黒い噂
それから俺と舞衣は首都へと向かった。
その防疫施設とやらは、首都の地下深くに眠っているらしい。
だが俺は、それ以上の情報を舞衣から聞くことができなった。
首都へと向かう電車の中、たくさんの時間があったが、俺は結局舞衣と再び会話することができなかった。
舞衣が見せたその黒い刀の正体を、俺は知っていた。
俺が彼女と出会う前の数日間、ラジオや新聞などでたびたびその黒刀に関するニュースを俺は聞いていたからだった。
「黒い刀を持った女に用心」
という見出しが連日世間を賑わせていた。
なんでも政府高官ばかりを狙った殺人事件が多発しているらしい。さらに残虐非道なことに、その犯人はそれらの家族もろとも拷問の末、惨殺していたというのだ。
そして、その犯人として名前が挙がっていたのが、「黒刀を持つ女」であった。
おそらく、その犯人こそが舞衣なのであろう。舞衣も、そのことを俺が知っていることを見越して、刀を見せたに違いない。
舞衣は目的地を言ってからそのまま、何も話さなかった。
俺はなぜ彼女がそんなことをしなければならなかったのか、理由を知りたかった。だが、ついにはそれを聞くことすらも叶わなかった。その理由を聞いたら、彼女に殺されてしまうのではないかという畏怖の念が、それを邪魔したからである。
いや、そもそもこれから俺たちは、全人類を抹殺しようとしているのだ。たかが人間を数十人殺したところで、それによって何かの感情が芽生えるとしたら、それは間違いだ。そうでなければ、彼女への愛は嘘になる。俺は全人類を殺してまでも彼女を愛すると誓ったじゃないか。何も恐れる必要はない。
俺は自分にそう言い聞かせることしかできなかった。