文化祭の音。
若干の心霊表現があります。
文化祭の音。
高校の頃、私は美術部に所属していた。
文化祭は普段の活動発表の場であるとともに、最高の遊び場だった。
日々の活動とは別に、本番一週間前には本格的な準備を始める。
部屋全体を飾り付ける者や、油絵を描く者、割り箸に彫刻をする者、部室の引き戸の前に空き瓶をオブジェのように並べる者、様々だった。
どこか日常とは違う雰囲気でワクワクした。
毎日の放課後が楽しみだった。
下校時刻までの短い時間では作品は完成せず、皆こっそりと遅くまで作業した。
毎日、陽が落ちて警備員に注意され帰宅していた。
そして、私たち美術部には暗黙のルールがあった。
文化祭前日は部室に泊まり込む。最大の楽しみだった。
もちろん禁止されている。警備員に注意をされる。
なので窓に暗幕を張り、室内灯を消し、手元ライトで息を潜め作品を作った。
美術部の部室は、古い校舎の片廊下の突き当たりにあり、入り口は重い木の引き戸だけだった。
建て付けの悪いそれは開けると大きな音がした。
廊下の窓は錆び付いていて開けることはできなかった。
コンクリート敷の廊下は歩くとジャリジャリ砂の音がした。
古い雨樋はポタポタと水の垂れる音がした。
深夜の学校には音が無かった。
私たちが部室に潜んである程度の時間が経ち、無言で作業する中に、ジャリと、廊下を歩く音がした。
緊張してより一層静かになる私たちは耳をすましていた。
ジャリ、ジャリ、ジャリ、
ゆっくりと誰かが片廊下を歩いてくる。
ジャリ、ジャリ、ジャリ、
ゆっくりと誰かが近づいてくる。
そして足音は扉の前で止まり、展示している空き瓶が転がり割れる音がした。
静かな廊下に、その音は突き刺さるように響いた。
怪我があっては大変と急いで扉を開けたが、誰もいなかった。
空き瓶も無事だった。展示したままの状態でソコにあった。
空き瓶だけがあって、何もなかった。
室内にいた全員が音を聞いていたが、気のせいだったことにした。
不気味だったので、その後のトイレは全員で行った。
それ以外は特に問題なく夜は明けた。
早朝、隣の教室から椅子を引く音がした。
誰かが早めに登校してきたようだった。
そんな音を聞きながら、誰も作業の手は止めなかった。
登校時間になったので、私はトイレに行こうと扉の前に立った。
でもその音は突然始まった。
ブンブブ、ブンブブ、ブーン。
バイクの口真似だった。
部室の中に昨晩とは違う緊張感が漂った。
皆の手が止まった。
隣の教室の彼は絶好調だった。
通り過ぎた他の教室は無人。突き当たりの美術部は無言。
音が反響する教室の誘惑に勝てなかったようだ。
私は扉にかけた手を動かすことができなかった。
今、出れば、誰か知らない彼は、きっと、死ぬほど、恥ずかしい。
寝不足の頭にそれだけが浮かんだ。
私は待った。トイレに行きたいのを我慢して、扉の前で息を止め待った。
皆も作業の手を止め息を詰めていた。
それから数分後、彼はゴッ◯ファーザーのパララ、ララララ、ラララララーという曲を大きな声で歌いながら去っていった。
コンクリート廊下に反響する声は、フェードアウトしていった。
昨夜の不審な音は気のせいだけど、今朝のこの音は繊細な取り扱いが必要だと思った。
こうしていろんな音を聞いた私の文化祭は終了した。
後から思い出して、うわーってなる感じ。