術が発動するってわけ、まあ箱は一個しか作れないんだけどね」


「箱か?それって俺にでも作れるのか?」


「無理かな、幻術を微量だが掛けて脳内に箱がある事を認識していないといけないんだ。それと箱も幻術で作るんだ。だから幻術を使えないジャックには使えないんじゃないのかな」


「そうなのか」


 ロイドの言葉にジャックは落胆した。


「それで?もう一回やるか」


 ロイドは話が終わるとすぐに立って戦闘態勢に入ってシャドウボクシングまでしていたが


「時間を考えろ、今日はこれで終わり、明日からは俺が考えたメニューをこなしてもらうから当分戦闘は無しだ」


「え?そうなのか」


 やっと気乗りしていたというのにジャックはそう言って地下に戻っていった。

 空を見てみるとオレンジ色に色を染めてあと一時間で暗闇に包まれるであろうというぐらいの時間になっていた。

 僕どれだけの時間失神してたんだよ、たった三回ジャックと戦闘を交えただけでこれだけボコすかやられるとは思っていなかった。魔術が使えないキエラの戦闘と違って立ち回ることが出来るが筋肉に邪魔されて攻撃は通るのに痛みが伴わない怪異現象じみたことになっているじゃねえか。

 ロイドはそう思いながら階段を下りて食堂でご飯を食べ、シャワーして自室に戻って眠りに着いた。

 バキバキになった身体は横にすると骨がきしみながら音を鳴らして痛いが寝ないと明日からやっていけないので自分をごまかして眠りに着いた。

1400pvありがとうございます。

二日連続で投稿すると勝手に明言したので実行してみました。

二日連続だと中々時間がカツカツになるものですね。

それではまた。


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