断片的なプロローグ(改)
「ねえロイド、ロイドは将来何になりたいの?」
隣町でパンを買い、村に帰る途中、金色の髪を靡かせながらロイドに向かって問いかけてくる幼馴染のリーリエ。
「僕は何でもいいさ、この時間が何時までも続くのならそれだけで十分なんだ」
彼女にそう言うとクスクスと笑い
「ロイドはいつもその答えよね、もっと欲張ってもいいのよ、この世界は広いのだから少しくらい欲張っても神様には気付かれないわよ」
リーリエの言葉を聞いたロイドは迷い、恥じらいながらもほんの少しだけ自分に正直になって欲を口にした。
「なら一つだけ―――リーリエと一緒に居たいな」
頬を赤らめながら言ったロイドにリーリエも頬を赤めながらロイドの背中を叩き、小走りで前に出てロイドに振り返りながら
「私と居たいなんてロイドは欲張りさんね!、考えておくわ、さあ、早く帰りましょ。おじ様たちが待っているわ」
リーリエは真っ赤に染まった顔のロイドの手を引き、急いで村へと帰った。
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数か月が経ち、村に大勢の王兵がやってきた。
「勇者様のご命令でこの者達を連行するように遣わされた」
ガタイの良い男がハスキーな声でそう言いながら部下から縦長の紙を貰って開き、村の広場に居た全員に見せた。
「何かしらあれ?」
大人の声に釣られてリーリエとロイドはお手伝いの仕事を切り上げて広場に来ていた。
「勇者様からの招待状なのかな?、ねえロイド、前に行って見てみましょうよ」
ロイドとリーリエは大人の群衆の中に入り、王兵の持つ縦長の紙が見える位置まで移動した。
「えっと、これは―――」
そこに書かれていた名前は全て村に居る若い女性ばかりで男性の名前は一つも載っていなかった。
「ねえ王兵さん、何故男性の名前は載ってないのかしら?それに女性も十代から二十代前半の人達の名前しか載っていないわよ?」
リーリエの問いに無言で流す王兵に違和感を覚えたロイドは
「リーリエ離れよう、何かおかしいよこの人達」
リーリエの手を取り、この場から離れようと来た道を引き返そうとしたロイドだったが憲兵はリーリエの手を掴んでロイドとリーリエを見ながら。
「どこへ行くんだ?君の名はこの紙に載っているだろ、さあ荷台に乗るんだ!」
「リーリエ!」
王兵はリーリエから手を離し、次の瞬間ロイドの手を無理やりリーリエから離してから彼女を片手で酒樽を持つような格好で軽々と持ち上げると後ろで止まっている鉄柵付きの荷台がある馬車の中に放り投げた。
ゴトンッ!と荷台の床に鈍い音が鳴り、リーリエは苦痛に声を出しながらも起き上がり、扉の閉ざされた鉄柵に近づいた。
「ロイド――助けて――」
「リーリエを勇者の所に連れてどうするつもりだよ!王兵さん!――少しは喋れよデカブツ!」
リーリエの言葉を聞いてロイドはリーリエを荷台に入れた奴に対して怒りを覚え、ロイドは喋ろうともしない王兵の足に思いっ切り蹴りを加えた。
それに対し憲兵はロイドの頬を拳で殴った。
王兵は殴って倒れたロイドの服の襟を掴み耳打ちで誰にも聞かれない様に
「知りたければ王兵になれ、三年後試験がある、そこで合格し、実績を積んで勇者の側近の王兵になれ、そうすればお前にだってわかるさ俺が何でこんな事をしなきゃいけないのか」
と言うとロイドから手を離して馬車に向かった。
紙に書かれた女性全員が乗り込んだ事を確認し、他の王兵に撤収の命令を下した。
「ロイド!」
リーリエは鉄柵越しに倒れて呆然としていたロイドに呼び掛けた。
ロイドはその声で我に返った。
「ごめんね、一緒に居れなくて――ごめんねロイドの唯一の願さえも叶えられなくて」
馬車は男の出発の合図と共に勢いよく走り出した。
ロイドは最後の力を振り絞って立ち上がり、リーリエの居る荷台に駆け、柵越しに言った。
「絶対に迎えに行く!だから――その時まで待っててリーリエ!」
馬車は速度を上げ、ロイドの脚では追い付けない程に引き離されてしまった。
リーリエが連れていかれるのを唯々見ている事しかできなかったロイドは決意する。
ガタイの良い王兵が言っていた三年後の試験の為に王都へ行き、合格して実績を残しリーリエを連れ去った張本人の勇者様の側近まで必ずのし上がり、リーリエを取り戻す事を―――