愛
彼女の名前は「舞衣」と言った。
強く生きていくという意味らしい。
俺の親は、名前の意味を聞く前に死んだ。
俺と舞衣は、あれから俺の住んでいる下宿で一緒に暮らすことになった。
町はというと、1週間もすれば元の活気に戻っていくのだった。
被害といえば、家の火事が数件に、街のシンボルの噴水が壊れたことくらいだ。
今までのに比べると、今回のはそれほど大したものではない。
あの日、俺は舞衣から生きる意味を教えてもらった。
舞衣を愛すること、ただそれだけのために生きていくと誓ったのだ。
・・・愛とはなんだ?
そんなに尊いものなのだろうか。
ただ単に、人間が生殖行為をするためのいいわけではないだろうか。
さらに言えば、より良い遺伝子を持つ者との間に子供を授かり、
その子供の容姿や能力の向上を図るために人間が本能的に作り出した幻想にすぎないのではないだろうか。
果たして、俺はそんなことのためだけに生きて、本当にいいのであろうか・・・。
そんなことを考えていると、舞衣が部屋に入ってきた。
「あら、いらっしゃったの。何をお考えで・・・?」
「ん、あいやぁその、今度の週末どこかに遊びに行きたいなぁなんてな」
「あら、嘘おっしゃらないで。あなた嘘をつくときはいつも、目を見開いて左上にそらして、口をとんがらせ、眉をひそめ、歯をむき出しにするじゃありませんか」
確かにその通りであった俺は、嘘を認めた。
「ばれちゃあ仕方ないな。愛だよ。愛について考えていたんだ」
俺は舞衣に、「愛」に尊い意味などないのではということを尋ねた。
「あなたの言うことも一理あるわ。でもね、それはまだ動物的なのよ。人間はもっと高貴な生き物なの。だから、愛にはもっともっと深い意味があるわ。それは人間が誕生してから何百万年とたった末に、ようやく出来上がったものなのですよ。」
舞衣の言っていることはなんとなく分かったが、いまいち腑に落ちなかった。
まだ何かもやもやとした霧のようなものが、心の奥底をふさいでいるようであった。
「ん~まだ理解しがたいなあ。やっぱり、私には「愛」に高尚な意義なんてものは存在しないように感じられる。なにか具体的な例を挙げてくれないか?」
すると舞衣は、自信満々に答えた。
「そんなもの、もうここにあるじゃないの」
なるほどなと思い、俺は舞衣と深いキスをした。