秘密
「私の父は、選ばれた千人の中の一人だった。」
舞衣の話を聞くところによるとこうだ。
現在、我が国の戦況は敗色が濃厚であり、その事実は相手国はもちろん、自国民までもが把握しているほど明らかである。
しかし、それ自体も政府は計算ずくであった。
2年前、ある軍の研究者が偶然発見したとあるウイルスが発端だ。
それは、たった数秒で人を死に至らしめ、さらにその屍は半径数100メートルに及びそのウイルスをまき散らして感染させるという、究極の生物兵器であった。
しかしながら、それをただ使ったところでは形成逆転にならず、むしろ逆にそれを利用されてとどめを刺されてしまう可能性があった。
そこで、政府はある計画を立てるに至ったのだ。
「それが、人類抹殺計画。」
政府はそれから、軍事費の大半をウイルスを培養する研究費、そしてそれを搭載して全世界へと放つためのミサイルの設備費へと回すことにした。
その結果として、国防費に回す予算が無いために、一見すると劣勢に見えるというだけだったのだ。
しかし、そのウイルスを全世界に放ったところで、それはいずれ自国にも蔓延してしまうことになる。
そこで、政府は併用してそれに耐えうるための施設として、地下に巨大な防疫施設を建設していた。
ところが、ウイルスが完全に死滅するまでの約1年もの間、外に出ることはできないので、その中には1年分ほどの食料などが必要になってくる。
当然、自国民全員をこの中に収めることは、スペース的にも資源的にも不可能である。
よって政府はある計画を、国民には秘密裏に進めることとなった。
「国民の選別よ。」
政府は、その施設に入ることの許される人間を選別していたのだ。
その数は、約千人。
国のトップはもちろん、各大臣に、陸海軍の総長、それから建設資金を多く収めた貴族、その他各方面において活躍を収めた知識人などが、選別の対象となった。
そして、その中に舞衣の父が選ばれたというのだ。
選ばれた人間は、その一親等の中の一人までが一緒に入ることを許可される。
「私の父は、世界最強の剣豪だった。2年前の出兵では、たった一人で敵の軍隊を壊滅させちゃったらしいわ。まぁ、その時のケガでもう退役してるけどね。」
近代戦において、主戦力となる兵器はとっくに刀から銃に取って代わられた時代にもかかわらず、彼女の父は刀のみで挑み、生き延びただけにとどまらず、数百人もの相手を切り殺したという。
「選ばれた人間とその家族は、国の監視下に置かれる。もし、その場から離れたりした場合は、家族もろとも殺されるわ。国家機密を漏らす可能性があるから。でも、私はこのことを初めて聞いた時から、絶対に阻止しなければならないって思ったの。たとえ、家族が犠牲になろうとも・・・」
そして彼女は、監視の目を盗み逃走したうえで、彼女自身の計画を遂行するために必要な人材を探していた、ということらしい。
以上が、彼女から聞いた事の顛末だ。
つまり彼女の計画とは、防疫施設へ二人だけで侵入してミサイルの発射装置を起動させるというものだ。
「しかし、一体どうやって・・・」
国の最高機密に値する代物だ。おそらくそう簡単に入ることは許されないであろう。
さらに、俺は徴兵検査に落ちているほどの軟弱者だ。持病があり、外へもあまり出歩かないために虚弱体質であった。
とても政府へ立ち向かうほどの肉体的資質は持ち合わせていない。
「大丈夫よ。私に任せて。」
そういうと、舞衣はワンピースの中から黒光りする一本の刀を取り出した。